全体アウトライン
――資本主義・制度・倫理・精神医療・宗教性をめぐる思考の地図
第Ⅰ部 資本主義は何によって可能になったのか
1. 精神か、制度か、偶然か
- マックス・ウェーバーの問題提起
・プロテスタント倫理と資本主義精神
・勤勉・倹約・再投資というエートス - 歴史的反証と修正
・カトリック圏(スペイン・ポルトガル)の限界
・オランダ・フランス・イギリスの差異
・精神だけでも制度だけでも説明できない - 仮説
→ 資本主義は「精神 × 制度 × 偶然的歴史条件」の不安定な均衡として成立した
第Ⅱ部 非西欧世界はなぜ異なる帰結を迎えたか
2. 中国・日本・東アジアの分岐
- 中国文明の先進性と停滞の逆説
・官僚制・技術・農業・市場の高度化
・しかし自然科学・近代資本主義には接続しなかった - 中国が西欧的自然科学に遅れた理由(諸説)
・世界観(天人合一 vs 自然支配)
・官僚制による知の回収
・実用技術と理論科学の分離
・宗教的超越の不在 - 日本の特殊性
・江戸期の勤勉・倹約・自己修養(石門心学・二宮尊徳)
・宗教ではなく「生活倫理」として内面化
→ 精神の準備は宗教ではなく慣習として行われた
第Ⅲ部 近代日本の歪み
3. 科学は受け入れ、宗教は拒否した社会
- 明治以降の選択
・西欧の自然科学・技術は全面導入
・キリスト教的倫理基盤は拒否 - 帰結
・科学=価値中立
・技術=進歩
・倫理の最終根拠が空白化 - その結果としての特徴
・成功者の徳化
・失敗者の穢れ化
・制度・成果・効率への道徳的過剰投影
第Ⅳ部 科学・技術・倫理の緊張関係
4. 科学とは何か/技術とは何か
- 科学
・世界を「説明」する営み
・価値判断を原理的に含まない - 技術
・世界を「操作」する力
・倫理を必要とするが、自らは生まない - 問題
→ 技術が倫理を追い越すと、暴走は制度によって正当化される
第Ⅴ部 精神医療という臨界点
5. 精神医療は何を引き受けてきたか
- 精神医療の歴史的役割
・社会からこぼれ落ちる人々の緩衝地帯
・失敗・停滞・非合理の引き受け手 - 技術依存の危険
・診断の絶対化
・治療=倫理
・回復できないことの道徳化 - 問い
→ 精神医療は〈失敗を引き受ける制度〉になりうるか
第Ⅵ部 経済合理性との不可能な和解
6. 折り合いはつくのか
- 前提の非互換性
・経済:効率・測定・短期
・精神医療:時間・曖昧さ・非線形 - 現実的な共存形
・経済合理性を「目的」ではなく「制約条件」に落とす
・成果を一段抽象化する
・無駄・失敗・非改善を前提に組み込む - 結論
→ 完全な折り合いは不可能だが、低く堅牢な均衡は可能
第Ⅶ部 制度はどこで必ず壊れるか
7. 成功した瞬間の崩壊
- 倫理が制度化されたとき
・成功=正しさ
・異論の排除
・迷いの消失 - 制度が自らを救済装置だと誤認する瞬間
→ 倫理は達成された瞬間に死ぬ
第Ⅷ部 世俗社会における〈信仰なき宗教性〉
8. 宗教は消えたのか
- 宗教性と信仰の分離
・信仰(教義・神)は失われた
・意味・救済・超越への欲求は残った - 憑依先
・国家・制度
・市場・成功
・科学・技術
・医療・心理 - 精神医療の危うい位置
→ 世俗的救済宗教になりやすい
第Ⅸ部 代替的倫理基盤の可能性
9. 強い宗教の代わりに何がありうるか
- 日本的可能性
・関係倫理
・恥と責任
・沈黙・耐えることの肯定 - 目指すべき姿
・絶対化しない
・強制しない
・失敗を許す
→ 「弱い宗教性」
第Ⅹ部 結論
10. 精神医療の倫理とは何か
- 救済を約束しない
- 意味を独占しない
- 成功を徳にしない
- 失敗を排除しない
精神医療とは、
この社会が引き受けきれなかった〈意味〉と〈失敗〉を、
暫定的に、過剰な正義を伴わずに支える場所である
