限定的な再養育(Limited Reparenting)

**限定的な再養育(Limited Reparenting)**は、スキーマ療法における対人的戦略の中核をなす概念であり、変化をもたらすための「有効成分」の一つとされています,。

1. 定義と目的

限定的な再養育とは、治療関係の適切な範囲内において、患者が幼少期に親から必要としていたにもかかわらず、十分に受け取ることができなかった中核的な感情的ニーズを、セラピストが補完的に提供することを指します,。 このプロセスは、アレクサンダーとフレンチが提唱した**「矯正的な感情体験」**を治療関係の中で活用するものであり、幼少期の育児における欠損に対する「部分的な解毒剤(アンチドート)」として機能します,,。

2. 愛着理論との関連

この手法は、ボウルビィの愛着理論に深く根ざしています。

  • 安全基地の提供: セラピストは、患者がかつて持つことができなかった**「安全な感情的基地」**となります。これにより、患者は世界を探索し、自分自身の内的ワーキングモデル(スキーマ)を再構築するための基盤を得ることができます。
  • 見捨てられスキーマへの対応: 特に境界性パーソナリティ障害(BPD)や「見捨てられ/不安定」のスキーマを持つ患者にとって、セラピストとの安定した愛着関係は、見捨てられることへの恐怖に対する直接的な癒やしとなります。

3. セラピストの役割とスタンス

限定的な再養育において、セラピストは伝統的な心理療法とは異なる独特のスタンスをとります。

  • 積極的かつ指示的な関わり: 比較的ニュートラルな立場を保つ精神分析的アプローチとは対照的に、スキーマセラピストは患者のニーズを満たすために積極的かつ指示的に振る舞います。
  • 共感的対決との併用: セラピストは「限定的な再養育」を通じて養育的な役割を果たす一方で、患者の不適応な行動やスキーマに対しては、共感を示しつつも現実を突きつける**「共感的対決」**という姿勢も同時にとります,,。
  • 健康な大人モデルの内面化: 患者はセラピストを、スキーマと戦い感情的に満たされた人生を追求する**「健康な大人」として内面化**していきます。

4. 特定のモードへの適用

限定的な再養育は、特に患者の**「子供モード」**に対して行われます。

  • 脆弱な子供モードの癒やし: BPDなどの重度の障害を持つ患者は、自立や個人化のプロセスに進む前に、セラピストにしっかりと愛着し、安全を感じる必要があります。セラピストは患者の「脆弱な子供モード」を世話し、慰め、保護することで、スキーマの感情的な負荷を軽減させます,。

5. 他の療法との比較

  • 伝統的CBTとの違い: 認知行動療法(CBT)では治療関係を「治療を円滑に進めるための媒体」と見なす傾向がありますが、スキーマ療法では関係そのものを変化のための主要な戦略の一つとして位置づけています。
  • 精神力動的アプローチとの違い: 精神分析が本能的な衝動や防衛に焦点を当てるのに対し、限定的な再養育は中核的な感情的ニーズ(安全、受容、自律性など)を満たすことを重視します。

たとえ: 限定的な再養育は、**「枯れかけていた植物に、適切な量とタイミングで水と栄養を与え直す庭師」**のようなものです。幼少期に適切な養分(愛情や安全)をもらえずに成長が止まったり歪んだりしてしまった心に対し、セラピストという庭師が今からでも必要な養分を補うことで、その人が本来持っている生命力を取り戻し、健やかに育ち直せるように手助けをするプロセスと言えます。

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