素行症 反抗挑発症 反社会性パーソナリティ症 自己愛性パーソナリティ症 

子供で、持続的に法律や規則を破るーーー素行症(行為障害)(conduct disorder)

子供で、権威者に対して反抗的ーーー反抗挑発症(oppositional defiant disorder)

大人で、他者の権利を軽視し、違法行為に及ぶことがあり、良心の呵責を感じることがないーーー反社会的パーソナリティ症(antisocial personality disorder)

大人で、誇大性,賞賛への欲求,および共感の欠如ーーー自己愛性パーソナリティ症(narcissistic personality disorder)


素行症(conduct disorder)

素行症(conduct disorder)は,他者の権利を侵害する行為や年齢相応の主要な社会規範または規則に違反する行動を反復的または持続的に起こそうとする状態である。

素行症を有する小児または青年は,他者の感情や幸福に対する感受性を欠いており,ときに他者の行動を脅迫であると誤解することがある。いじめや脅迫を行ったり,武器を振り回したり使用したり,身体的虐待を行ったり,他者に性行為を強要したりするなどして攻撃的に行動することがあり,これら全てにおいて反省という感情をもつことは,ほとんどまたは全くない。一部の症例では,その攻撃性および虐待が動物に向けられる。このような小児または青年は,器物を損壊し,嘘をつき,窃盗を行うことがある。患児は欲求不満に対する耐性が低く,一般的に無謀で規則や親が課した禁止事項を破ってしまう(例,家出,学校の無断欠席などによる)。

異常行動には男女差があり,男児では喧嘩,窃盗,破壊行為が多く,女児では嘘,逃避,売春となる可能性が高い。男女とも,違法薬物の使用の傾向があり,学校生活に問題を抱えている。希死念慮が多くみられ,自殺企図は真剣に受け止めなければならない。

素行症は,小児または青年が直近の12カ月間に以下の行動のうち3つ以上を示し,かつ直近の6カ月間に少なくとも1つを示している場合に診断される:

人および動物に対する攻撃性

所有物の破壊

欺く,嘘をつく,または窃盗

親が課した規則の重大な違反

症状または行動が対人関係,学校,または職場において機能の障害を引き起こすほど有意なものでなければならない。


通常,秩序破壊的行動は成人期早期に止まるが約3分の1の症例では持続する。このような症例の多くが反社会性パーソナリティ症の診断基準を満たす。早期発症は予後不良と関連する。

一部の小児と青年は,その後,気分症または不安症,身体症状症または関連症群,物質関連症,成人期早期発症型の精神症を発症する。素行症を有する小児または青年は,身体疾患や他の精神疾患を高率に発症する傾向にある。

素行症を有する小児は攻撃的な行動を繰り返し,他人の権利および/または社会規範や規則を侵す;反省という感情をもつことはほとんどまたは全くない。

秩序破壊的行動は患児の約3分の1で成人期まで続く;その症例の多くはその後,反社会性パーソナリティ症の基準を満たす。


反抗挑発症(oppositional defiant disorder)

反抗挑発症(oppositional defiant disorder)は,権威者に対して否定的,反抗的,または敵意的な行動を反復的または持続的に起こそうとする状態である。診断は臨床基準による。治療は,個人精神療法と家族または養育者に対する治療法による。ときに,易怒性を抑えるために薬剤も使用される。

反抗挑発症の有病率は,診断基準が非常に主観的であるため推定値に大きなばらつきがあるが,小児および青年の15%にも上ると考えられる。思春期前では男児の患者数が女児のそれを大きく上回るが,思春期以降ではその差は小さくなる。

ときに反抗挑発症は軽症の素行症のように認識されているが,これら2つの疾患は表面的な類似点があるに過ぎない。反抗挑発症の特徴は,易怒性および反抗性を特徴とする対人関係の様式である。しかしながら,素行症の患児は良心に欠けているように見え,繰り返し他者の権利を侵害し(例,いじめ,脅迫,有害行為,動物虐待),ときに易怒性の徴候はみられない

