予測処理理論と実存精神療法の統合モデル 脳内世界モデル-8

承知しました。
以下に、これまで構築してきた理論(予測処理・精度揺らぎモデル・ドーパミン実装・Manic-first仮説)を、実存精神療法と統合し、学術論文形式で完成版として提示します。


精度揺らぎとしての精神病理

― 予測処理理論と実存精神療法の統合モデル ―

要旨

本稿は、予測処理理論に基づく精度(precision)配分モデルを用いて、統合失調症および双極性障害を統一的に説明し、さらに実存精神療法と理論的統合を試みる。躁状態を「探索モードの暴走」、抑うつ状態を「負の誤差固定」、統合失調症を「階層的精度崩壊」と再定式化する。ドーパミンを精度符号化の神経実装として位置づけ、Manic-first hypothesis との整合性を検討する。最後に、実存的意味形成を予測誤差と可能性の緊張構造として再解釈し、臨床的含意を提示する。


1.理論的背景

予測処理理論は、脳を階層的生成モデルによる予測誤差最小化装置とみなす。その数理的基盤は自由エネルギー原理にあり(Karl Friston)、認知はベイズ更新過程として記述可能である。

[
Posterior \propto Prior \times Likelihood
]

ここで決定的なのが精度(precision)である。精度とは、予測誤差あるいは事前信念に与えられる重みづけであり、行動・感情・意味形成を規定する。


2.精度揺らぎモデルによる精神病理の再定義

2.1 躁状態:探索モードの暴走

躁状態では、報酬予測誤差の精度が過剰に上昇する。

[
Precision_{reward} \uparrow
]

結果として、

  • リスク軽視
  • 行動活性化
  • 観念奔逸

が生じる。

これは探索(exploration)パラメータの過剰上昇として理解できる。進化論的観点では、探索傾向自体は適応的であるが、その暴走が躁状態を形成する。


2.2 抑うつ状態:負の誤差固定

抑うつでは、

[
Precision_{negative\ error} \uparrow
]

が生じ、負の事前信念が強化固定される。

  • 無価値感
  • 未来悲観
  • 行動停止

は、負方向への更新の固定化として理解できる。


2.3 統合失調症:階層的精度崩壊

統合失調症では、

  • 感覚誤差への過剰精度付与
  • 上位信念の固定化
  • 自己モデルの不安定化

が生じる。

これは階層横断的精度配分の崩壊であり、妄想は誤差最小化の過程で形成される整合的仮説である。


2.4 双極スペクトラム:動的精度振動

双極性障害は、固定異常ではなく時間的振動である。

[
Precision(t) = \mu + A \sin(\omega t)
]

躁相と抑うつ相は、精度パラメータの振幅変動として記述可能である。


3.ドーパミンと精度符号化

ドーパミンは報酬予測誤差とサリエンス符号化に関与する。

躁状態ではドーパミン活動亢進が探索温度を上昇させ、
抑うつでは機能低下が報酬期待を減衰させる。

統合失調症では無関連刺激へのサリエンス付与が生じる。

したがって、

ドーパミン = 精度符号化の神経実装

と位置づけられる。


4.Manic-first hypothesis との整合

Manic-first hypothesis は、躁的過程が双極性障害の基盤であるとする。

探索暴走 → 失敗 → 負の誤差固定

という動的過程は、

躁相が原発で抑うつが二次的に生じる

という仮説と理論的整合を持つ。


5.予測処理理論と実存精神療法

ここで理論を存在論的次元へ拡張する。

5.1 存在=予測と誤差の構造

人間存在は、未来への予測と誤差への応答の緊張の中にある。

この構造は、Martin Heidegger の被投性や可能性概念と親和的である。

  • 躁:可能性の過剰開放
  • 抑うつ:可能性の閉塞
  • 統合失調症:世界構造の不安定化

5.2 意味形成の動態

妄想は意味の暴走、
抑うつは意味の収縮、
躁は意味の拡張。

実存精神療法は、意味の再構成を支援する営みである。

予測処理的に再定義すれば、

実存療法 = 高次生成モデルの再安定化

である。


6.臨床的再定式化

6.1 CBTの再解釈

CBTは精度再配分訓練として理解できる。

  • 躁:報酬精度の抑制とリスク精度の回復
  • 抑うつ:正の誤差精度の上昇
  • 統合失調症:ノイズ精度の低減と信念柔軟化

6.2 実存的介入

実存精神療法は、

  • 不確実性の受容
  • 誤差と共に生きる態度
  • 可能性の再構築

を支援する。

それは、精度パラメータの極端化を緩和する方向に働く。


7.総合理論図式

病態精度異常
探索温度上昇
抑うつ負誤差固定
統合失調症階層崩壊
双極性精度振動
Schizoaffective横断振動

精神病理は、精度配分の異常として統一的に理解可能である。


8.結論

本稿は、予測処理理論に基づく精度揺らぎモデルを提示し、双極性障害と統合失調症を統合的に再定義した。

さらに、実存精神療法を高次生成モデルの再安定化として再解釈した。

精神病理は意味の欠如ではなく、
意味形成機構の動的不均衡である。

存在とは、誤差を抱えながら可能性を開く運動である。


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