おっしゃる通り、この問題の混乱のかなりの部分は、「多様性」という言葉が実は二つ以上の全く異なる概念を混ぜて使われていることに由来します。整理すると、議論の構造がかなり明確になります。
1 多様性には二つの全く異なる種類がある
組織研究や社会心理学では、多様性は大きく次の二つに分けられます。
| 種類 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| Demographic diversity | 性別・人種・年齢・国籍など | 外見的・属性的 |
| Cognitive diversity | 思考様式・専門分野・問題の見方 | 知的・機能的 |
重要なのは
この二つは相関が弱い
ということです。
つまり
- 性別が違う
- 人種が違う
からといって
思考が違うとは限らない
のです。
2 本当に意思決定を改善するのは「思考の多様性」
研究の多くは次の結果を示しています。
意思決定の質を上げるのは
認知的多様性(cognitive diversity)
です。
例えば
- 異なる専門分野
- 異なる経験
- 異なる問題解決スタイル
を持つチームは
- 問題の見落としが減る
- 仮説が増える
- 集団思考が減る
という傾向があります。
これは
- 科学研究
- エンジニアリング
- 医療チーム
などでよく知られています。
3 しかし人口統計的多様性は別問題
性別や人種などの
demographic diversity
については、研究結果はかなり混合しています。
典型的には
プラスの効果
- 社会的視点が増える
マイナスの効果
- チームの摩擦
- 信頼形成の遅れ
両方が報告されています。
つまり
必ずしも組織効率に直結しない
のです。
4 なぜこの二つが混同されるのか
ここが議論の核心です。
政治・社会の議論では
次の論理が暗黙に使われています。
1
思考の多様性は重要
2
人口統計的多様性は思考の多様性を生む
3
だから人口統計的多様性は重要
しかし問題は
②が弱い
ことです。
実際には
- 同じ大学
- 同じ職業
- 同じ教育
なら
性別や人種が違っても
思考はかなり似る
ことが多い。
5 逆の現象もある
逆に
同じ属性でも
思考は大きく異なります。
例えば
同じ
- 日本人男性
- 同年代
- 同じ会社
でも
- エンジニア
- マーケター
- 財務担当
では
問題の見方は全く違います。
つまり
思考多様性は属性とは独立
です。
6 組織研究の重要な知見
組織研究では多様性はさらに三つに分けられます。
①表層多様性
- 性別
- 人種
- 年齢
外から見える。
②深層多様性
- 価値観
- 思考様式
- 性格
時間をかけないと分からない。
③機能的多様性
- 専門分野
- スキル
組織の機能に関係する。
この中で
意思決定に最も重要なのは③
です。
7 なぜ企業がDEIを重視するのか
企業の実際の動機は、実は複合的です。
1
社会的正当性
2
法的リスク回避
3
人材市場の拡大
4
投資家・消費者へのシグナル
つまり
純粋な効率論だけではない
のです。
8 日本の議論の特徴
日本では
「多様性 → イノベーション」
という説明がよく使われます。
しかし実際の研究では
イノベーションと強く関係するのは
- 異分野連携
- 専門多様性
です。
つまり
学問・職業の多様性
です。
9 この議論の本当の問題
実はこの問題は
三つの価値が混ざっている
ため混乱します。
1
効率(企業利益)
2
公正(社会倫理)
3
社会安定(政治)
これらは別の問題です。
10 冷静に整理すると
| 命題 | 評価 |
|---|---|
| 思考多様性は有益 | かなり確実 |
| 人口統計多様性は有益 | 条件付き |
| 両者は同じ | 誤り |
11 最後に(重要な視点)
ここで一つ面白い逆説があります。
多様性が最も重要な職業は何か
それは
- 科学
- 医学
- 裁判
- intelligence analysis
です。
理由は単純で
誤りが致命的だから
です。
つまり
多様性の本質は
社会正義ではなく
誤り訂正能力
なのです。