反抗挑発症の病因は不明であるが,大人たちによって騒々しい論争を伴う対人衝突が生じている家庭の小児に最も多く発生していると考えられる。この診断は,限局的な疾患としてではなく,さらなる調査および治療を要する基礎的な問題を示唆するものとして捉えるべきである。


典型的には,反抗挑発症の患児にはしばしば以下の傾向がみられる:

繰り返し,かつ容易にかんしゃくを起こす

大人と口論になる

大人に反抗する

規則に従うことを拒否する

故意に人の気に障ることをする

自分のミスや不正行為を他人のせいにする

容易に不快になるまたは腹を立てる

悪意に満ち意地が悪い

多くの患児はまた社会的技能に欠ける。


反抗挑発症は類似した症状を引き起こす以下の病態と鑑別する必要がある:

軽度から中等度の反抗行動:このような行動は,ほぼ全ての小児および青年において周期的に認められる。

無治療の注意欠如多動症(ADHD):ADHDを十分に治療すれば,反抗挑発症に似た症状も消失する場合が多い。

気分症:うつ病による易怒性は,快感消失および自律神経症状(例,睡眠および食欲の障害)の存在によって反抗挑発症と鑑別できるが,これらの症状は小児では容易に見逃される。

不安症および強迫症:これらの疾患では,患児が不安に圧倒されたり,自分の儀式的行動の遂行を妨げられたりすると,反抗行動が生じる。


反抗挑発症では,患児はしばしばかんしゃくを起こし,大人に反抗し,ルールを無視し,故意に他人の気に障ることをするのが典型的である。

まずは,報酬に基づく行動変容プログラムを使用し,患児の行動を社会的により適切なものにする;抑うつ症や不安症の治療に使用される薬剤が役立つ可能性がある。


反社会性パーソナリティ症(antisocial personality disorder)

反社会性パーソナリティ症(antisocial personality disorder)は,結果や他者の権利を軽視する広汎性のパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療には,認知行動療法,抗精神病薬,および抗うつ薬がある。

反社会性パーソナリティ症患者は,個人的利益や快楽のために違法行為,欺瞞行為,搾取的行為,無謀な行為を行い,良心の呵責を感じることがなく,また以下のように振る舞うことがある:

自分の行動を正当化または合理化する(例,敗者は負けるべくして負けると考える,自分の利益を追及する)

被害者のことを愚か者または無力だと責める

自分の行動が他者に及ぼす搾取的で有害な影響に関心を示さない

反社会性パーソナリティ症について,米国における12カ月間の推定有病率(過去の版のDSM[Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders]基準に基づく)は約0.2~3.3%である。反社会性パーソナリティ症は男性の方が女性より多く(6:1),強い遺伝要素がある。有病率は加齢とともに低下するが,このことは,患者が時間の経過とともに自身の不適応行動を変容できるようになることを示唆している。

併存症がよくみられる。大半の患者は物質使用症も有している(また物質使用症患者の約半数は反社会性パーソナリティ症の基準を満たす)。反社会性パーソナリティ症患者は,しばしば衝動制御障害,注意欠如多動症,またはボーダーラインパーソナリティ症も有している。

遺伝因子および環境因子(例,小児期の虐待)が反社会性パーソナリティ症の発症に寄与している。考えられる機序は,異常なセロトニントランスポーター機能と関連する衝動的攻撃性である。幼児期に他者の痛みを無視することが青年期後期の反社会的行動と関連づけられている。

反社会性パーソナリティ症は,この疾患を有する患者の第1度近親者において,一般集団よりも高い頻度でみられる。この疾患を発症するリスクは,この疾患を有する親の養子および実子のいずれでも高い。

注意欠如多動症を伴う素行症を10歳以前に発症した場合,成人期に反社会性パーソナリティ症を発症するリスクは増加する。素行症が反社会性パーソナリティ症へと進展するリスクは,親が子供を虐待したり,ネグレクトしたりする場合,またはしつけもしくは子育てに一貫性がない場合(例,温かく支持的なものから,冷たく批判的なものへの変化)は増加する場合がある。

反社会性パーソナリティ症患者は,器物の破壊,他者への嫌がらせ,窃盗により他者や法律の軽視を示すことがある。彼らは自分の欲しいもの(例,金,権力,セックス)を手に入れるために,人を欺き,利用し,言いくるめ,操作することがある。患者は偽名を使うことがある。

