日本の都市精神医療はしばしば
「慢性化・管理的・過剰入院」
として語られますが、構造を少し読み替えると、実は回復に極めて有利な資源を多数内包している。
以下、「すでにあるが、使われていない強み」を中心に整理します。
Ⅰ.量的資源が“余白”になりうるという逆説
1.精神科医・医療機関の密度が高い
- 都市部では
- 精神科診療所
- 総合病院精神科
- 心療内科
が徒歩圏・複数選択肢として存在。
👉 本来これは
「合わなければ移れる」安全装置。
欧米では主治医変更は困難で、
治療関係が固定化しやすい。
2.病床数の多さは「逃げ場」にもなりうる
- 問題は長期固定化であって、
- 短期・間欠的入院が使えれば、
👉 危機を
人生の断裂にしない緩衝材になる。
「入院=失敗」ではなく、
調整の一手段にできる潜在性。
Ⅱ.日本文化がもつ“非言語的回復資源”
3.沈黙と曖昧さに耐えられる文化
- 欧米医療:
- 語らせる
- 意味づける
- 日本文化:
- 語らなくても関係が続く
👉 妄想がほどけた後の空白期に、
意味を急がなくてよい。
これは実存的に非常に大きい。
4.「何もしない関わり」が倫理的に許されやすい
- 毎回のセッションで
- 成果
- 目標
を要求されにくい。
👉 支持的外来・雑談・体調確認が
正当な医療行為として成立。
Ⅲ.都市の匿名性 × 日本的距離感
5.濃密すぎない人間関係
- 農村のような
- 常時可視化
- 役割固定
がない。
👉 「患者」「元患者」であることを
日常的に再演しなくてよい。
6.役割を“演じなくても存在できる”空間
- 都市には
- ただいる
- 消費者としている
- 通行人としている
ことが許される。
👉 自己を再編する時間が持てる。
Ⅳ.制度的に見落とされている柔軟性
7.診断運用が実は緩い
- 日本臨床では
- 診断変更
- 診断保留
が比較的許容されている。
👉 「一生この病気」から
静かに離脱できる余地。
8.心理療法が“目立たず”入り込める
- 明確なプロトコルでなくても
- 支持的・実存的関わりが
外来に溶け込める。
欧米ほど
「エビデンスを示せ」
と迫られない場面がある。
Ⅴ.日本語そのものが持つ治療的特性
9.断定を避ける言語構造
- 「〜かもしれない」
- 「今は〜という感じ」
👉 妄想世界の
絶対性を自然に緩める。
10.時間を循環的に捉える感覚
- 回復=直線的前進
ではなく、 - 揺れながら落ち着く
👉 再燃=失敗
になりにくい語りが可能。
Ⅵ.なぜ“強み”が使われていないのか
- 管理・効率・成果指標を
欧米モデルから輸入した - 制度評価が
- 就労
- 自立
に偏った
- 医療者自身が
回復を急がされている
👉 強みを自分たちで否定している
Ⅶ.臨床で今すぐできる「活かし方」
- 「何もしない期間」を
明示的に肯定する - 診断を
説明しすぎない勇気 - 都市の匿名性を
回復資源として言語化 - 成果を
症状以外(耐えた時間)で評価
結語
日本の都市精神医療は、
すでに“回復が起こる条件”を持っている。
足りないのは資源ではなく、
それを回復として認める言葉である。
