「Mixed features of depression: why DSM-5 is wrong (and so was DSM-IV)(うつ病の混合性の特徴:なぜDSM-5は間違っているのか、そしてDSM-IVもそうだったのか)」2018

「Mixed features of depression: why DSM-5 is wrong (and so was DSM-IV)(うつ病の混合性の特徴:なぜDSM-5は間違っているのか、そしてDSM-IVもそうだったのか)」2018の要約と解説です。

この論文は、双極性障害研究の権威である故アタナシオス・クーコプロス博士らによる、「現代の診断基準(DSM)は、躁とうつが混ざった『混合状態』を正しく捉えられておらず、そのせいで多くの患者が危険にさらされている」という極めて重要な警告です。


1. 論文の要約

【背景】
精神疾患の国際的な診断基準であるDSM(第3版〜5版)は、躁と鬱を「真逆の両極」として分ける考え方に固執してきました。そのため、両者が混ざり合う「混合状態」は長年無視され、稀なものとして扱われてきました。

【DSM-5の決定的な過ち】
DSM-5では「混合性の特徴を伴う」という項目が新設されましたが、著者らはこれを「科学的に妥当性がない」と厳しく批判しています。

  • 重複症状の除外: DSM-5は、躁とうつの両方に見られる症状(イライラ、焦燥感・激越、注意散漫)を、診断基準からあえて除外しました。
  • 矛盾した要求: 代わりに、うつ病の最中に「多幸感(ハッピーな気分)」などの真逆の症状が出ることを要求しています。しかし、苦しいうつ状態の時に陽気になる患者は極めて稀です。
  • 「頭痛のない偏頭痛」: 著者らは、DSM-5の基準を「頭の痛くない偏頭痛を定義しようとするようなものだ」と例えています。最も核心的な症状(焦燥感やイライラ)を無視しているからです。

【真の「混合性うつ病」とは】
著者らの研究では、うつ病患者の約33〜47%に「イライラ」や「ソワソワした興奮」が見られます。これは、脳が鬱で沈んでいる一方で、精神的なエネルギーだけが空回りして「興奮」している状態(混合状態)です。

【不適切な治療の危険性】
この混合状態を見逃して、通常のうつ病と同じように「抗うつ薬」だけで治療すると、焦燥感やイライラがさらに激化し、最悪の場合、自殺のリスクが劇的に高まります。 本来は気分安定薬や非定型抗精神病薬(興奮を静める薬)が必要なケースです。


2. 分かりやすく解説

この論文が何を訴えているのか、ポイントを絞って解説します。

① 「うつ」の裏に隠れた「躁の火種」

普通のうつ病(メランコリー)は、エネルギーが枯渇して動けなくなる状態です。
しかし、この論文が指摘する「混合性うつ病」は、「気分はどん底なのに、頭の中や体のエンジンだけが異常に回転している」状態です。

  • 見た目: イライラ、ソワソワ、貧乏ゆすり、多弁、考えが止まらない。
  • 中身: 絶望感、苦痛、死にたい気持ち。
    この「エネルギーの空回り」こそが「躁(興奮)」の成分であり、これが混ざっているからこそ「混合性」と呼ばれます。

② DSMの基準は「机上の空論」

DSM-5は、「躁とうつを明確に区別したい」という理屈を優先するあまり、実際の患者によく見られる「イライラ」や「焦燥感」を「躁の証拠」として認めませんでした。
その結果、本当は混合状態なのに「ただの重いうつ病」と診断されてしまう人が大量に発生しています。

③ なぜ「抗うつ薬」が怖いのか

うつ病の治療でよく使われるSSRIなどの抗うつ薬は、気分を持ち上げる(アクセルを踏む)薬です。
しかし、混合状態の人はすでに「負のエネルギー」でエンジンが過回転しています。そこに抗うつ薬を投入するのは、「暴走して火を吹きそうなエンジンにガソリンを注ぐ」ようなものです。
これが、治療中に突然パニックになったり、衝動的に自殺を図ったりする「アクチベーション(賦活症候群)」の正体の一つだと著者らは考えています。

④ 著者らが提案する新しい見方

著者らは、以下の症状がある場合は「混合性うつ病」を疑い、抗うつ薬単独の治療を避けるべきだと言っています。

  • 内面の強い緊張、イライラ、怒り
  • 考えが次から次へと溢れて止まらない(思考促迫)
  • じっとしていられない(激越)
  • ひどい不眠

結論としてのメッセージ

この論文は、「イライラして落ち着かないうつ病は、普通のうつ病とは別物であり、より慎重な薬の選択が必要だ」ということを、全精神科医に向けて発信したものです。

もし、あなたが「落ち込んでいるけれど、妙にソワソワして落ち着かない」「イライラが止まらない」と感じているなら、それは単なるうつ病ではなく「混合状態」かもしれません。その場合、治療の鍵は「気分を上げること」ではなく、まずは「過剰な興奮を静めること」にある、というのがこの論文の教えです。

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