SNS社会と弱者攻撃
――アルゴリズムは躁を加速する
1.SNSは「脳」に最適化されている
SNSは人間存在全体ではなく、
報酬系に最適化されている。
・即時反応
・数値化(いいね、リポスト、フォロワー)
・拡散速度
・炎上の可視化
これらは前頭前野の熟慮よりも、
扁桃体と報酬系を刺激する設計である。
つまりSNSは、
DNA主義(長期的関係)ではなく、脳主義(即時刺激)を強化する装置である。
2.なぜ弱者攻撃は拡散しやすいのか
アルゴリズムは「強い感情」を優先する。
怒り
軽蔑
嘲笑
これらは拡散力が高い。
弱者は反撃しない。
だから攻撃は増幅されやすい。
ここで起きるのは、
攻撃 → 注目 → 承認 → 快感 → さらなる攻撃
という躁的ループである。
SNSはこの循環を構造的に強化する。
3.SNSと躁うつ循環
SNS空間は、社会全体の気分を増幅する。
躁的相
- 正義の過剰
- 敵の可視化
- 強者への同一化
- 集団的興奮
炎上は躁状態の典型である。
善悪の単純化。
敵の悪魔化。
自己の全能感。
これはメラニー・クラインのいう妄想分裂ポジションに近い。
うつ的相
- キャンセル後の虚無
- 集団的疲労
- 無力感
- 「何も変わらない」という諦念
躁的攻撃の後には、
うつ的消耗が訪れる。
SNSはこの振幅を縮めるどころか、
極端化させる。
4.投影の高速化
精神分析的に見ると、SNSは投影装置である。
匿名性
物理的距離
身体的共鳴の欠如
これにより、他者は「スクリーン上の記号」になる。
身体が共鳴しないとき、
惻隠の心は作動しにくい。
メルロ=ポンティ的に言えば、
身体的相互性が断たれている。
その結果、
内なる弱さを外部に投げやすくなる。
SNSは投影を即時に承認してくれる。
5.「恥」の消失
伝統社会では、恥は対面関係の中で生じた。
SNSでは、
- 観客は巨大だが身体は不在
- 相手の顔が見えない
- 即時承認が得られる
このとき恥は機能しにくい。
恥とは、関係の中で生じる調整装置である。
関係が希薄化すると、
攻撃のブレーキも弱まる。
6.DNA主義から見たSNS
進化的に見ると、人間は小規模集団での相互監視・協力に適応してきた。
しかしSNSは、
- 数万人規模の擬似集団
- 即時評価
- 長期的責任の希薄化
という環境である。
この環境では、
利他よりも短期的優越が有利に見える。
しかし長期的には、
- 信頼の低下
- 分断の固定化
- 集団的協力の崩壊
を招く。
7.人間学的精神療法からの問い
問題はSNSそのものではない。
問題は、
私たちが自分の弱さにどれだけ耐えられるか
である。
弱さを否認すれば、
SNSは躁を増幅する。
弱さを引き受けられれば、
SNSは連帯の道具にもなり得る。
人間学的精神療法は言う。
まず、自分の不安を見ること。
次に、他者の不安を想像すること。
そして、関係を回復すること。
統合的結論
SNS社会は、
- 脳主義を加速する
- 投影を高速化する
- 躁うつ振幅を拡大する
装置である。
しかし人間の本性は、
依然として関係的存在である。
惻隠の心は消えていない。
ただ、騒音にかき消されているだけである。
弱者をいじめる投稿は、
社会の躁の症状である。
それに加担するか、
振幅を緩める側に立つか。
SNSは試験場である。
