難民および庇護希望者における精神疾患の有病率:系統的レビューおよびメタアナリシス
著者: Martina Patanè, Samrad Ghane, Eirini Karyotaki, Pim Cuijpers, Linda Schoonmade, Lorenzo Tarsitani, Marit Sijbrandij
掲載誌: Global Mental Health (2022), 9, 250–263.
1. 抄録 (Abstract)
背景: 難民において高い精神疾患率が報告されているが、その多くは症状の自己申告尺度に基づいている。本研究では、成人難民および庇護希望者の中で、大うつ病性障害(MDD)、外傷後ストレス障害(PTSD)、双極性障害(BPD)、および精神病の臨床的診断基準を満たす者の割合を調査した。
方法: 3つのデータベースで系統的な文献検索を実施した。臨床診断に基づき、成人難民のMDD、PTSD、BPD、精神病の有病率を調べた研究を対象とした。StataのMeta-propパッケージを用い、メタアナリシスを行って統合有病率を推定した。
結果: 7,048件の記録から40件の研究(11,053名の参加者)を抽出した。統合有病率は、MDDが32%(95% CI 26–39%)、PTSDが31%(95% CI 25–38%)、BPDが5%(95% CI 2–9%)、精神病が1%(95% CI 1–2%)であった。サブグループ解析では、高所得国(28%)よりも低・中所得国(47%)の研究でMDDの有病率が有意に高かった。また、便宜的サンプリングを用いた研究は、確率標本を用いた研究よりも高い有病率を報告していた。
結論: 本メタアナリシスは、難民における精神疾患の著しく高い有病率を示した。この結果は、戦争や暴力の壊滅的な影響と、難民へのメンタルヘルス介入の必要性を強調している。ただし、研究間の高い異質性(ばらつき)には注意が必要である。
2. はじめに (Introduction)
過去10年間で、世界的な強制移動の傾向は増大している。2020年時点で1,100万人以上が移動を強いられ、その数は増加し続けている。難民や庇護希望者は、迫害、暴力、拷問、拘束、住居や生計の喪失といった深刻なストレッサーに直面しており、これらは持続的なメンタルヘルスの問題を引き起こす可能性がある。
先行研究では、難民の精神疾患の有病率には大きなばらつきが見られる(MDDで5%〜80%、PTSDで4%〜88%)。このばらつきは、サンプリング方法、診断ツール、出身国、滞在国の環境などの違いによるものである。多くの疫学研究では安価で実施しやすい「自己申告尺度」が用いられるが、これらは真の有病率を過大評価する傾向がある(PTSDでは約3.5倍の差)。本研究では、より厳格な診断基準である「臨床診断インタビュー」を用いた研究のみを対象とし、難民および庇護希望者における主要な精神疾患のより正確な統合有病率を推定することを目指した。
3. 方法 (Method)
3.1 検索戦略と選択基準
PRISMA声明に従い、2020年6月4日までにPubMed、Embase、PsycInfoで検索を行った。
- 対象: 18歳以上の難民または庇護希望者。
- 疾患: MDD、PTSD、BPD、精神病。
- 診断基準: DSM(III、IV、5)またはICD(9、10)。
- 評価ツール: 構造化または半構造化臨床インタビュー(SCID、MINI、CIDIなど)。
- 除外: 精神科サービスからのみ選択されたサンプル、国内避難民(IDP)を対象とした研究。
3.2 データ抽出と品質評価
2名の査読者が独立してデータを抽出し、JBI(Joanna Briggs Institute)のチェックリストを用いて研究の質を評価した。5つの質問に基づき、3つ以上の「不明」または「いいえ」がある場合は「バイアスリスクが高い」とみなした。
3.3 データ合成と統計解析
Stata/SE 16.1を使用。ランダム効果モデルを用いて統合有病率を算出した。異質性の評価には$I^2$統計量を用いた。また、滞在期間、診断ツールの種類(MINIか否か)、国の所得水準(LMIC vs HIC)、サンプリング方法(便宜的標本 vs 確率標本)によるサブグループ解析を行った。
4. 結果 (Results)
11,749件の記録から、最終的に40件の研究がメタアナリシスに含まれた。これらは18カ国(低・中所得国7カ国、高所得国11カ国)で実施された。参加者総数は11,053名で、男性が48%であった。
4.1 大うつ病性障害 (MDD)
31件の研究がMDDの有病率を報告した。統合有病率は32%(95% CI 26–39%)であった。再発性MDDについては、統合有病率は16%であった。
4.2 外傷後ストレス障害 (PTSD)
36件の研究がPTSDを報告し、統合有病率は31%(95% CI 25–38%)であった。範囲は1%から88%と非常に広かった。
4.3 双極性障害 (BPD) と 精神病性障害
BPDは5件の研究で報告され、統合有病率は5%(95% CI 2–9%)であった。精神病性障害は5件の研究に基づき、統合有病率は1%(95% CI 1–2%)であった。
4.4 サブグループ解析 (表3に基づく)
- 所得水準: MDDの有病率は、低・中所得国(LMIC)で47%に対し、高所得国(HIC)では28%と、LMICで有意に高かった。
- 診断ツール: MINIを使用した研究(37%)は、他のツール(26%)よりMDDを有意に高く推定していた。
- サンプリング方法: 便宜的サンプリングを用いた研究は、確率標本を用いた研究よりもMDD(35% vs 30%)およびPTSD(34% vs 28%)の有病率が高かった。
5. 考察 (Discussion)
本研究は、難民における精神疾患の最新かつ広範な有病率データを提供した。
主要な考察点:
- 一般人口との比較: 難民のMDD有病率は一般人口の約7倍、PTSDは4〜5倍高い。BPDや精神病も一般人口の約2倍の頻度で見られる。
- LMICにおける高いMDD: 低・中所得国でMDDが高い理由として、移住後の生活困窮、統合プログラムの欠如、メンタルヘルスへの投資不足が挙げられる。対照的に、PTSDについては国による有意差がなく、これはPTSDが滞在先よりも出身国でのトラウマ体験に強く関連しているためと考えられる。
- 異質性の原因: 非常に高い異質性が見られたが、これは難民という集団の多様性(出身地、体験した暴力の種類、滞在国の受入体制)を反映している。
- 方法論的示唆: MINIのような簡便な診断ツールは、より詳細な臨床インタビュー(SCIDなど)よりも高い数値を出す傾向があることが示された。
6. 結論 (Conclusion)
本研究は、難民および庇護希望者における精神疾患の深刻な実態を明らかにした。戦争や迫害が個人のメンタルヘルスに与える壊滅的な影響を世界中の政府や関係者が認識することが不可欠である。暴力の連鎖を防ぐためには、文化的・言語的に適応した、証拠に基づく公衆衛生的なメンタルヘルス支援を整備することが急務である。
(付録) 統計表の要約
表2:精神疾患の統合有病率
- MDD: 32% ($I^2=99.05$)
- PTSD: 31% ($I^2=99.3$)
- BPD: 5% ($I^2=97.7$)
- 精神病: 1% ($I^2=0.00$)
表3:サブグループ解析 (MDDの例)
- 低・中所得国 (LMIC): 47%
- 高所得国 (HIC): 28%
- 便宜的サンプル: 35%
- 確率標本: 30%
参考文献: (11〜14ページに200件以上の文献が記載されている。Fazel et al. (2005), Blackmore et al. (2020), UNHCR (2020) など、難民研究における重要文献を網羅している。)