このような患者は衝動的であり,前もって計画を立てることがなく,自己もしくは他者に対する行動の結果または自己もしくは他者の安全性を顧慮しない。その結果,患者は突然転職したり,引っ越したり,人間関係を変えたりする。運転中にスピードを出したり,酩酊中に運転したりして,ときに事故につながることがある。過剰な量のアルコールを摂取したり,有害作用が生じうる違法薬物を使用したりする。

反社会性パーソナリティ症患者は社会的,金銭的に無責任である。別の仕事に就く計画もなく,仕事を辞めることがある。機会があっても職を求めないことがある。請求書の支払いをしなかったり,ローン返済を怠ったり,子供の養育費を支払わなかったりする。

このような患者はしばしばすぐに怒り,身体的攻撃性を示す;配偶者やパートナーと喧嘩を始めたり,虐待したりする。性的関係では,患者は無責任で,パートナーを利用し,パートナーを1人だけに留めることができない場合がある。

行動に対する後悔の念がない。反社会性パーソナリティ症患者は自分が傷つけた相手や(例,傷つけられて当然である)世の中のあり方(例,不公平である)を責めることで自分の行動を合理化することがある。彼らは人のいいなりになるまいとし,いかなる犠牲を払っても自分にとって最善と考えることをしようとする。

このような患者は他者に対する共感に欠け,他者の感情,権利,および苦しみを馬鹿にしたり,それらに無関心であったりする。

反社会性パーソナリティ症患者は自己評価が高い傾向があり,非常に独断的,自信家,または傲慢なことがある。望むものを手に入れるためには,感じよく,能弁で,流暢に話すことがある

反社会性パーソナリティ症の診断を下すには,患者に以下が認められる必要がある:

他者の権利に対する持続的な軽視

この軽視は,以下のうちの3つ以上が認められることによって示される:

逮捕の対象となる行為を繰り返し行うことにより示される法律の軽視

反復的な嘘,偽名の使用,または個人的な利益や快楽のために他者をだますことにより示される虚偽性

衝動的に行動する,または事前に計画を立てない

いつも身体的な喧嘩を始めたり,他者を攻撃したりすることにより示される易怒性または攻撃性

無謀なまでに自分または他者の安全を軽視する

別の仕事のあてもなく仕事を辞めたり,請求書の支払いをしなかったりすることにより示される一貫した無責任な行動

他者を傷つけたり虐待したりすることに対する無関心やそのような行為の正当化により示される良心の呵責の欠如

また,15歳未満で素行症を発症していた証拠がなければならない。反社会性パーソナリティ症は18歳以上の人でのみ診断される。

反社会性パーソナリティ症は以下と鑑別する必要がある:

物質使用症:衝動性および無責任性が物質使用症によるものなのか,または反社会性パーソナリティ症によるものなのかの判断が困難な場合があるが,幼少期を含む患者の病歴の検討に基づいてしらふの時期を確認することで可能となる。併存する物質使用症が治療された後に,反社会性パーソナリティ症がより容易に診断できることがあるが,反社会性パーソナリティ症は物質使用症がみられる場合でも診断可能である。

素行症:素行症は社会規範および法律に違反する同様の広汎なパターンを有するが,素行症は15歳以前にみられる必要がある。

自己愛性パーソナリティ症:患者は同様に搾取的で,共感性に欠けるが,反社会性パーソナリティ症でみられるように攻撃的でも虚偽的でもないことが多い。

ボーダーラインパーソナリティ症:患者は同様に操作的であるが,反社会性パーソナリティ症患者のように自分の望むもの(例,金,権力)を手に入れるためではなく,面倒をみてもらうためにそのようにする。


自己愛性パーソナリティ症(narcissistic personality disorder)

自己愛性パーソナリティ症(narcissistic personality disorder)は誇大性,賞賛への欲求,および共感の欠如の広汎なパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神力動的精神療法による

自己愛性パーソナリティ症患者は自尊心の調節に困難を有するため,賞賛および特別な人物または機関との関係を必要とする;優位性を維持するために,他者を低く評価する傾向もある。

