ここからは擁護ではなく、解体に入ります。
三層モデル:
- 宇宙は構造的である(構造実在論)
- 構造は情報的に圧縮可能である(情報理論)
- それを扱う主体が進化した(進化的真理論)
一見きれいに整合しています。
しかし内部にはいくつかの深い緊張があります。
Ⅰ 構造実在論と情報理論の緊張
問題1:構造は「ある」のか、それとも「圧縮の結果」か?
構造実在論は言う:
構造は世界の側に実在する。
しかし情報理論は言う:
構造とはデータの圧縮可能性である。
ここで決定的な問いが生じます。
圧縮可能性は、
- 世界に属する性質か?
- それとも記述体系に依存するか?
圧縮は常に符号化スキームに依存します。
何を規則と見なすかは、記述者の選択に依存する。
すると、
構造は世界固有のものなのか、
それとも観測者相対的なのか?
三層モデルはここを曖昧にしている。
Ⅱ 進化的真理論の自己破壊性
進化的真理論は言う:
認識は生存に有利なモデルを選択した結果である。
しかしここに致命的な問題がある。
もし認識が適応の産物にすぎないなら、
- 真理概念は適応的安定性に還元される
- 構造実在論も適応戦略にすぎない
つまり、
三層モデル全体が
「進化的安定な幻想」である可能性を排除できない。
これは自己言及的崩壊です。
進化的自然主義はしばしば
自分自身の信頼性を弱体化する
という問題に直面します。
Ⅲ 説明の循環
三層は一見、下から上への説明に見えます。
1 → 2 → 3
しかし実際は循環しています。
- 宇宙が構造的だと知るのは主体
- 圧縮可能性を定義するのも主体
- 進化を記述する理論も主体の構築物
つまり、
主体を説明する理論が、主体の認識能力を前提にしている。
これは弱い循環ですが、哲学的には重大です。
Ⅳ 数学の「過剰性」問題
数学は自然に適用されない分野を大量に含みます。
例:
- 無限次元空間
- 高次圏論
- 大きな基数公理
これらは進化的適応とは無関係に見える。
もし三層モデルが正しいなら、
なぜ適応に不要な数学が存在するのか?
この「過剰性」はプラトニズムに有利です。
三層モデルは、
- 進化で説明するには広すぎる
- 構造で説明するには抽象すぎる
という緊張を抱えます。
Ⅴ 意味の地位の不安定さ
三層モデルは構造と情報を強調しますが、
意味や価値はどこに位置づけられるのか?
- 構造は記述できる
- 圧縮は計算できる
- 進化は説明できる
しかし
「なぜそれが意味を持つのか?」
は別問題です。
もし意味が主観的投影なら、
モデルは反実在論に滑る。
もし意味が構造に内在するなら、
価値実在論を採用する必要がある。
三層モデルはここで中途半端になります。
Ⅵ 自己認識テーゼの内部崩壊
三層を統合すると
宇宙は自己を理解する構造を生んだ
という図式になります。
しかし、
- 宇宙全体に主体性はない
- 局所的主体は進化的偶然
ならば、
「宇宙の自己認識」は因果的偶然の副産物
にすぎない。
すると壮大な統一像は、
単なるレトリックになります。
Ⅶ 最大の矛盾:客観性と適応性の衝突
三層モデルは同時にこう言っています:
- 数学は世界の構造を捉える(客観性)
- 認識は適応的産物である(機能性)
しかし適応は真理を保証しない。
生存に十分な近似で足りる。
それなら、
なぜ高度に抽象的な数学が宇宙の深部に一致するのか?
この一致は、
- 偶然か
- 宇宙の深い合理性か
- それとも認識構造と宇宙構造の同型性か
三層モデルは決定できない。
結論:三層モデルは安定していない
内部緊張は主に四つ:
- 構造の客観性 vs 圧縮の相対性
- 進化的説明の自己破壊性
- 数学の過剰性
- 客観性と適応性の両立問題
このモデルは魅力的ですが、
まだ存在論的に未完成です。
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