「精神疾患とその後の認知症リスク」の関係を調査した大規模な系統的レビューおよびメタ解析(2022年発表)です。57件の質の高い縦断的研究データを統合し、うつ病、不安症、PTSD、双極性障害、精神病性障害が将来の認知症リスクにどう影響するかを明らかにしています。
Psychiatric disorders and risk of subsequent dementia:Systematic review and meta‐analysis of longitudinal studies 2022
1. 研究の全体像
これまでの研究では「精神疾患があると認知症になりやすい」と言われてきましたが、結果にばらつきがあり、その性質(原因なのか、初期症状なのか)も不明確でした。この研究は、世界中の膨大なデータを統合し、各疾患ごとの「相対リスク(RR)」を算出しました。
2. 疾患別の主な結果
研究の結果、ほとんどの精神疾患において認知症リスクの有意な上昇が認められました。
- うつ病(最も多くのデータ:33件)
- 全認知症リスク: 1.96倍
- アルツハイマー型: 1.90倍
- 血管性認知症: 2.71倍(特にリスクが高い)
- 特徴: 症状が「重症」である場合や、「高齢になってから発症(晩期発症)」した場合に、より強い関連が見られました。
- 双極性障害(BPD)
- リスク: 複数の研究で一貫して上昇(研究により2.3倍〜7.5倍と幅がある)。
- 特徴: 入院回数が多いなど、症状が重いほどリスクが高まる「用量反応関係」が示唆されました。
- 精神病性障害(統合失調症など)
- リスク: 2.19倍
- 特徴: 特に高齢になってから統合失調症のような症状が出た場合(VLOSLP)、その直後に認知症と診断されるケースが非常に多いことが分かりました。
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
- リスク: 約1.7倍〜4.3倍(研究による)。うつ病を併発しているとさらにリスクが高まります。
- 不安症
- 今回の解析では、統計的に明確な全体的関連は見つかりませんでした(結果が混在しています)。
3. 重要な議論:「原因」か「初期症状」か?
この研究で最も注目すべき点は、「精神疾患の診断から認知症発症までの期間」による違いです。
- 逆の因果関係(前駆症状)の可能性:
「うつ病診断から認知症発症までが8年以内」の研究ではリスクが非常に高く出ましたが、「15年以上」の長期追跡ではリスクが低下(1.46倍)しました。 - 解釈:
これは、高齢になってからのうつ病や精神病症状のいくつかは、認知症の原因というよりも、「認知症が始まる際の初期症状(前駆症状)」そのものである可能性を示唆しています。一方で、15年以上の追跡でもリスクが残っていることから、精神疾患が脳にダメージを与え、認知症の「原因(リスク要因)」になっている側面も否定できません。
4. なぜリスクが高まるのか?(メカニズムの推測)
論文では、以下の可能性が挙げられています。
- 心血管の健康: 精神疾患に伴う生活習慣の乱れが、血管性認知症のリスクを上げる。
- 炎症: 精神疾患による慢性的な炎症が、脳の神経変性を進める。
- ストレス: 高いストレスホルモン(コルチゾール)が脳の海馬を萎縮させる。
- 認知予備能: 精神疾患により脳のネットワークの活用能力(予備能)が下がり、認知症の症状が出やすくなる。
5. この研究が示唆する結論
- ハイリスク群の特定: 精神疾患を持つ人々は、認知症の「ハイリスク群」として、継続的なモニタリングが必要です。
- 早期発見の重要性: 特に高齢になってから初めて「重いうつ病」や「幻覚・妄想」が出た場合は、単なる精神疾患ではなく、認知症の始まりを疑って慎重に経過を見る必要があります。
- 介入の可能性: 精神疾患を適切に治療・管理することが、将来の認知症予防につながるかどうか、さらなる研究が期待されます。
まとめ
以前の「光感度」や「アミロイドβ」の論文と合わせると、「双極性障害などの精神疾患は、単なる気分の問題ではなく、脳の生物学的な老化や変性と深く結びついており、それが将来の認知症リスクとして現れる」という一貫したストーリーが見えてきます。精神疾患の管理は、将来の脳の健康を守るためにも極めて重要であると言えます。
