(1)SASBモデル(対人行動の構造分析:Structural Analysis of Social Behavior)
**SASBモデル(対人行動の構造分析:Structural Analysis of Social Behavior)**は、ローナ・スミス・ベンジャミン(Lorna Smith Benjamin)によって開発された、パーソナリティ、精神病理、および対人関係のダイナミクスを理解するための包括的な枠組みです。
このモデルは、サリヴァンの対人関係論や対象関係論、そして「対人関係円環モデル(interpersonal circumplex)」の系譜を継いでおり、対人行動を非常に精密に記述できる点が特徴です。
1. 3つの側面(サーフェス)
SASBモデルは、誰が誰に対して行動しているかに応じて、**3つの「面(サーフェス)」**で構成されています。
- 他者への焦点: 他者に対して行われる行動(例:親が子供を世話する、あるいは攻撃する)。
- 自己への焦点: 他者の行動に対する反応(例:親の指示に従う、あるいは反抗する)。
- イントロジェクト(内面化): 自分自身に対する振る舞い。これは「重要な他者」からどのように扱われてきたかが内面化されたもので、**「自分をどう扱うか」**を反映します(例:親から批判され続けた結果、自分を厳しく批判するようになる)。
2. 基本的な2つの軸(極性)
各面は、ミロンの理論と同様に「極性」の概念を持っており、以下の2つの主要な軸で行動を測定します。
- 親和(Affiliation)― 攻撃(Attack): 「愛」と「憎しみ」の軸です。
- 結合(Enmeshment)― 分離(Differentiation): 「相互依存」と「自律・独立」の軸です。
3. パーソナリティ障害の理解と臨床的応用
SASBは、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)におけるパーソナリティ障害(PD)の基準を、対人関係の用語に翻訳して理解することを可能にします。特に、表面上は似ている「怒り」や「引きこもり」といった行動が、障害ごとに異なる対人関係上の動機(トリガー)を持っていることを明らかにします。
- 境界性PD(BPD): その怒りは、しばしば「見捨てられた」「無視された」という経験を反映しています。
- 自己愛性PD: 自分の価値が認められなかった、あるいは失敗したと感じた時の反応として怒りが現れます。
- 反社会性PD: 他者をコントロールし、搾取することを目的とした「冷淡な怒り」として現れることがあります。
このように、SASBは患者が示す複雑で矛盾した感情(例:しがみつきながら攻撃する)を、複数の面や極性の組み合わせとして同時に描写できる強力なツールです。
比喩による説明: SASBモデルは、対人関係を映し出す**「3面の鏡」**のようなものです。1枚目の鏡は「自分が相手にどう接しているか」を映し、2枚目の鏡は「相手に対してどう反応しているか」を映します。そして3枚目の鏡(イントロジェクト)は、過去に他者から向けられた視線が自分自身の内側に定着し、「自分が自分をどう見ているか」を映し出します。この3枚の鏡を合わせることで、その人の性格の立体的な構造が見えてくるのです。
(2)社会行動の構造分析(SASB: Structural Analysis of Social Behavior)
**社会行動の構造分析(SASB: Structural Analysis of Social Behavior)**は、ローナ・スミス・ベンジャミン(Lorna Smith Benjamin)によって開発された、パーソナリティ、精神病理、および対人関係のダイナミクスを理解するための包括的な枠組みです。
このモデルは、サリヴァンの対人関係論や対象関係論、そして「対人関係円環モデル(interpersonal circumplex)」の系譜を継いでおり、対人行動を非常に精密に記述・測定できる点が特徴です。
1. 3つの側面(サーフェス)
SASBモデルは、誰が誰に対して行動しているかに応じて、**3つの「面(サーフェス)」**で構成されています。
- 他者への焦点: 他者に対して行われる能動的な行動(例:親が子供を世話する、あるいは攻撃する)。
- 自己への焦点: 他者の行動に対する反応的な振る舞い(例:親の指示に従う、あるいは反抗する)。
- イントロジェクト(内面化): 自分自身に対する振る舞い。これは「重要な他者」からどのように扱われてきたかが内面化されたもので、「自分が自分をどう扱うか」を反映します(例:親から批判され続けた結果、自分を厳しく批判するようになる)。
ベンジャミンによれば、人は重要な他者(親など)との関わりを通じて、その行動をコピー(同一化)したり、当時の反応を繰り返したりすることを学び、それが自己や他者への関わり方として定着していきます。
