「都市化=精神病(とくに統合失調症)の発症増加」とする
北欧・英語圏モデルを、
成立の経緯 → 代表的エビデンス → 想定されているメカニズム → 限界
という流れで、分かりやすく整理します。
1. そもそも「北欧・英語圏モデル」とは何か
これは、
都市で生まれ、都市で育つほど、
精神病(特に統合失調症)の発症リスクが高くなる
という疫学モデルです。
特徴は次の3点です。
- 主に
イギリス、オランダ、デンマーク、スウェーデンなど - 全国レジストリを用いた大規模コホート研究
- 発症率(incidence)の差を問題にする
👉 「受診率」や「有病率」ではなく
真の発症リスクを見ようとした点が画期的でした。
2. 代表的なエビデンス(何が見つかったのか)
① デンマークの出生コホート研究
最も有名です。
- 都市で出生した人は
農村出生者に比べて
統合失調症の発症リスクが約1.5〜2倍 - 都市規模が大きいほどリスク上昇(dose–response)
重要なのは:
- 発症時に都市に住んでいるかではなく
- 10歳までにどこで育ったかが決定的
👉 都市は「引き金」ではなく
発達環境として作用している。
② イギリスの研究(AESOPなど)
- 都市部(ロンドンなど)で
FEP発症率が農村の2〜3倍 - 特に
- 黒人カリブ系
- 黒人アフリカ系
で顕著
👉 単なる人口密度では説明できない差が示唆された。
③ オランダ・スウェーデンの研究
- 都市育ち+
- 社会的断片化
- 低い社会的凝集性
の地域でリスク上昇
- 社会経済状態を調整しても残存
3. 想定されているメカニズム(なぜ都市で増えるのか)
北欧・英語圏モデルは、
単一の原因を想定していません。
① 社会的敗北仮説(social defeat)
- いじめ
- 排除
- 差別
- 周縁化
が慢性的に続くことで、
- ドーパミン系が感作され
- 精神病脆弱性が高まる
👉 都市は
「敗北を繰り返し経験しやすい環境」。
② 移民・民族マイノリティ仮説
- 都市部に集中する移民
- 低民族密度地域での孤立
- 見た目で分かる少数派
👉 **民族そのものではなく、
「少数派として生きること」**がリスク。
③ 社会的断片化・低ソーシャルキャピタル
- 近隣関係が希薄
- 信頼が少ない
- 人の入れ替わりが激しい
👉 守られない・見守られない環境。
④ 発達期ストレス仮説
- 騒音
- 過密
- 治安不安
- 環境汚染
が、脳の発達期に累積。
⑤ 神経生物学的裏付け
- 都市育ちの人は
扁桃体・前帯状皮質のストレス反応が高い - 灰白質量低下との関連報告(特に男性)
4. なぜこのモデルが「強く」見えるのか
北欧・英語圏では:
- 全国民ID
- 医療・人口レジストリ完備
- 追跡脱落がほぼない
👉 バイアスが少ない理想的疫学条件。
そのため、
「これは決定的では?」
と受け取られやすかった。
5. しかし問題点も多い(批判と限界)
① 国・文化で再現されない
- 南欧(スペイン、イタリア、ポルトガル) → 再現せず
- 日本・東アジア → 明確な再現なし
- 低中所得国 → むしろ都市の方が低リスクな例も
👉 普遍モデルではない。
② 都市化の定義が粗い
- 人口密度
- 行政区分
だけでは、
- 社会関係
- 排除
- 生活体験
を捉えきれない。
③ 診断・受診バイアスの可能性
- 都市部の方が医療アクセスが良い
- 症状が「精神病」として拾われやすい
④ 逆因果の可能性
- 脆弱な人が
都市へ流入している可能性
6. 現在の理解(アップデート版)
現在は、次のように理解されつつあります。
都市化そのものが原因なのではなく、
都市に集積しやすい
「社会的排除・孤立・慢性ストレス」が
特定の文化圏では精神病リスクを高める
つまり、
- 北欧・英語圏 → 条件がそろって可視化された
- 南欧・日本 → 条件の配置が異なるため再現しない
7. 日本との関係での一言整理
日本では、
- 都市部でも
- 家族同居
- 職場共同体
が残りやすかった(少なくとも過去は)
- その代わり
発症は減らず、慢性化・遅延化として現れる
👉 日本型問題は
「都市化=発症増加」ではなく
「都市化=孤立の不可視化」。
まとめ(超要約)
北欧・英語圏モデルは、
都市化が精神病を増やすのではなく、
「排除されやすい都市構造」が
一部の社会で発症リスクを高めたことを示している。
