この80兆円の話の続きですが、例えば、日本側企業で1兆円用意して、米国に投資、米国に工場を作って、1000億円の利益が出たとして、報道では米国が9割、日本が1割などと言われていますが、企業の利益の9割を米国がとるとはどういう意味でしょうか。
「米国が9割、日本が1割」という報道や議論が指しているのは、現金を直接奪われるという意味ではなく、その投資によって生み出される「経済波及効果(付加価値)」がどこに落ちるか、という構造の問題です。
なぜ「利益のほとんどを米国に持っていかれる」と言われるのか、その内訳を整理すると、今の日本の立ち位置が見えてきます。
1. 「利益」の手前で、お金は米国に落ちる
1兆円かけて米国に工場を作った場合、1000億円の「利益(最終的に会社に残る儲け)」が出るまでには、膨大なコストがかかります。
- 人件費: 米国人労働者に支払われる給料。
- 材料・部品代: 米国内のサプライヤーから買う部品代。
- エネルギー・税金: 米国に支払う電気代や固定資産税、法人税。
これらはすべて「米国の国内総生産(GDP)」となり、米国人を豊かにします。この時点で、投資が生み出す価値の大部分はすでに米国国内で循環しています。
2. 「9割対1割」の内訳の正体
報道で言われる「9:1」という比率は、おそらく以下の2つの視点を指しています。
① 経済波及効果の視点
ある事業が地域社会に与える影響を100とした場合、
- 米国(90): 雇用創出、現地の消費拡大、インフラ整備、地方税収。
- 日本(10): 日本の本社に入る「配当金」や「技術ライセンス料」のみ。
つまり、「日本人の金(投資)で、米国人を豊かにしているだけではないか」という批判です。
② 内部留保(再投資)の視点
米国で稼いだ1000億円の利益のうち、日本に「送金(還流)」されるのはごく一部です。
- 多くの場合、その利益は米国内での次の工場建設や、米国企業の買収に使われます。これを「現地での再投資」と呼びます。
- 数字上は「日本企業の資産」が増えていますが、そのお金は日本国内に回ってこないため、日本で暮らす私たちには恩恵が届きません。これが「日本は1割(またはそれ以下)」と言われる実態です。
3. なぜ日本企業はそんな損に見えることをするのか?
ここが「搾取・収奪」に見えるポイントですが、企業側には「そうせざるを得ない理由」があります。
- 関税と政治圧力: 米国で売るものを日本で作って輸出すると、高い関税をかけられたり、政治的に叩かれたりします。「米国で売りたいなら、米国で雇え」という強い圧力(バイ・アメリカン政策など)があるため、企業は生き残るために米国へ投資せざるを得ません。
- 市場の魅力: 日本国内は人口減少で市場が縮小していますが、米国は人口が増え続けています。企業としては「日本に投資しても儲からないが、米国なら儲かる」と判断します。
4. これを「収奪」と呼ぶべきか?
歴史的な「植民地からの収奪」は、宗主国が属国から資源を奪うことでした。
今の日本と米国の関係を批判的に見る人々は、これを「逆転した収奪」と呼びます。
つまり、「日本が、自国の資本を差し出して、米国の雇用と経済を支えさせられている」という構図です。
- 日本国民の視点: 日本国内の工場が閉鎖され、雇用が失われ、税収も増えない。「搾取」と感じるのは当然の感覚です。
- 日本政府の視点: 米国の経済を支えることで、安全保障(守ってもらうこと)を担保しようとする「防衛費の代わり」のような側面があります。
結論
ご質問の「9:1」という話は、「日本が出した資本(80兆円)が、結果として米国の労働者や地域経済を潤すこと(9割)に使われ、日本国内の国民に還元される分(1割)があまりにも少ない」という経済的な「空洞化」を指摘したものです。
「日本の富が、日本の外で、他国の経済のために回っている」という、現在の日本が抱える非常に歪んだ構造が反映されています。
「逆転した収奪」という言葉は、歴史的な「植民地支配」や「帝国主義」の構造と比較すると、その異常さがよく見えてきます。
何がどう「逆転」しているのか、大きく3つのポイントで説明します。
1. 「強者が弱者から奪う」のではなく「弱者が強者に差し出す」
歴史上の一般的な「収奪(植民地支配)」は、以下のような形でした。
- 伝統的: 武力を持つ強国(宗主国)が、弱い国(植民地)から資源や労働力を安く奪い、自分の国を豊かにする。
しかし、現在の日米関係で見られる構図は、その主従関係と富の移動が逆転しています。
- 現在: 経済成長が止まり、国民が貧困化している日本(相対的な弱者)が、世界最強の覇権国であるアメリカ(強者)の経済を維持するために、巨額の資金(80兆円など)を差し出している。
- 逆転のポイント: 「奪い取る側」が豊かになるために「与える側」が身を削っているのではなく、「与える側(日本)」が、相手(米国)の機嫌を損ねないために、自国の豊かさを差し出しているという点です。
2. 「資源を自国へ持ち帰る」のではなく「自国の資本を外へ捨てる」
かつての帝国主義では、略奪した金銀や資源を「自分の国」に持ち帰って、自国のインフラを整えました。しかし、今の日本の投資は逆です。
- 伝統的: 外国で稼いだものを、本国に持ち帰って豊かになる。
- 現在: 日本国内に投資して給料を上げるのではなく、アメリカに工場を建て、アメリカ人を雇い、アメリカに税金を払う。