2. 基本的な2つの軸(極性)
各面において、行動は以下の**2つの主要な次元(軸)**の組み合わせで定義されます。
- 「親和(Affiliation)」対「攻撃(Attack)」: 愛と憎しみの軸です。
- 「結合(Enmeshment)」対「分離(Differentiation)」: 相互依存と自律・独立の軸です。
3. パーソナリティ障害(PD)の理解と臨床的応用
SASBは、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)におけるパーソナリティ障害の診断基準を、対人関係の用語に翻訳して理解することを可能にします。
特に、異なる障害の間で似たような行動(例:怒りや引きこもり)が見られても、その背景にある対人関係上のトリガー(引き金)や意味の違いを明確にできる点が強力です。
- 境界性パーソナリティ障害(BPD): その怒りは、しばしば「見捨てられた」「無視された」という経験を反映しています。
- 自己愛性パーソナリティ障害: 自分の価値が認められなかった(恥)や失敗に対する反応として現れます。
- 反社会性パーソナリティ障害: 他者をコントロールし、搾取することを目的としたものとして現れます。
SASBモデルの利点は、患者が示す複雑で矛盾した感情(例:助けを求めながらも攻撃する)を、複数の面や軸の組み合わせとして同時に描写し、その心理的機序を解明できる点にあります。
比喩による説明: 社会行動の構造分析(SASB)は、対人関係を解読するための**「3次元の地図」**のようなものです。自分から相手へのルート(他者への焦点)、相手から自分へのルート(自己への焦点)、そして自分自身の内側を巡るルート(イントロジェクト)という3つの地図があります。それぞれの地図において「愛か憎しみか」「依存か独立か」という2つの座標を確認することで、その人が心の迷路のどこに立ち往生しているのかを正確に特定することができるのです。
(3)円環モデル(対人関係円環モデル:interpersonal circumplex)
**円環モデル(対人関係円環モデル:interpersonal circumplex)**は、対人行動やパーソナリティを幾何学的な円の形で記述する枠組みです。出典によれば、このモデルはサリヴァン(1953)の対人関係論を源流とし、リアリ(Leary, 1957)やキースラー(Kiesler, 1983)らによって発展してきました。
特に、ローナ・スミス・ベンジャミンによる**「社会行動の構造分析(SASB)」は、この円環モデルをより精密にした3次元的なモデル**として知られています。
1. 円環を構成する3つの面(サーフェス)
SASBモデルにおける円環は、誰が誰に対して行動しているかに応じて、以下の**3つの面(サーフェス)**で構成されています。
- 他者への焦点: 他者に対して行われる能動的な行動(例:親が子供を世話する、あるいは攻撃する)を記述します。
- 自己への焦点: 他者の行動に対する反応的な振る舞い(例:親の指示に従う、あるいは反抗する)を記述します。
- イントロジェクト(内面化): **「自分が自分をどう扱うか」**を記述します。これは、過去に重要な他者(親など)からどのように扱われてきたかが内面化されたものです(例:批判的な親に育てられ、自分を厳しく批判するようになる)。
2. モデルを定義する2つの基本軸
すべての円環モデルと同様に、SASBの各面も**2つの主要な軸(極性)**によって定義されます。
- 親和(愛)対 攻撃(憎しみ): 対人関係における感情の質を表す軸です。
- 結合 対 分離: 相互依存の強さや自律・独立の度合いを表す軸です。
3. 臨床的な意義とパーソナリティ障害の理解
円環モデル(SASB)を用いることで、DSMなどの診断基準を対人関係の用語に翻訳して理解することが可能になります。
- 障害の区別: 例えば「怒り」という行動一つをとっても、境界性パーソナリティ障害(BPD)では「見捨てられ・無視された」ことへの反応であり、自己愛性PDでは「自分の価値が認められなかった(恥)」ことへの反応であるといった、対人関係上のトリガーの違いを明確にできます。
- 複雑な感情の可視化: 患者が示す「しがみつきながら攻撃する」といった矛盾した感情も、円環上の複数の側面を同時に表現することで、その力動を正確に描写できます。
比喩による説明: 円環モデルは、対人関係という広大な海を航海するための**「レーダー」**のようなものです。中心から見てどの方向(愛か憎しみか)に、どれくらいの距離(依存か独立か)で相手と関わっているかを座標として示します。SASBはそのレーダーを「自分から相手」「相手から自分」「自分自身への視線」という3つの層で重ね合わせることで、心の複雑な動きを立体的に浮かび上がらせるのです。
