ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)における価値の明確化(Values Clarification)とは、自分が人生において「どのような人間になりたいか」「何を大切にしたいか」という重要で意味のある方向性を定義するプロセスのことです。
その特徴と「目標」との違い、そしてこれまでの対話に関連する意義について解説します。
1. 「価値」の定義と特徴
価値は、私たちが人生という旅において進むべき「道筋」や「方向性」を指します。
- 個人的なもの: 価値は非常に個人的なものです。親や文化、社会(世間)が評価することではなく、「自分にとって」重要であることが基準となります。
- 恒久的なプロセス: 価値は「一度達成して終わり」というものではありません。例えば「愛情深い親であること」という価値は、一生を通じて継続されるプロセスです。
- 行動を導くコンパス: ACTの目的は、内面的な感情を変えることではなく、価値ある方向に行動を変えることにあります。
2. 「価値」と「目標」の決定的な違い
ACTでは、価値と目標を明確に区別します。
| 項目 | 価値 (Values) | 目標 (Goals) |
|---|---|---|
| 性質 | 終わりのない方向性 | 完了できる終点 |
| 例 | 学習、教育、他者の助け | 学位の取得 |
| イメージ | 西へ向かう(どこまで行っても西はある) | 山の頂上に着く(着いたら終わり) |
3. 社会的規範(世間)から自由になるための問い
これまでの対話で、日本人が「世間の目(恥)」や「空気」といった外在的な規範に縛られやすいことを議論しました。ACTは、こうした外部の圧力から離れ、真の自己価値を見出すために以下の問いを投げかけます。
「誰も私がこれをしていることを知らなくても、私にとってそれはまだ重要だろうか?」
この問いは、他者の評価や「恥」の意識に基づく行動ではなく、個人の内面から湧き出る主体的な選択を促すためのものです。
4. 心理的柔軟性における役割
価値の明確化は、心理的柔軟性を高めるための「北極星」の役割を果たします。
- 苦痛との付き合い方を変える: アクセプタンスや脱フュージョンといった技法は、単に不快感を減らすためではなく、「価値のある人生を送るための行動」を促進するために実践されます,。
- 内容としての自己からの脱却: 「私は○○の息子だ」「勇敢でなければならない」といった社会的な役割(内容としての自己)に縛られるのではなく、文脈としての自己の視点から、自分の価値観に基づいた行動を柔軟に選択できるようになります。
まとめ
価値の明確化とは、曖昧な「空気」や「世間の期待」に駆動されるのではなく、自分自身が人生の舞台で何を主張し、どう生きたいかを言語化することです。これにより、たとえ不快な思考や感情(トラウマや不安)が存在していても、それらに邪魔されることなく、自分にとって大切な方向に一歩を踏み出す(コミットされた行為)ことが可能になります,。