- 逆転のポイント: 本来なら自国の国民を救うために使うべき資本を、あえて外(米国)に流出させ、そこで固定(現地化)させてしまう。 日本国内は空洞化してボロボロになる一方で、アメリカのインフラや雇用が日本の金で整っていくという「あべこべ」が起きています。
3. 「支配のための暴力」ではなく「従属のための自発」
かつての収奪は「銃」を突きつけて行われましたが、今は「経済の仕組み」と「外交の圧力」で行われます。
- 伝統的: 無理やり奪う(暴力による支配)。
- 現在: 日本政府が自ら「投資します」と約束し、日本の民間企業も「国内よりアメリカの方が儲かるから」と自発的に資金を移す。
- 逆転のポイント: 誰かに直接命令されて財布からお金を抜かれるのではなく、「そうしなければ生きていけない(あるいはアメリカに守ってもらえない)」という強迫観念や構造によって、自ら進んで富を差し出している。 傍目には「自由な投資」に見えるため、搾取されている実感が湧きにくい仕組みになっています。
まとめ:何が逆転しているのか
一言で言えば、「貢(みつ)ぎ物」の構造の逆転です。
本来、投資とは「自分が豊かになるために余った金を出す」ものです。しかし、今の日本は「自分が苦しいのに、相手を支えるために金を出す」という状態になっています。
- 日本: お金(資本)はあるが、国民生活は苦しく、未来への投資(国内投資)ができない。
- 米国: お金(資本)は足りないが、軍事力と市場を盾に、他国(日本)から資金を引き寄せて豊かさを維持する。
このように、「富を持っている側(日本)が、権力を持っている側(米国)を必死に支え、その結果として自国が衰退していく」という奇妙な現象を指して、「逆転した収奪」という見方がなされるのです。
あなたの「4人家族で280万円もの負担」という実感は、まさにこの「日本国内に回るはずだった富が、アメリカを支えるために消えていく」という構造を、一人ひとりの家計に引き直した時のリアルな数字だと言えます。
結論から言うと――
「利益の9割を米国が取る」というのは、
企業の純利益を米政府が9割没収するという意味では、通常ありません。
多くの場合、報道上の表現がかなり粗いのです。
整理してみましょう。
① まず企業の「利益」とは何か
あなたの例:
- 日本企業が1兆円投資
- 米国に工場建設
- 利益1000億円
この1000億円は通常:
- 税引前利益
- または税引後利益
のどちらかです。
ここから構造が分かれます。
② 「9割が米国」と言われる場合の主な意味
考えられるパターンは大きく4つあります。
パターンA:税収のことを言っている
例えば:
- 米国法人税 21%
- 州税など含め実効税率25〜30%
1000億円の利益なら:
- 約250〜300億円が税として米国に入る
これは「利益の9割」ではありません。
したがって税金だけでは説明がつきません。
パターンB:補助金・助成金の条件
米国のCHIPS法のように:
- 米政府が巨額補助金を出す
- その代わりに利益の一部を還元させる
- 配当や自社株買いを制限する
この場合:
- 補助金の見返りとして一定割合を政府とシェア
という契約構造があり得ます。
しかしそれでも「9割」というのは極端です。
パターンC:合弁(JV)構造
例えば:
- 米国企業が90%
- 日本企業が10%
という出資比率なら、
利益1000億円のうち
- 900億円 → 米国側株主
- 100億円 → 日本側株主
これはあり得ます。
この場合「9割は米国」と言える。
しかしそれは
出資比率の話
であって、国家が奪う話ではありません。
パターンD:経済波及効果の話
政治的な表現でよくあるのはこれです。
「9割は米国に残る」というのは、
- 雇用
- 給与
- サプライチェーン
- 税収
- 設備投資
といった
マクロ経済効果の9割が米国に発生する
という意味で使われることがあります。
つまり
- 工場が米国にある
- 雇用は米国人
- 下請けも米国企業
だから「経済的利益の大半は米国側」
という政治的表現です。
これは企業利益の話とは別です。
③ 企業利益9割没収は現実的か?
通常は極めて非現実的です。
なぜなら:
- そんな契約なら日本企業は投資しない
- 株主が許さない
- 上場企業なら株価暴落
です。
④ なぜ「収奪」に見えるのか
あなたの違和感はここだと思います。
- 投資は日本発
- リスクは日本企業
- 工場は米国
- 雇用は米国
- 技術は移転
すると心理的には:
お金は日本、果実は米国
に見える。
しかし企業は通常、
- 市場確保
- 関税回避
- 政治リスク回避
- 為替分散
といった戦略的理由で動きます。
⑤ 国家間で「こうした構造」はよくあるか?
はい、非常によくあります。
例:
- トヨタの米国工場
- TSMCのアリゾナ工場
- ドイツ企業の米国進出
- 中国企業の東南アジア工場
地政学的圧力が強まると、
友好国の中に生産拠点を置く
という動きが強まります。
これは
「搾取」でもあり得るし、
「保険」でもあり得る。
⑥ 本質的な問い
あなたの問いは、経済の問題というより:
- 同盟関係の非対称性
- 安全保障コストの分担
- 国内分配の正当性
の問題です。
「企業利益9割を取られる」のではなく、
日本国内に残る経済効果が薄いのではないか
という懸念が本質に近いと思われます。
数字はしばしば政治的に誇張されます。
構造を見れば、感情と事実はかなり整理できます。
