(科学/技術/倫理/制度/抵抗)を踏まえつつ、
**「精神医療における技術依存」**を、告発でも礼賛でもなく、構造として描きます。
1. 技術依存とは何か
精神医療における技術依存とは、
本来は判断・関係・時間が必要な領域を、
手順・数値・装置で代替しようとする傾向
です。
ここでいう「技術」には、
- 薬物療法
- 診断基準(DSM/ICD)
- 評価尺度
- ガイドライン
- 電子カルテ
- マニュアル化された心理療法
がすべて含まれます。
2. なぜ精神医療は技術依存に陥りやすいのか
① 不確実性が大きすぎる
精神疾患は、
- 病因が不明確
- 経過が非線形
- 予後が読めない
→ 確実そうに見えるものに依存したくなる。
② 制度との相性
- 保険請求
- 行政監査
- 病床管理
これらはすべて、
- 曖昧さより
- 標準化
- 再現性
- 記録可能性
を要求する。
技術は制度に翻訳しやすい。
③ 倫理的負担の回避
「判断した」のではなく、
- ガイドライン通り
- 標準治療
- エビデンスに基づく
と言えると、
個人の責任が軽くなる。
3. 技術依存がもたらす変化
① 診断が「理解」から「割り当て」になる
- 診断は仮説ではなくラベルになる
- 物語は短縮される
- 生は分類表に吸収される
② 治療が「関係」から「操作」になる
- 聴くより調整
- 迷うより選択
- 待つより介入
結果として、
治療者が患者と一緒に考える時間が消える
③ ケアの時間構造が変わる
- 効果判定は短期化
- 改善は数値化
- 「よくならない時間」が無駄扱いされる
しかし精神医療では、
回復はしばしば、停滞に見える時間の中で起こる
4. 技術依存が生む倫理的問題
「治療しているのに、関わっていない」
- 投薬はしている
- 記録も完璧
- でも、誰もその人を知らない
「患者の自由が形式的に守られる」
- インフォームド・コンセント
- 選択肢の提示
だが実際には、
選ばないという選択肢がない
5. 技術依存は悪なのか
違います。
技術は、
- 苦痛を軽減する
- 命を救う
- 医療を支える
**問題は「依存」**です。
技術が
- 思考の代替
- 関係の代替
- 倫理の代替
になったとき、
精神医療は痩せていく。
6. 「技術を使いながら、依存しない」ために
① 技術を「仮説」として扱う
- 診断は確定ではない
- 薬は一時的な支え
- マニュアルは地図であって道ではない
② 「使わない勇気」を制度内に残す
- すぐに介入しない
- 判断を保留する
- 何もしない支援を正当化する
(これは高度な専門性です)
③ 技術では測れないものを言語化する
- 関係の質
- 信頼の厚み
- 沈黙の意味
- 待つことの価値
言語化できないものは、
制度から消される。
7. 日本の文脈で見れば
日本の精神医療は、
- 長期療養
- 支持的関わり
- 生活世界重視
という反・技術依存的資源を持っていた。
それが「遅れている」とされ、
技術化・短期化・効率化が進んだ。
失われたのは、
- 時間
- 関係
- 未完成でいる自由
8. 一文で言うなら
精神医療における技術依存とは、
不確実さに耐えられなくなった医療が、
確実そうなものにすがる姿である。
