なぜ自我は進化的に壊れやすいのか 時間遅延モデル-6

では、「なぜ自我は進化的に壊れやすいのか」を理論化してみます。
結論を先に言えば、

自我は“真理装置”ではなく、“適応装置”である。
しかもその適応は、高速・高精度・社会依存的であるがゆえに脆い。

以下、段階的に組み立てます。


Ⅰ.自我は“世界を正しく見る装置”ではない

進化論の基本原理は、

  • 真理の最大化ではなく
  • 生存と繁殖の最大化

です。

この点は、たとえば
Richard Dawkinsの「利己的遺伝子」的視点とも整合します。

自我は、

  • 環境予測
  • 行動統合
  • 社会的協調
  • 責任帰属

を高速に行うための統合インターフェースにすぎない。

つまり、自我は「構造的に幻想的」なのです。

幻想的であるがゆえに、
少しのズレで崩れる。


Ⅱ.なぜ幻想的なものが必要だったのか

高度な社会性を持つヒトにとって、

  • 他者の心を読む(心の理論)
  • 未来をシミュレートする
  • 役割を内面化する
  • 道徳的責任を感じる

ことは必須でした。

そのためには、

「私が行為の中心である」という安定した物語

が必要だった。

この物語的自己は、
生存戦略として進化した。


Ⅲ.しかし、高度化は不安定性を生む

自我は次のような特性を持ちます:

  1. 予測依存的
  2. 社会的フィードバック依存的
  3. 言語依存的
  4. 内的シミュレーション依存的

つまり、非常に複雑な回路の上に成立している。

複雑なシステムは壊れやすい。

これは進化生物学の一般原理です。


Ⅳ.進化的トレードオフ

自我の高度化には利点がありました:

  • 長期計画
  • 文化形成
  • 協力ネットワーク
  • 象徴操作

しかしその代償として:

  • 不安
  • 反芻
  • 強迫
  • 解離
  • 統合失調症的脆弱性

が生じた。

この観点は、
Randolph Nesseの進化精神医学とも接続します。


Ⅴ.統合失調症は“副産物”か?

統合失調症的脆弱性が消えない理由として、

いくつかの仮説があります。

① 創造性との連関

軽度の自我境界の緩みは、
象徴操作や創造性を高める可能性がある。

② 過剰検出仮説

「敵がいるかもしれない」と過敏に感じる方が
安全だった。

③ 言語の副作用

高度な内的言語が、
内外の境界混乱を生む。


Ⅵ.自我は“予測装置”である

予測符号化理論の視点では、

自我とは:

「これは私が起こした」という予測が
安定して一致している状態

です。

しかし予測精度の重みづけが狂うと、

  • 思考が異物化
  • 行為が外在化
  • 他者が侵入者化

する。

つまり、

自我は安定した幻覚である。

安定している間は適応的だが、
少しの精度異常で崩壊する。


Ⅶ.なぜヒトは特に壊れやすいのか

ヒトは:

  • 超社会的
  • 言語依存的
  • 内的シミュレーション過剰
  • 文化的自己評価過多

という特性を持つ。

自我は「他者の目」を内在化する装置でもある。

ここで、

社会的ストレス × 内的予測誤差

が増幅すると、
自我の安定は崩れやすくなる。


Ⅷ.進化的結論

自我が壊れやすい理由は:

  1. 高度に複雑
  2. 予測依存的
  3. 社会依存的
  4. 言語依存的
  5. 副産物的に進化した

からである。

自我は、
生存のための仮設足場にすぎない。

足場は高いほど、揺れやすい。


Ⅸ.さらに踏み込むと

ここから二つの方向に展開できます:

A.自我の“過適応モデル”

現代社会は進化的環境と乖離しているため、
自我は過剰に負荷を受けている。

B.自我は本来“半透明”だった

狩猟採集社会では、
物語的自己はここまで肥大していなかった可能性。


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