「森田療法・支持的精神療法・日常診療」を
日本的精神療法という一つの臨床文化圏として捉え直してみます。
理論の違いよりも、臨床で何が守られているかに焦点を置きます。
1. 三者は「別の治療法」ではなく、同一連続体にある
通常は、
- 森田療法:日本固有の体系化された精神療法
- 支持的精神療法:理論以前の補助的技法
- 日常診療:治療とは呼びにくい日々の診察
と分けられがちです。
しかし臨床的に見ると、この三者は
「どれだけ構造化されているか」の違い
であって、治療哲学は深く重なっていると考えられます。
[日常診療]──[支持的精神療法]──[森田療法]
非構造化 半構造化 高度に構造化
重要なのは、方向性が同じだという点です。
2. 共通の中核①:症状を「敵」にしない
森田療法
- 症状は「あるがまま」に存在するもの
- 消す対象ではなく、生活の一部
- 不安や症状は自然現象
支持的精神療法
- 防衛や症状を無理に解体しない
- 症状を「適応の結果」として尊重する
日常診療
- 「まだ不安はあるけど、生活は何とかできてますね」
- 症状の残存を前提に関係が継続する
ここでは一貫して、
症状=排除すべき異物
という発想が取られていません。
3. 共通の中核②:変化を目標化しない
三者に共通する特徴は、
回復を治療者が設計しないことです。
- 森田療法:目的本位ではなく、行為本位
- 支持的精神療法:適応の維持・回復を支える
- 日常診療:「今はこれでいい」を繰り返し確認する
これは、
- CBT的「ゴール設定」
- リカバリーモデル的「目標共有」
とは異なる、日本独特の非目的志向性です。
4. 共通の中核③:「壊さない」ことを最優先する
森田療法
- 強迫症状を直接攻撃しない
- 内省を深めすぎない
支持的精神療法
- 洞察を急がない
- 防衛を保持する
日常診療
- 「それは今無理に触らない方がいいですね」
- 病歴や生活史を全部は聞かない
ここで守られているのは、
この人が今日まで生き延びてきた構造
です。
5. 決定的な共通点:時間の扱い方
三者を結びつける最大の共通項は、
時間を治療者が管理しないことです。
- 改善までの期間を約束しない
- 停滞期を「失敗」としない
- 長期化を前提に関係を切らない
日常診療でよくある、
「まあ、しばらくこのままで行きましょう」
という一言は、
極めて日本的精神療法的です。
6. 違いは「言語化の密度」と「構えの自覚」
森田療法
- 日本的臨床感覚を意図的に理論化したもの
- 「あるがまま」「目的本位」の明示
支持的精神療法
- 臨床家の暗黙知として共有
- 理論よりも判断力
日常診療
- ほぼ無自覚
- しかし最も広範に実践されている
つまり、
森田療法は例外ではなく、
日常診療に潜む日本的精神療法を可視化した存在
と捉えられます。
7. 日本的精神療法の逆説
ここで一つ重要な逆説があります。
- 日常診療が最も「日本的精神療法」的
- しかし最も評価されず、言語化されない
- しばしば「何もしていない」と見なされる
制度上は、
- 技法があるほど評価され
- 介入が明確なほど点数がつく
ため、この臨床文化は制度的に不可視になっています。
8. まとめ(関係性の一文定義)
森田療法・支持的精神療法・日常診療は、
「人が自分の時間で生き続けること」を壊さないための、
日本的精神療法の三つの表情である
という理解が可能だと思います。
