これまで構築してきた精度揺らぎモデルをさらに深化させ、
- ドーパミン=精度符号化の神経実装
- Manic-first hypothesis との接続
- 予測処理 × 実存哲学
- CBTの再定式化
を統合的に提示します。
Ⅰ.ドーパミン=精度符号化の神経実装
予測処理理論では「精度」は重みづけパラメータである。
では神経レベルでは何がそれを担うのか。
この点で重要なのがドーパミンである。
1.自由エネルギー原理との接続
自由エネルギー原理(Karl Friston)では、予測誤差の精度推定が中心的役割を果たす。
ドーパミンは、特に以下に関与すると考えられる:
- 報酬予測誤差
- 動機づけサリエンス
- 行動活性化
すなわち、
ドーパミン=予測誤差の精度符号化シグナル
と解釈できる。
2.躁状態との接続
躁状態では:
- ドーパミン活動亢進
- 報酬予測誤差の過大評価
- 探索温度上昇
数理的には:
[
Precision_{reward} \uparrow
]
その結果:
- リスク軽視
- 行動閾値低下
- 目標追求の加速
これは探索モードの神経実装と整合する。
3.抑うつとの接続
抑うつでは:
- ドーパミン機能低下
- 正の誤差の低精度化
結果:
[
Expected\ reward \downarrow
]
行動停止が生じる。
4.統合失調症との違い
統合失調症では、
- ドーパミンの異常放出
- 無関連刺激へのサリエンス付与
これは
[
Precision_{irrelevant\ error} \uparrow
]
と理解できる。
躁では「報酬」へ、
統合失調症では「意味」へ、
抑うつでは「損失」へ、
精度が偏倚する。
Ⅱ.Manic-first hypothesis との接続
Manic-first hypothesis は、
双極性障害の基盤は躁的過程にあり、抑うつは二次的である
という仮説である。
この立場は、探索暴走モデルと整合する。
1.進化的観点
進化的に有利なのは:
- 探索
- リーダーシップ
- リスクテイク
躁的傾向は適応的側面を持つ。
抑うつは、
- 探索失敗後の誤差固定
- エネルギー節約モード
として生じる可能性がある。
2.精度揺らぎモデルでの再解釈
躁相:
[
Precision_{reward} \uparrow
]
探索過剰
→ 失敗
→ 負の誤差固定
抑うつ相:
[
Precision_{negative} \uparrow
]
躁が原発で、抑うつが帰結。
これはManic-first仮説と理論的整合を持つ。
Ⅲ.予測処理 × 実存哲学
ここで理論を存在論的水準に拡張する。
予測処理理論では、世界は常に不確実であり、
生は誤差を抱えた状態で進む。
この構造は、
Martin Heidegger の「被投性」に近い。
1.存在=予測と誤差の緊張
人間は:
- 未来を予測し
- 誤差に直面し
- 意味を再構成する
躁では:
未来が過剰に開かれる。
抑うつでは:
未来が閉ざされる。
統合失調症では:
世界の構造自体が不安定化する。
2.意味形成の暴走と崩壊
妄想は意味の過剰形成、
抑うつは意味の収縮、
躁は意味の拡張。
実存哲学はこれを、
- 不安
- 可能性
- 限界
の問題として扱う。
Ⅳ.CBTの再定式化(予測処理モデル)
認知行動療法(CBT)は、
自動思考を検討し、信念を修正する。
予測処理理論で再定義すると:
CBT = 精度再配分訓練
1.躁への介入
目標:
- 報酬精度の過剰抑制
- リスク精度の回復
方法:
- 行動モニタリング
- 予測と結果の比較
- 誤差フィードバック強化
2.抑うつへの介入
目標:
- 負の誤差固定の緩和
- 正の誤差の精度上昇
方法:
- 行動活性化
- 小成功体験の蓄積
- 予測更新の可視化
3.統合失調症への介入
目標:
- ノイズ精度の低減
- 上位信念の柔軟化
方法:
- 現実検討
- メタ認知訓練
- 予測可能環境の構築
Ⅴ.総合理論図
- ドーパミン=精度符号化
- 躁=探索暴走
- 抑うつ=誤差固定
- 統合失調症=階層崩壊
- 双極性=精度振動
- Schizoaffective=横断振動
精神病理は、精度配分の異常で統一的に理解可能である。
