Neurobiological basis of bipolar disorder: Mitochondrial dysfunction hypothesis and beyond

Neurobiological basis of bipolar disorder: Mitochondrial dysfunction hypothesis and beyond Tadafumi Kato 1 Affiliations expand PMID: 27839913 DOI: 10.1016/j.schres.2016.10.037 Free article Abstract Bipolar disorder is one of two major psychotic disorders together with schizophrenia and causes severe psychosocial disturbance. Lack of adequate animal models hampers development of new mood stabilizers. We proposed a mitochondrial dysfunction hypothesis and have been studying the neurobiology of bipolar disorder based on this hypothesis. We showed that deletions of mitochondrial DNA (ΔmtDNA) play a pathophysiological role at least in some patients with bipolar disorder possibly by affecting intracellular calcium regulation. Mutant polymerase γ transgenic mice that accumulate ΔmtDNA in the brain showed recurrent spontaneous depression-like episodes which were prevented by a serotonin-selective reuptake inhibitor and worsened by lithium withdrawal. The animal model would be useful to develop new mood stabilizers.

Keywords: Animal model; Bipolar disorder; Calcium; Mitochondrial DNA; Paraventricular thalamic nucleus.

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2017年に発表された、日本の双極性障害研究の第一人者である加藤忠史博士による論文『Neurobiological basis of bipolar disorder: Mitochondrial dysfunction hypothesis and beyond(双極性障害の神経生物学的基盤:ミトコンドリア機能障害仮説とその先)』の要約と詳しい解説をまとめます。

この論文は、双極性障害の原因を「脳のエネルギー工場」であるミトコンドリアの異常に求める画期的な説を提唱し、それを証明するための動物モデルを開発した経緯を述べています。


論文要約

1. 背景と目的

双極性障害(BD)は重篤な精神疾患ですが、その根本的な原因(病態)はまだ解明されていません。最大の障害は、人間の双極性障害の「周期性(再発を繰り返す性質)」を再現できる適切な動物モデルが存在しないことでした。著者は、「ミトコンドリアの機能障害」がBDの本質であるという仮説を立て、研究を行ってきました。

2. ミトコンドリアDNA欠失の発見

加藤博士らは、一部の双極性障害患者の脳において、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の欠失が蓄積していることを示しました。ミトコンドリアは細胞内のカルシウム濃度を調節する役割も担っており、mtDNAの異常がこの調節機能を狂わせている可能性を指摘しました。

3. 画期的な動物モデル「Polgマウス」の開発

mtDNAを修復・複製する酵素(ポリメラーゼγ:Polg)に変異を持たせた「トランスジェニックマウス」を作成しました。このマウスは脳内にmtDNAの欠失が徐々に蓄積していきます。

  • 特徴: このマウスは、人間のように自然に、かつ繰り返し(再発性)うつ状態のようなエピソードを示しました。
  • 薬理反応: このエピソードは抗うつ薬(SSRI)で防ぐことができ、またリチウム(気分安定薬)の中断によって悪化しました。これは人間の双極性障害の臨床経過と非常によく似ています。

4. 結論

この動物モデルは、双極性障害の新しい治療薬(気分安定薬)を開発するための強力なツールとなり得ます。また、ミトコンドリアとカルシウム調節の異常が、BDの病態の核心である可能性を強く支持しています。


詳しく解説:ミトコンドリア仮説の重要性

この論文の内容を、より深い視点から3つのポイントで解説します。

① なぜ「ミトコンドリア」なのか?

従来の精神医学は、ドーパミンやセロトニンといった「神経伝達物質」の過不足に注目してきました。しかし、加藤博士の仮説はより根本的です。
神経細胞が情報をやり取りするには莫大なエネルギーが必要です。ミトコンドリアに欠陥があると、細胞はエネルギー不足に陥り、神経伝達を一定に保つための「安定性」を失います。「エネルギー供給の不安定さが、気分の不安定さにつながる」というのがこの説の直感的な理解です。

② カルシウム調節:躁とうつのスイッチ

ミトコンドリアの重要な役割の一つに「カルシウムイオンの貯蔵」があります。

  • 細胞内のカルシウム濃度は、神経の興奮を引き起こすスイッチです。
  • ミトコンドリアが壊れてカルシウムをうまく吸い込めなくなると、細胞内のカルシウム濃度が異常に高まったり、不安定になったりします。
    これが、以前の回答で触れた「プリン系(アデノシン)」の欠乏や「高血圧仮説」ともリンクしてきます。すべては「細胞の興奮を制御するブレーキが利かなくなる」という点で共通しています。

③ 「再発」を再現したことの凄さ

これまでの多くの動物モデルは、薬物で無理やり躁状態にしたり、ストレスを与えてうつ状態にしたりする「一時的な状態」を作るものでした。
しかし、加藤博士の「Polgマウス」は、「何もしなくても自発的に躁とうつを繰り返す」という、双極性障害の最も診断において重要な周期性を世界で初めて再現しました。リチウムを止めたときに症状が悪化するという点も、人間の患者で見られる「リチウム離脱による再発」と一致しており、モデルとしての精度が極めて高いことを意味しています。

「躁病先行仮説」とのつながり

この論文自体は「うつ状態のようなエピソード」に言及していますが、加藤博士のその後の研究(室傍核の研究など)では、脳の一部の過剰な活動(躁的プロセス)が、全体のシステムの破綻を招くという視点が強化されています。

「ミトコンドリアの機能障害により、神経細胞が過剰な活動(躁)を抑えきれなくなり、その結果としてエネルギーが枯渇し、システムがダウン(うつ)する」という流れは、クコプロスの「躁病先行仮説」を細胞内のエネルギー代謝の観点から物理的に裏付けるものと言えます。

まとめると:
この論文は、双極性障害を「心の問題」や単なる「伝達物質の過不足」ではなく、「脳細胞のエネルギー工場とカルシウム調節システムの生物学的な故障」として定義し、それを動物で証明した、現代精神医学における金字塔的な研究です。

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