18.治療反応性の観点からみた統合失調症とうつ病の差異と共通性


18. 治療反応性の観点からみた統合失調症とうつ病の差異と共通性

はじめに

統合失調症とうつ病は、精神病性障害および気分障害として古くから対比されてきたが、近年では両者に共通する治療手段や、症状のスペクトラム的な重なりが注目されている。とりわけ治療反応性の観点から見ると、両者の類似点と相違点が浮かび上がり、診断分類のあり方や今後の治療戦略に対して示唆を与える。

本章では、薬物療法・身体療法・心理社会的介入における反応性の違いと共通性に焦点を当て、治療反応性の視点から両疾患の病態の理解を深めることを目的とする。


抗精神病薬と抗うつ薬の基本的な反応性の違い

伝統的に、統合失調症には抗精神病薬、うつ病には抗うつ薬という薬剤選択が行われてきた。統合失調症における抗精神病薬の効果は、特に陽性症状(妄想や幻覚)に対して明瞭である一方、陰性症状や認知機能障害に対しては限定的である。うつ病では、SSRIやSNRIといった第二世代抗うつ薬が標準的治療とされるが、重症例では寛解率が必ずしも高くなく、寛解に至らない部分反応も多い。

STAR*D研究(Rush et al., 2006)では、第一段階のSSRI投与で寛解に達したうつ病患者は約30%に過ぎず、複数段階にわたる治療の必要性が示唆された。これは、うつ病においても治療抵抗性が一定の割合で存在することを示している。


治療抵抗性の概念とその意義

近年、うつ病にも「治療抵抗性うつ病(TRD)」という概念が定着し、複数の抗うつ薬に反応しないうつ病に対して、増強療法や身体療法が検討されるようになってきた。一方、統合失調症にも「治療抵抗性統合失調症(TRS)」が存在し、クロザピンがその第一選択とされている。

このような治療抵抗性の存在は、両疾患において症状の強度だけではなく、病態生理の異質性や、多様な病型の存在を示唆する。


増強療法における相互乗り入れ

近年の臨床実践において、抗精神病薬がうつ病治療において「増強療法」として広く用いられるようになってきた。アリピプラゾールやクエチアピンなど、非定型抗精神病薬の低用量使用は、治療抵抗性うつ病に対する有効性が認められ、FDAや日本のガイドラインでも適応となっている。

逆に、統合失調症において気分症状が顕著な例では、気分安定薬や抗うつ薬が併用されることもあり、症候ベースでの柔軟な治療戦略が求められている。

このような薬物使用の「相互乗り入れ」は、診断概念の固定的な運用を相対化し、治療反応性に基づいたアプローチの必要性を浮き彫りにしている。


身体療法における共通点と差異

電気けいれん療法(ECT)は、重症うつ病に対して高い治療効果を示す古典的かつ有効な手段である。近年では、統合失調症における難治性陽性症状や緊張型症状に対してもECTが適応されることがあり、その効果も一定の報告がある(Petrides et al., 2015)。

また、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)も、うつ病に対して保険適用となり、治療抵抗性例への新たなオプションとなっている。一部研究では統合失調症の陰性症状に対してもrTMSの効果が模索されているが、効果の再現性には課題がある。


心理社会的介入の反応性

認知行動療法(CBT)は、うつ病に対して確立されたエビデンスを持つ心理療法であり、薬物療法との併用による寛解率の向上が報告されている。一方、統合失調症においても幻覚や妄想への対処、再発予防の目的でCBTが用いられており、特にイギリスにおける研究ではNICEガイドラインに明記されるなど注目されている。

治療反応性という点では、心理社会的治療に対する反応も個人差が大きく、病前性格や社会的支援の状況なども大きく影響する。


終わりに:治療反応性から見た疾患概念の再考

統合失調症とうつ病は、治療反応性において異なる面と共通する面を併せ持つ。これらの知見は、両者が明確に分かれた疾患であるというより、ある程度のスペクトラム上に存在していることを支持する。診断分類に依存しすぎず、患者個人の病像と治療反応を総合的に把握する「トランスディアグノスティック」な視点が、今後さらに重要となるだろう。


参考文献

  • Rush, A. J., et al. (2006). Acute and longer-term outcomes in depressed outpatients requiring one or several treatment steps: a STARD report*. American Journal of Psychiatry, 163(11), 1905–1917.
  • Petrides, G., et al. (2015). ECT response in patients with treatment-resistant schizophrenia: a prospective study. American Journal of Psychiatry, 172(1), 52–58.
  • Fava, M., & Davidson, K. G. (1996). Definition and epidemiology of treatment-resistant depression. Psychiatric Clinics of North America, 19(2), 179–200.
  • National Institute for Health and Care Excellence (NICE). (2014). Psychosis and schizophrenia in adults: prevention and management (CG178).

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