パーソナリティ機能レベル(LPFS: Level of Personality Functioning Scale)

パーソナリティ機能レベル(LPFS: Level of Personality Functioning Scale)は、DSM-5の「パーソナリティ障害(PD)のための代替モデル」において、PDの中核的な障害の程度を評価するための重要な指標です。

1. パーソナリティ機能の構成要素

パーソナリティ機能レベルは、主に**「自己(Self)」「対人関係(Interpersonal)」**という2つの主要な領域、およびそれらに含まれる4つの要素から評価されます。

  • 自己(Self):
    • アイデンティティ(Identity): 自己の境界線や自尊心の安定性。
    • 自己決定(Self-direction): 短期的・長期的な目標の追求や、建設的・向社会的な行動基準の保持。
  • 対人関係(Interpersonal):
    • 共感(Empathy): 他者の経験や動機を理解し、受け入れる能力。
    • 親密性(Intimacy): 他者とのつながりの深さや持続性。

これらの要素は、カーンバーグやコフート、ライブズリーといった主要な理論家の概念とも一致しており、パーソナリティ障害の本質を捉えるものとされています。

2. 重症度の評価尺度

LPFSは、障害の程度を以下の5段階で評価します。

  1. なし(little or none)
  2. 軽度(some)
  3. 中等度(moderate)
  4. 重度(severe)
  5. 最重度(extreme)

研究によれば、アイデンティティの障害は中等度レベルのPDにおいて中核的に現れる一方、対人関係の障害(特に共感や親密性の問題)は、より重症度が高い場合に顕著な識別力を持ちます

3. パーソナリティ機能レベルの臨床的意義

従来のDSM-IVのようなカテゴリカルな診断(病名分類)と比較して、パーソナリティ機能レベルの評価には以下のような利点があることが示されています。

  • 全般的な機能不全の予測: パーソナリティ障害の「スタイル(どのタイプか)」よりも、この「重症度(機能レベル)」の方が、患者の適応機能や予後、治療の必要性をより正確に予測できることが研究で明らかにされています。
  • 高い予測妥当性: LPFSによる評価は、DSM-IVの10種類のPD診断すべてを合わせた場合よりも、患者の心理社会的機能やリスク、治療ニーズを説明する能力が高い(増分妥当性がある)ことが示されています。
  • 臨床的な有用性: 多くの臨床医が、従来の診断基準よりもLPFSの方が患者の記述や治療計画の策定、患者への説明において有用であると評価しています。

4. 総括

パーソナリティ機能レベルは、単に「どの病気か」を分類するのではなく、**「その人のパーソナリティの土台がどれほど損なわれているか」**を測定するものです。これにより、特定の診断名(例:境界性パーソナリティ障害)だけでは捉えきれない、患者ごとの個別の機能低下の状態や、将来的なリスクを包括的に理解することが可能になります。


比喩による理解: パーソナリティ機能レベルを評価することは、建物の「耐震強度」を調べることに似ています。建物の「外観のデザイン(=パーソナリティのスタイル)」が洋風か和風かに関わらず、その土台や骨組み(=自己と対人関係の機能)がどれほどしっかりしているかを知ることで、その建物がどれほどの嵐(=生活上のストレス)に耐えられるのか、どのような補強工事(=治療)が必要なのかを判断できるのです。

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