「ただ横になっているだけ」のリラックスから、一歩進んだ「積極的なリラックス」へ。
最新の心理療法として注目されるマインドフルネスの視点を加え、しなやかに元に戻れる心身を作るためのテクニックを詳しく解説します。
ストレスに負けない「復元力」を作る:自律訓練法とマインドフルネスの力
私たちは日々、多くのストレスにさらされています。仕事のプレッシャー、対人関係の悩み、あるいは「また失敗したらどうしよう」という予期不安。
こうした時、私たちの心と体は、まるで「凹んだアルミ缶」のようになってしまいます。一度強い圧力がかかると、なかなか元の形に戻ることができません。
一方で、理想的なリラックス状態とは、「軟式テニスのボール」や「赤ちゃんの肌」のような状態です。圧力がかかって一時的に凹んでも、すぐに自ら元の形にポンと戻る。この「復元力(レジリエンス)」を高めるトレーニングが、今回ご紹介する積極的リラクゼーションです。
1. 「積極的リラクゼーション」とは何か?
リラックスといえば、寝転がってテレビを眺めるような「消極的な休息」を思い浮かべるかもしれません。しかし積極的リラクゼーションはそれとは違う、「もっと生き生きとした」状態を指します。
筋肉をゆるめ、脳をリセットする
1920年代、エドモンド・ジェイコブソン博士は、「不安を感じている時、筋肉は必ず緊張している」という事実に着目しました。それならば、逆に「筋肉を意図的にゆるめることができれば、脳の緊張も解けるはずだ」と考えたのです。
身体を変化させれば、脳が変化します。脳が変われば、自律神経系、内分泌系、免疫系を介して、全身に良い変化が起こります。これは副作用のない、自分で行える究極のメンテナンス法です。
2. 心の「懐中電灯」を自由に動かす:マインドフルネスの視点
なぜこれらのトレーニングが、不安や「とらわれ」に効果的なのでしょうか。
心の中を「真っ暗な洞窟」だと想像してみてください。
- 不安・とらわれの状態: 懐中電灯が、洞窟の中にある「不安」という立て札だけを照らして、そこから動かせなくなっている状態です。「別のところを見よう」と思っても、光が吸い寄せられてしまいます。
- マインドフルネスと自律訓練法の効果:
まず、自分の懐中電灯が「不安」を照らしていることに「気づく」こと(マインドフルネス)。そして、練習によってその光を自分の意思で別の場所に向けられるようになります。「不安はあるけれど、手の温かさや呼吸の波といった別の感覚もここにある」と、今この瞬間の事実を受け入れられるようになるのです。
さらに熟達すれば、光の範囲を広げ、洞窟全体(心全体)を一度に見渡せるようになります。これが禅やマインドフルネスで目指す、ジャッジのない「あるがまま」の境地です。
3. 実践:呼吸集中法と自律訓練法
基本は「調身(姿勢を整える)」「調息(呼吸を整える)」「調心(心を整える)」です。
もっとも手軽な「呼吸集中法(マインドフルネス呼吸)」
自律訓練法が難しく感じる方にもおすすめの、自分で簡単にできる方法です。
- 姿勢: 椅子に腰掛けるか横になります。体のどこにも余分な力が入っていない「自然な姿勢」にします。
- 呼吸: ゆっくりと腹式呼吸をします。鼻から吸って、口から細く長く吐く。
- 観察: 吐く息を長めに、「1……2……」と数え、10まで行ったらまた1に戻ります。
- 手放す: 雑念が浮かんだら「あ、今雑念が浮かんだな」と気づくだけでOKです。評価せず、ただやり過ごして、また呼吸の数に意識を戻します。
自律訓練法(初級編)
呼吸を緩やかにしながら、自分に「自己暗示(公式)」を与えていきます。
- 第1公式:「両腕・両脚が重たい……」
- 第2公式:「両腕・両脚が温かい……」
これだけでも、手の血管が広がり、副交感神経が優位になることが科学的に証明されています。
4. トレーニング時間と効果
一回の練習時間によって、得られる効果が異なります。
- 3分〜5分: 心身がゆるむ「リラクゼーション効果」。
- 10分〜20分: 頭がスッキリし、エネルギーが湧いてくる「アクティベーション効果」。
- 3ヶ月〜4ヶ月(継続): 血圧の安定、体質改善、ストレス耐性の向上など、一生ものの「復元力」が身につきます。
5. 注意点:合わない人・中止すべき時
素晴らしい効果のあるトレーニングですが、以下のような場合は注意が必要です。
- 合わないケース: 非常に暗示にかかりにくい性格の方や、過呼吸になりやすい方。
- 中止すべき時: 目を閉じると不快なイメージや妄想が次々に湧いてきて、それに圧倒されてしまうような場合は、無理に行わず中止してください。
おわりに
自律訓練法やマインドフルネスは、特別な道具も場所も必要ありません。
通勤電車の中、会議の待ち時間、あるいは寝る前の数分間。自分なりに時間を決めて習慣化することで、あなたの心の「懐中電灯」はより明るく、広く照らせるようになります。
症状をゼロにすることだけが治療ではありません。「症状を抱えつつも、今この瞬間に自分ができることに知恵を絞る」こと。それこそが、人間的な知恵であり、健やかな生き方ではないでしょうか。
当院でも具体的な指導を行っていますので、気になる方はぜひ一度体験してみてください。