自己愛性パーソナリティ症の推定生涯有病率には大きな幅があるが,米国の一般集団では最大6.2%にも上る可能性があり,女性より男性に多い。

併存症がよくみられる。患者は抑うつ症(例,うつ病,持続性抑うつ症),神経性やせ症,物質使用症(特にコカイン),または他のパーソナリティ症(演技性,ボーダーライン,猜疑性)を有していることも多い。

自己愛性パーソナリティ症に寄与する生物学的因子に関する研究はほとんど行われていないが,発症に関わる有意な遺伝要素が存在すると考えられている。養育者が子供を適切に扱わなかった(例えば,過度に批判的であったり,過度に子供を賞賛,称揚,または甘やかしたりすることによる)可能性を仮定する理論もある。

特別な才能や能力をもっており,自己像および自己感覚を他者の賞賛や尊敬と結びつけるのに慣れている患者もいる。

自己愛性パーソナリティ症患者は自分の能力を過大評価し,自分の業績を誇張する。自分が優れている,独特である,または特別であると考えている。患者の自分に関する価値および業績についての過大評価はしばしば他者に関する価値および業績の過小評価を含意する。

患者は大きな業績という空想―圧倒的な知能または美しさについて賞賛されること,名声および影響力をもつこと,または素晴らしい恋愛を経験すること―にとらわれている。普通の人とではなく,自分と同様に特別で才能のある人とのみ関わるべきであると考えている。このような並はずれた人々との付き合いは患者の自尊心を裏付け,高めるために利用される。

自己愛性パーソナリティ症患者は賞賛を受ける必要があるため,患者の自尊心は他者からの肯定的評価に依存し,このため通常は非常に脆弱である。この疾患を有する患者はしばしば他者が自分のことをどのように考えているかを注視しており,自分がどれだけうまくやっているかを評定している。他者による批判ならびに恥辱感および敗北感を味わわせる失敗に敏感であり,これらを気にしている。怒りまたは軽蔑をもって反応したり,悪意をもって反撃したりすることがある。または,自分のうぬぼれの感覚(誇大性)を守るために,引きこもったり,その状況を表向きは受け入れたりすることがある。失敗する可能性のある状況を避けることがある。

自己愛性パーソナリティ症の診断を下すには,患者に以下が認められる必要がある:

誇大性,賞賛への欲求,および共感の欠如を示す持続的なパターン

このパターンは,以下のうちの5つ以上が認められることによって示される:

自分の重要性および才能について誇大で根拠のない感覚がある(誇大性)

際限ない成功,影響力,権力,知性,美しさ,または無欠の愛の空想にとらわれている

自分が特別かつ独特であり,最も優れた人々とのみ付き合うべきであると信じている

無条件に賞賛されることを求める

特権意識がある

目標を達成するために他者を不当に利用する

共感を欠いている

他者に嫉妬し,他者が自分に嫉妬していると信じている

傲慢かつ横柄に振る舞う

また,症状が成人期早期までに始まっている必要もある。

鑑別診断
自己愛性パーソナリティ症は以下の疾患と鑑別することができる:

双極症:自己愛性パーソナリティ症患者はしばしば抑うつを訴えて受診し,その誇大性のために,双極症と誤診されることがある。自己愛性パーソナリティ症では抑うつがみられることがあるが,他者より上の立場にいたいという欲求が常にあることで,双極症と鑑別される。また,自己愛性パーソナリティ症では,気分の変化は自尊心に対する侮辱によって引き起こされる。

反社会性パーソナリティ症:自分のために他者を利用することは両方のパーソナリティ症の特徴である。しかしながら,その動機は異なる。反社会性パーソナリティ症患者は物質的な利益のために他者を利用するが,自己愛性パーソナリティ症患者は自尊心を維持するために利用する。

演技性パーソナリティ症:他者の注意を引こうとすることは両方のパーソナリティ症に特徴的である。しかし,自己愛性パーソナリティ症患者は,演技性パーソナリティ症患者とは異なり,注意を引くために気取ったことやばかげたことをするのを非常に嫌い,賞賛されることを望む。

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