では、理念論ではなく、**「すでにある精神医療制度を壊さずに、しかし制度の論理に回収されきらない形で〈代替的倫理基盤〉を埋め込むにはどうするか」**を、具体的なレベルで整理します。
キーワードは 可視化/遅延/複線化/否認されない余白 です。
1. 基本原則(最初に枠を置く)
原則①
倫理を「正解」ではなく「構造」にする
→ 誰かの善意や高潔さに委ねない。
原則②
倫理を成果指標にしない
→ KPIにすると必ず痩せる。
原則③
倫理を単独部署に閉じ込めない
→ 倫理委員会だけでは機能しない。
2. ①「立ち止まり」を制度に組み込む(遅延の制度化)
具体策
- 強制入院・隔離・薬剤増量の前に
**「倫理的検討猶予期間」**を明文化 - 即時介入が必要な例外条件も同時に規定する
ポイント
- 倫理とは「止めること」ではなく
「急がなくてよい根拠を与えること」
精神医療的意義
- 不安に対する過剰介入を抑える
- 治療者自身の防衛的判断を緩める
3. ②「何もしない支援」を正式な医療行為として位置づける
具体策
- 「経過観察」「支持的関与」「非介入的同席」を
診療記録上の正当な選択肢として定義 - ガイドラインに
“Active non-intervention” の項目を入れる
失われがちなもの
- 待つこと
- 関係が熟す時間
- 回復に見える前段階
実務的効果
- 過剰投薬・過剰診断の抑制
- 医療者の燃え尽き防止
4. ③ 診断を「確定」ではなく「仮説」として制度化する
具体策
- 初期診断に有効期限を設定
- 定期的に「診断再検討カンファレンス」を義務化
記録上の工夫
- 「診断名」+
「この診断で見落としている可能性」
倫理的意味
- 診断による固定化を防ぐ
- 人を「説明しきったつもり」になることへの抵抗
5. ④ 数値化できないものを“消えない形”で残す
具体策
- 電子カルテに
**自由記述専用欄(評価対象外)**を設ける- 沈黙
- 違和感
- 引っかかり
- 語られなかったこと
重要点
- 監査・査定の対象にしない
- 誰かが読まなくてもよい
→ 書くことで、消えない
6. ⑤ 倫理を「委員会」ではなく「横断的実践」にする
悪い例
- 年1回の倫理研修
- 書類上のチェックリスト
有効な形
- 日常的な
ミニ倫理ラウンド- 10分でよい
- 結論を出さない
- 「これ、引っかからない?」だけを共有
効果
- 倫理が“空気”になる
- 個人の孤立を防ぐ
7. ⑥ 患者の「語られなかった選択肢」を記録する
具体策
- インフォームド・コンセントの記録に
- 選ばなかった理由
- 迷い
- 保留
を含める。
倫理的意味
- 自律を形式にしない
- 選択の強制を可視化する
8. ⑦ 専門職教育に「失敗の倫理」を組み込む
現状の問題
- 成功事例中心
- 正解志向
必要な転換
- 治せなかったケース
- 判断を誤った経験
- 後悔が残った介入
を語ってよいものにする。
→ 倫理は「潔白」からではなく
傷から立ち上がる
9. ⑧ 制度の中に「制度批判が消えない場所」を残す
例
- 外部第三者(患者・当事者・人文学者)の常設参加
- 形式的権限を持たないが、
発言が消されない場
重要点
- 決定権を与えすぎない
- しかし無視もできない位置
10. 一文でまとめると
精神医療制度に倫理を埋め込むとは、
「正しく判断する仕組み」を作ることではなく、
「判断しきれなさが消えない構造」を守ることである。
うか。
