精神病理学の概念を巡る議論において、カテゴリー・モデル(Categorical Model)と次元モデル(Dimensional Model)の対立は中心的な論点の一つです。この対立は、正常な心理的機能と異常な心理的機能との関係をどのように捉えるかという基本的な仮定に関わっています,。
カテゴリー・モデル
カテゴリー・モデルは、精神病理学の現象を、特定の人々が他の障害を排除して、特定の異常性や「障害」を持っているか、持っていないかのどちらかであると区別しようとするモデルです,。
- 特徴: このモデルは、人々がタイプ(types)に分かれるという仮定に基づいており、DSM(『精神疾患の診断・統計マニュアル』)の基本的な構造はこのカテゴリー・モデルに基づいています,。DSMやICDといった分類システムは、特定の障害を持つ人々を区別するためのガイドラインを記述しようと試みます,。
- 内在する困難: 正常と異常、あるいは適応と不適応を明確に区別しようとするカテゴリー的アプローチには、本質的な困難が内在しています,。
次元モデル
次元モデルは、正常性(健康)と異常性(病理)、および効果的な心理的機能と非効果的な心理的機能が、単なる程度の問題であり、連続体(continuum)上にあると仮定します,。
- 特徴: いわゆる精神障害は、正常な心理現象や日常生活における問題の極端なバリエーションに過ぎないと見なされます,。正常と異常、または適応と不適応といった連続体に沿った区分は、恣意的かつ人工的であると考えられます,。
- 目的: 次元モデルは、人々や障害を分類することに関心があるのではなく、感情、気分、知能、個人の行動スタイルなどの心理現象における個人差を特定し、測定することに関心があります,。
- 区分と境界線: 知能の標準化されたテストにおける差異と同様に、関心のある次元における個人の大きな差異が予想されます,。正常性や異常性の区分は、便宜上あるいは効率性のために境界線を引くことができるかもしれませんが、現象の「タイプ」や人々の「タイプ」の間に真の不連続性があることを示すものとは見なされません,。
- 歴史的背景: この考え方は新しいものではなく、早くも1860年にはヘンリー・モーズレイが「正気と狂気の間に境界線はない。その違いは、程度の問題に過ぎない」と述べています,。
経験的証拠:次元モデルの強力な支持
広範な研究が、多くの精神病理学的現象がカテゴリー的構造よりも次元的構造を示すことを強く支持しています。
- パーソナリティ障害: 心理的適応に対する次元的アプローチの妥当性に関する経験的証拠は、性格およびパーソナリティ障害の分野で最も強力です,。因子分析的研究は、一般集団と臨床集団におけるパーソナリティ障害の構造の間に著しい類似性を示しており、カテゴリー分類というDSMのシステムと一致しません,。例えば、精神病質的パーソナリティや境界性パーソナリティ障害、その他の成人期の外在化障害は、次元的構造を示すことが示唆されています,。
- 感情障害と精神病性障害: 正常な感情経験に関する研究は、「臨床的」な感情障害が、日常的な感情的動揺や問題とは不連続な離散的なクラスではないことを示しています,。また、統合失調症の行動も、障害と診断された人々と一般集団の経験や行動と連続していることが示されています,。統合失調症という用語の考案者であるオイゲン・ブロイラーも、病理的状態を正常な状態と連続したものと見なしていました,。
- その他の問題: 注意欠如・多動性障害(ADHD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害、うつ病、性機能不全および障害、物質使用障害、自閉スペクトラム症など、多様な心理現象に関する研究も、次元的な見方を支持しています, , , , 。
現代分類システムへの影響と論争
- RDoCとHiTOP: 主に精神障害の病因に関心を持つ国立精神衛生研究所の**研究ドメイン基準(RDoC)**は、精神病理とその神経生物学的影響を次元的なものとして捉えています,。また、精神病理学の階層的分類法(HiTOP)に関する研究も、次元的な性質の証拠を提供しています,。研究は、次元的尺度がカテゴリー的尺度よりも信頼性と妥当性が高いことを示しています,。
- DSM-5とICD-11: 精神病理学の次元的概念は、DSM-5でわずかではありますが進出を果たしました。特に「自閉スペクトラム症」の新しい概念や、「パーソナリティ障害の代替DSM-5モデル」を記述した付録においてです,。DSM-5とICD-11は、分類システム全体を通じて重症度を次元として取り入れました,。
- 批判: 次元モデルにも限界がないわけではありません。カテゴリーと比較して専門家間のコミュニケーションが困難になることや、臨床使用における戦略の複雑さが増すこと、そして「主観性の問題」が解決しないこと(何をもって「異常」と見なすかという決定が主観的であること)などが挙げられます,。
カテゴリー的アプローチは、科学的に基づいた明確な区別ができるという仮定を置きますが、次元的見解に内在するのは、これらの区別は**「発見」できる自然な境界線ではない**という仮定です,。その代わり、これらの区別は、歴史的な蓄積と実際的な必要性によって創造または構築されたものと見なされます,。
カテゴリーと次元の対立は、温度計の「熱い」と「寒い」の境界線を引くことによく似ています。カテゴリー・モデルが「どこか自然界に、熱いと寒いを明確に分ける一本の線が刻まれているはずだ」と探すのに対し、次元モデルは「熱いと寒いは連続したスペクトルの端に過ぎず、どこに線を引くかは私たちが目的(例:暖房をつける基準)のために便宜的に合意する慣習に過ぎない」と見なします,。心理病理学におけるカテゴリーの線もまた、治療の保険適用や診断といった実際的な目的のために引かれる便宜的な境界線である可能性が高いのです,。
