自閉症は心の理論の機能減退であり、統合失調症の一部は心の理論の機能過剰であるとの話題であるが、どう考えたらいいか。
心の理論という言葉はいろいろ難しいので、「他者の心理を推測する能力」としよう。
サリーとアンの課題で有名。
https://theprompt.jp/2019/12/theory_of_mind/
自閉症ではここに問題があると昔から言われている。
そして、被害妄想などでは、これが過剰なのではないかとの推定がある。
それも理由のある推測だと思うが、少し粗雑かもしれない。
推測が過剰であるとするか、推測が間違っているとするかでは、かなり違いがある。
以前からの説では、人間は、状況に対して、いろいろな推定をする。状況意味失認を考えた人もいた。
大学の教室で、講義が終わって、生徒が帰った後、机の上に、財布を発見したとする。その財布は、誰かが置き忘れたもので、落とし物として届けるのがいいのか、あるいは、たぶんその人がとりに来るだろうから置いたままがいいのか、なにか席取のようなものなのか、状況の意味を考えることがあるとして、その推定が間違っている、というような意味である。
人間は、そうした状況のたびに、何かを推定して、現実の成り行きを見守って、自分の推定が正しかったかどうか検討し、状況の意味を推定するための手掛かりはどんなことがあるのかを学習する。
そのようにして学習が積み重なれば、自分の置かれた環境の中では、どのような推定が有効なのか、次第に分かるようになる。
つまり、推定→現実と照合→訂正 のプロセスが続き、推定は次第に有効なものになる。
被害妄想では、照合と訂正のプロセスに障害があるのだろうと言われてきた。
このことと、「他人の心を推定する能力の過剰」とは同じではない。
いろいろと推定するが、訂正できないのである。だから、間違いが続く。適応不全になる。
「他人の心を推定する能力の過剰」があっても、現実と照合して、訂正できれば、問題はないだろう。
「サリーとアンの課題」は、他者の心の状態(信念、意図、感情など)を理解する能力、つまり「心の理論」 を調べるために、心理学者のウタ・フリスとサイモン・バロン=コーエン、アラン・レスリーによって1985年に開発された古典的な実験課題です。特に、自閉症スペクトラム障害を持つ人が、定型発達の人と比べて他者の心の状態を理解することが難しい という仮説を検証するために用いられました。
課題の内容
課題は、通常、以下のような物語とイラストを使って行われます。
- サリーとアンの紹介: サリーとアンという2人の女の子が登場します。
- サリーのビー玉: サリーはビー玉を持っています。
- サリーのビー玉隠し: サリーは自分の持っている箱の中にビー玉を隠します。
- サリーの外出: サリーは遊びに行きます。
- アンのいたずら: サリーがいない間に、アンはサリーの箱からビー玉を取り出し、自分の持っている別の箱(またはかご)の中に隠します。
- サリーの帰宅: サリーが戻ってきます。
- 質問: ここで、被験者(通常は子ども)に以下の質問をします。 「サリーはどこで自分のビー玉を探すでしょう?」
正答と誤答
- 正答: サリーは、自分がビー玉を隠した場所、つまり自分の箱の中を探すでしょう。なぜなら、サリーはアンがビー玉を移動させたことを知らないからです。サリーの心の状態(誤った信念)を理解できていれば、この答えになります。
- 誤答: サリーは**アンの箱の中(またはかごの中)**を探すでしょう。この答えは、被験者が自分の知っていること(ビー玉がアンの箱の中にあること)に基づいて答えてしまい、サリーの心の状態(ビー玉は自分の箱の中にあるという誤った信念)を理解できていないことを示唆します。
課題の意義と結果
この課題は、以下の点を示唆しました。
- 定型発達の4歳程度の子ども は、通常、サリーの誤った信念を理解し、正しく答えることができます。
- 一方、自閉症スペクトラム障害を持つ多くの子ども は、自分の知っている事実に基づいて答えてしまい、サリーの心の状態を理解することが難しい傾向がありました。
この結果は、自閉症スペクトラム障害の特徴の一つとして、「心の理論」の獲得の遅れや困難さ がある可能性を示唆するものとして、大きな注目を集めました。
補足
- サリーとアンの名前や、ビー玉の代わりに他の物を使うなど、課題にはいくつかのバリエーションがあります。
- この課題は、心の理論の発達段階を調べるための数多くの研究で用いられてきました。
- 近年では、より複雑な心の理論を評価する課題も開発されています。
「サリーとアンの課題」は、他者の心の状態を理解する能力という、社会的な相互作用において非常に重要な認知機能の発達を理解する上で、画期的な研究となりました。