ガエミ氏が提唱する「双極性スペクトラム」を理解する上で、最も見逃されやすく、かつ重要なのが**「軽躁(Hypomania)」**の正体です。
軽躁状態は、本人にとっては「人生で最高のコンディション」に感じられるため、自分から医師に訴えることはまずありません。しかし、ガエミ氏は、周囲の人(家族や同僚)から見た**「違和感」**こそが、正しい診断への鍵であると説いています。
周囲から見える具体的な「軽躁状態」のサインを深掘りします。
1. 「エネルギー」の過剰と質の変化
単に元気があるのではなく、エネルギーの「出方」が不自然になります。
- 「多弁」の質が変わる: * 単によく喋るだけでなく、相手が口を挟む隙を与えない「圧迫発話」になります。
- 話の内容が次々と飛び(観念奔逸)、周囲がついていけなくなります。
- 「多動」と不必要な活動: * 普段はやらない大掃除を深夜に始めたり、急に複数のプロジェクトを立ち上げたりします。
- 本人は「効率的だ」と思っていますが、周囲からは「落ち着きがなく、空回りしている」ように見えます。
2. 「対人関係」における攻撃性と自信過剰
ガエミ氏は、軽躁状態の隠れたサインとして**「易怒性(いどせい:怒りっぽさ)」**を重視しています。
- 傲慢な態度: * 自分が万能であるかのような錯覚(誇大性)に陥り、他人の意見を「無能な者の意見」として切り捨てたり、上司や権威に対して不遜な態度を取ったりします。
- 「社交性」の過剰: * 普段なら遠慮するような相手に平気で電話をかけたり、初対面の人と過度に親密になろうとしたりします。
- 攻撃的なユーモア: * 冗談が度を越して、相手を揶揄したり傷つけたりする内容になりますが、本人は「場を盛り上げている」と誤解しています。
3. 「衝動性」と判断力の低下
ガエミ氏は、この状態を**「ブレーキの壊れた車」**に例えます。
- 金銭感覚の麻痺: * 自分の経済状況に見合わない高価な買い物(ブランド品、車、投資など)を衝動的に行います。
- リスクへの鈍感さ: * 危険な運転、無防備な性的接触、突然の退職など、後先を考えない行動が増えます。
- 周囲が「それは危ない」と忠告しても、「君たちは臆病すぎる」と聞く耳を持ちません。
4. 睡眠の「必要性」の減少
これはガエミ氏が最も信頼する指標の一つです。
- 眠れないのではなく「眠らなくて平気」: * 不眠症の人は「眠りたいのに眠れなくて辛い」と言いますが、軽躁の人は「3時間しか寝ていないが、エネルギーに満ち溢れている」と言います。
- 深夜まで活動し、翌朝も一番に動き出している様子は、周囲から見て「超人的だが異常」に映ります。
家族や周囲へのアドバイス
ガエミ氏は、患者本人が「うつ」で受診した際、必ず**「家族からの聞き取り」**を行うことを推奨しています。なぜなら、本人は軽躁期を「本来の自分(の絶好調な姿)」と認識しており、病気だとは思っていないからです。
周囲への質問例:
- 「今のこの状態(うつ)になる前に、別人のように活発で、少し傲慢だった時期はありませんでしたか?」
- 「あの時は、今の彼(彼女)とは正反対で、怖いくらいエネルギーに満ち溢れていませんでしたか?」
結論:軽躁は「才能」か「病気」か
ガエミ氏は、歴史上のリーダー(チャーチルなど)を例に出したように、軽躁状態が創造性や成功をもたらす側面を認めています。しかし、それが**「うつ」という地獄の谷への前触れ**である以上、医学的には「治療対象(安定させるべき状態)」であると強調します。
