大阪産業保健総合支援センターが中心となった調査で,精神障害の診断書で休職した労働者数は2000~2014年の15年間で6.4倍,うちうつ病·抑うつ状態などの診断書では8.2倍となったという
(「病気」として考えれば、おかしな数字。)
リカバリーの概念の多様化。3つに区別される。
・臨床的リカバリー(抑うつ症状や機能の改善)
・パーソナルリカバリー(当事者自身が決めた希望する人生の到達をめざすプロセス)
・社会的リカバリー(住居,就労,教育,社会ネットワークなど)
(こんな風に考えて何の役に立つのか疑問)
ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Rating Scale for Depression:HAM-D)の利用で考察すると
・従来のうつ病における寛解の定義は7点以下の状態が2~3週間持続すること
・うつ病当事者の社会機能を良好にするためには5点以下
・就業能力を維持するためにはHAM-Dを6点以下
職場復帰には、症状寛解よりもややきつい基準が必要らしい。
(土台、ハミルトンで測定するのは粗雑すぎる)
復職の判断は、症状のみの評価では十分ではない.
復職に向けた社会機能の評価尺度として,職場復帰準備性評価シートが日本うつ病リワーク協会のホームページで公開されており,復職者やリワークプログラム参加者の就労継続の予測が可能であることが報告されている.
(→実際はあまり役に立たない)
また,抑うつ症状に加え,不安症状,社会機能障害およびQOL について簡便に評価できる自己記入式評価尺度として Clinically Useful Depression Outcome Scale supplemented with questions for the DSM-5 anxious distress specifier (CUDOS-A)2014年、がある。
(→こんなこともスケールを使わないと分からないようなら、それが問題だ。)
日本におけるメンタルヘルスに伴う休職·復職の指針として,
・2004年に厚生労働省によって作成され,2009年に中央労働災害防止協会によって改訂された「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
・2017年に日本産業衛生学会関東地方会によって発表された「科学的根拠に基づく『産業保健における復職ガイダンス2017』」
(いずれも役に立たない)
職場不適応だからと本人が言っても、配置転換を安易に勧めてよいわけではない。
当事者の言うままに,配置転換に医師や職場が同意しても新しい部署でも適応できずに再休職となる例は増えている。
うつ病の再発率の高さの問題
就労に耐えうる程度にまで社会機能が回復した状態で復職しているかチェックが必要
(→しかし簡単ではない。結局、やってみないと分からないところが多い。)
逆に、十分回復しているにもかかわらず、復職の意欲がわかない例もあり、その場合に、安易に休職を継続することが適切なのかの問題もある。
お金も出るし、病人扱いで親切にしてもらえるし、会社は低姿勢になるし、上司に何か言われることもないし。復職の意欲はわかない。
日常生活基準
一般労働基準
固有労働基準
の3次元に分ける。
1.日常生活には支障がない 日常生活問題
2.一般労働には支障がない(ここまでは主治医で対応できる) 一般労働問題
3.個人固有や会社固有の、労働や職位に支障がない(この部分は誰も正確な対応ができない。試行錯誤しかない。) 固有労働問題
日常生活基準 本人の状態
1.睡眠
2.食欲
3.身辺整理・金銭管理
4.気晴らし
5.運動
6.他人交流
一般労働基準 本人の状態
1.意欲
2.通勤
3.勤怠
4.仕事集中と継続
5.睡眠・疲労回復
6.対人交流
固有労働基準 本人の字様態と職場の兼ね合い
1.注意度
2.身体的強度(交代勤務)
3.持続度(海外との通信)
4.専門性(高度な判断)
5.危険性(運転、危険物)
6.対人配慮
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- 職場復帰判断基準
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では,職場復帰判断基準の例として,
労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示し
通勤時間帯に一人で安全に通勤ができること,
会社が設定している勤務日に勤務時間の就労が継続して可能であること,
業務に必要な作業(読書,コンピュータ作業,軽度の運動など)をこなすことができること,
作業などによる疲労が翌日までに十分回復していること
などのほか,
適切な睡眠覚醒リズムが整っていること,
昼間の眠気がないこと,
業務遂行に必要な注意力·集中力が回復していることなどが挙げられている.
こうした基準からも,職場復帰の可否を判断するには,
単に症状改善の有無を評価するだけでなく,
就労という社会機能を果たせるかどうかが評価の対象になることがわかる.
そのためには一時点での判断ではなく一定の時間をかけて状態を確認し判断を行うことがより妥当な判断につながるのではないかと考えられる.
(それはそうでしょうよ。で、ぜんぜん、進展していないわけね、現在に至るまで。)
就労への一般的基準(一般労働基準)
1.意欲
2.通勤
3.勤怠
4.仕事集中と継続
5.疲労回復
6.睡眠
これに向けて、
復職までに準備すること
1.生活リズムの確立
2.対人交流
3.集中(作業として文書要約や表計算作成、手作業など)
4.体力
5.発病の原因と再発の防止策
6.生活記録表
さらに固有労働問題がある場合には、それをクリア
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復帰支援プロセス
1)復帰準備期(主治医の診断書の提出から復帰判定まで)
2)復帰後支援期(復帰後6ヵ月間)の2つの期間に分けて支援を行う.
1)復帰準備期
企業によって2~4週間程度と幅がある
(i)生活リズムの確認
(ii)仕事に準じた作業の実施
(iii)再発予防策の検討
(iv)24時間の生活の状況を活動記録表に記録してもらい,職場復帰が可能な生活リズムが維持できているかを確認する.
(ii)の仕事に準じた作業では,月曜日から金曜日の毎日,800字程度の新聞記事を2つ選定し,記事を写したうえで400字程度に感想をまとめるという作業を行ってもらう.
こうした作業を通して,条件にあった情報を収集し選定する(記事の選定),注意力や集中力の維持(記事の写し),自らの考えを相手に伝える(感想の記載)といったどのような仕事でも必要になる基礎的な能力のリハビリテーションを行う.
(これは、昔の話だ。いまはAIで済ませられてしまいそうですが。ずるしてAIを使えるだけ、能力は高いと言えるのかもしれない。現代に適応していると言える。今頃、こんな課題を出すなら、出すほうの神経がどうかしている。出されたほうも、粗雑に扱われていると感じるだろう。ここで言っているのは、その程度の話。)
作業に加えて再発予防策の十分な検討を行うことで,復職後の再発リスクを低下させる
アメリカ国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health:NIOSH)の職業性ストレスモデルを参考にする
(これも、いい考えもないし、仕方なしに、反対されにくいこと書いているだけのものと思う)
2)職場復帰後
職場復帰後、半年間をめどに定期的に面談を重ね,体調の確認,再発予防策実施
復職後2ヵ月程度は残業なし。半年経ったところで就業制限を解除。期間はそれぞれのケースによる。
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試し勤務制度が有効
試し勤務が制度としてある職場なら、何とかなるのかも。試し勤務制度や短縮勤務制度のない職場は、ないからうまくいかないというよりも、ないことに象徴されているように、全体として、対応ができていないというか、対応したくないというか、そんな会社ということだ。
職業適性について
厚生労働省編一般職業適性検査(General Aptitude Test Battery:GATB)を使う
(こういうものは、どんな人が対象か、内容を見たらすぐにわかるけど、一般職業適性とはとても言えないものだと感じる)
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