ガエミ氏は、双極性スペクトラムを管理する上で、患者自身が「自分の主治医」になることを重視しています。そのための最も強力なツールが**ムード・チャート(気分グラフ)**です。
彼は、診察室での短い会話よりも、数ヶ月にわたるチャートの記録の方が、はるかに正確な情報をもたらすと確信しています。
1. ムード・チャートの具体的なつけ方
ガエミ流のチャート作成では、単に「気分が良い・悪い」を記録するだけでなく、**「波の正体」**をあぶり出すために以下の要素をセットで記録します。
(1) 気分のスコアリング(垂直軸)
中心を「0(安定)」として、上下に数段階で記録します。
- +2〜+3(躁・軽躁): エネルギッシュ、過活動、怒りっぽい、自信過剰。
- 0(正常): 安定。
- -2〜-3(うつ): 意欲低下、絶望感、体が重い、思考停止。
(2) 睡眠時間(重要!)
ガエミ氏が最も重視する指標です。「何時間眠ったか」を棒グラフや数字で併記します。
- 気分が上がる前に睡眠時間が減り始めたら、それは「軽躁」の警告サインです。
(3) ライフイベントと薬
- イベント: ストレス(叱責、失恋)や、ポジティブな刺激(旅行、昇進)をメモします。
- 薬: 薬の種類や量を変えたタイミングを記入します。これにより、「抗うつ薬を増やしたらイライラが始まった」といった相関関係が可視化されます。
2. チャートから「波」を読み解く活用法
ガエミ氏は、チャートをつける目的は日記を書くことではなく、**「パターンを認識すること」**だと言います。
- 「混合状態」の発見:気分は「-2(うつ)」なのに、睡眠時間が極端に短く、頭が回転してイライラしている時期があれば、それは非常に危険な「混合状態」です。これを見つけたら、すぐに医師に相談し、治療方針を調整する必要があります。
- 「季節性」の把握:数年分を重ねて見ると、「毎年10月になると落ち込み、4月に軽躁になる」といった個人のリズムが見えてきます。これが分かれば、調子が悪くなる前に先回りしてリチウムの量を調整したり、予定を減らしたりする「予防」が可能になります。
- 薬の効果の判定:「リチウムを飲み始めてから、波の振幅が明らかに小さくなった」といった変化を視覚的に確認することで、患者自身の治療に対する納得感(アドヒアランス)が高まります。
3. ガエミ氏が勧める「波を安定させる」生活の知恵
チャートで自分の波を把握した上で、ガエミ氏はリチウム以外の「非薬物的な防波堤」を築くよう指導します。
- アンカー(錨)の設定: どんなに気分が「ハイ」でも「ロー」でも、**「毎日必ず同じ時間に外に出て、光を浴びる」**というアンカーを打ちます。
- 「刺激」のフィルタリング: 軽躁になりやすい時期は、あえて「刺激的なイベント(パーティー、深夜のネット、新しいプロジェクト)」を遮断します。
- 「うつ」を悲観しすぎない: チャートを見て「これはいつもの波の底だ」と認識できれば、うつの最中に「もう一生治らない」と絶望するのを防ぐことができます。
まとめ:チャートは「脳の航海図」
ガエミ氏にとって、ムード・チャートは単なる記録ではなく、**「気分の嵐に巻き込まれずに、自分の人生の舵を握り続けるための航海図」**です。
「自分の波の癖を知ることは、病気に支配されるのではなく、病気を管理する側に回ることを意味する」
