「Toward a validation of a new definition of agitated depression as a bipolar mixed state (mixed depression)(双極性混合状態としての激越うつ病(混合性うつ病)の新定義の検証に向けて)」2020

「Toward a validation of a new definition of agitated depression as a bipolar mixed state (mixed depression)(双極性混合状態としての激越うつ病(混合性うつ病)の新定義の検証に向けて)」2020の要約と解説です。

この研究は、「イライラや焦燥感を伴ううつ病は、単なるうつ病ではなく、双極性障害(躁うつ病)の仲間として扱うべきだ」という非常に重要な主張を、データに基づいて検証したものです。


1. 論文の要約

【目的】
「激越うつ病(焦燥感が強いうつ状態)」を、双極II型障害や大うつ病性障害(MDD)における「混合状態(躁とうつが混ざった状態)」の一形態として定義し、その妥当性を調査すること。

【方法】
336名の外来うつ病患者を対象に調査。以下の3つの「興奮症状」のうち、2つ以上がうつ状態と共存する場合を「混合性うつ病(Mixed Depression)」と定義しました。

  1. 精神的緊張(イライラ・過敏)
  2. 精神運動激越(そわそわして、じっとしていられない)
  3. 思考促迫(考えが次から次へと溢れ出す)

【結果】

  • 対象者の約38.6%がこの「混合性うつ病」の定義に当てはまりました。
  • このグループの多く(約77%)は、過去に軽い躁状態(軽躁)を経験したことがある「双極II型」の人たちでした。
  • また、残りの「単極性うつ病」と診断されていた患者も、若年発症、高い再発率、家族に双極性障害がいるなど、双極性障害に近い特徴を強く持っていました。
  • これらの患者には、注意散漫(気が散る)や多弁(おしゃべり)が多く見られましたが、いわゆる「躁病」らしい多幸感や陽気さはほとんど見られませんでした。

【結論】
激越うつ病は、双極性スペクトラム(躁うつ病の性質を持つグループ)に含めるべき「不快な興奮を伴うメランコリー」であると結論づけられました。これを見逃して抗うつ薬だけで治療すると、かえって症状が悪化する危険があり、気分安定薬や非定型抗精神病薬の使用を検討すべきです。


2. 分かりやすい解説

この論文が臨床現場にもたらしたインパクトを、3つのポイントで解説します。

① 「じっとしていられないうつ」は「躁」の混じりもの

普通のうつ病は「動けない、考えがまとまらない」という状態ですが、この論文が注目したのは「苦しくて死にそうに落ち込んでいるのに、体や頭の中はギラギラ・ソワソワと興奮している」という状態です。
著者たちは、これを「うつ」と「躁」の要素が同時に出ている「混合状態」だと見なしました。

② 診断の「罠」:陽気な躁だけが躁じゃない

多くの精神科医は「患者さんがニコニコして絶好調になったことがあるか?」を基準に双極性障害を探します。しかし、この論文は「陽気な時期がなくても、うつ状態の時に激しいイライラや思考の暴走があれば、それは双極性のサインだ」と警告しています。
見た目は「ひどいうつ病」に見えるため、非常に見逃されやすいのです。

③ なぜ「抗うつ薬」だけではダメなのか

ここが最も重要な点です。このタイプの患者さんに抗うつ薬(SSRIなど)のみを処方すると、もともとある「興奮の火種」をさらに煽ることになります。

  • さらにソワソワが激しくなる(アクチベーション)
  • 焦燥感が強まり、自殺のリスクが高まる
  • 気分がさらに不安定になる
    といった悪化を招くことがあります。そのため、リチウムなどの気分安定薬や、興奮を抑えるタイプの抗精神病薬を組み合わせる治療が、より適切である可能性を示唆しています。

結論としてのメッセージ

この論文は、「イライラして落ち着かない、頭が休まらない」というタイプのうつ病を診たとき、医師は「これは双極性のスペクトラム(躁うつの波の一部)かもしれない」と疑うべきだ、と述べています。

もし、うつ病の治療中に「落ち込んでいるのに焦りやイライラがひどい」と感じる場合、それはエネルギーが空回りしている「混合状態」である可能性があり、治療方針を見直す重要なヒントになります。

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