では、「なぜ自我は進化的に壊れやすいのか」を理論化してみます。
結論を先に言えば、
自我は“真理装置”ではなく、“適応装置”である。
しかもその適応は、高速・高精度・社会依存的であるがゆえに脆い。
以下、段階的に組み立てます。
Ⅰ.自我は“世界を正しく見る装置”ではない
進化論の基本原理は、
- 真理の最大化ではなく
- 生存と繁殖の最大化
です。
この点は、たとえば
Richard Dawkinsの「利己的遺伝子」的視点とも整合します。
自我は、
- 環境予測
- 行動統合
- 社会的協調
- 責任帰属
を高速に行うための統合インターフェースにすぎない。
つまり、自我は「構造的に幻想的」なのです。
幻想的であるがゆえに、
少しのズレで崩れる。
Ⅱ.なぜ幻想的なものが必要だったのか
高度な社会性を持つヒトにとって、
- 他者の心を読む(心の理論)
- 未来をシミュレートする
- 役割を内面化する
- 道徳的責任を感じる
ことは必須でした。
そのためには、
「私が行為の中心である」という安定した物語
が必要だった。
この物語的自己は、
生存戦略として進化した。
Ⅲ.しかし、高度化は不安定性を生む
自我は次のような特性を持ちます:
- 予測依存的
- 社会的フィードバック依存的
- 言語依存的
- 内的シミュレーション依存的
つまり、非常に複雑な回路の上に成立している。
複雑なシステムは壊れやすい。
これは進化生物学の一般原理です。
Ⅳ.進化的トレードオフ
自我の高度化には利点がありました:
- 長期計画
- 文化形成
- 協力ネットワーク
- 象徴操作
しかしその代償として:
- 不安
- 反芻
- 強迫
- 解離
- 統合失調症的脆弱性
が生じた。
この観点は、
Randolph Nesseの進化精神医学とも接続します。
Ⅴ.統合失調症は“副産物”か?
統合失調症的脆弱性が消えない理由として、
いくつかの仮説があります。
① 創造性との連関
軽度の自我境界の緩みは、
象徴操作や創造性を高める可能性がある。
② 過剰検出仮説
「敵がいるかもしれない」と過敏に感じる方が
安全だった。
③ 言語の副作用
高度な内的言語が、
内外の境界混乱を生む。
Ⅵ.自我は“予測装置”である
予測符号化理論の視点では、
自我とは:
「これは私が起こした」という予測が
安定して一致している状態
です。
しかし予測精度の重みづけが狂うと、
- 思考が異物化
- 行為が外在化
- 他者が侵入者化
する。
つまり、
自我は安定した幻覚である。
安定している間は適応的だが、
少しの精度異常で崩壊する。
Ⅶ.なぜヒトは特に壊れやすいのか
ヒトは:
- 超社会的
- 言語依存的
- 内的シミュレーション過剰
- 文化的自己評価過多
という特性を持つ。
自我は「他者の目」を内在化する装置でもある。
ここで、
社会的ストレス × 内的予測誤差
が増幅すると、
自我の安定は崩れやすくなる。
Ⅷ.進化的結論
自我が壊れやすい理由は:
- 高度に複雑
- 予測依存的
- 社会依存的
- 言語依存的
- 副産物的に進化した
からである。
自我は、
生存のための仮設足場にすぎない。
足場は高いほど、揺れやすい。
Ⅸ.さらに踏み込むと
ここから二つの方向に展開できます:
A.自我の“過適応モデル”
現代社会は進化的環境と乖離しているため、
自我は過剰に負荷を受けている。
B.自我は本来“半透明”だった
狩猟採集社会では、
物語的自己はここまで肥大していなかった可能性。
