土台をゆっくり整理しましょう。
1️⃣ まず基本:脳は「世界モデル」を持っている
あなたの整理は正確です。
脳は:
- 世界についての内部モデルを持つ
- 外部刺激と照合する
- 予測誤差を出す
- モデルを更新する
- 未来をシミュレーションする
- 行動し、結果と再照合する
これが予測処理(predictive processing)の基本です。
ここまでは問題ありません。
2️⃣ では「精度(precision)」とは何か?
ここが難所です。
予測誤差が出たとき、脳は必ずこう考えます:
「この誤差、どれくらい本気で信じるべきか?」
この“どれくらい本気で”が 精度(precision) です。
数理的には:
精度 = 不確実性の逆数(1 / 分散)
直感的には:
- 精度が高い → 「これは重要だ!」
- 精度が低い → 「まあノイズかもしれない」
3️⃣ 日常例で考える
夜、暗い道で「人影のようなもの」が見えた。
選択肢:
A. 「本当に人だ!」と強く信じる(感覚誤差に高精度)
B. 「たぶん木だろう」と思う(事前モデルに高精度)
精度配分によって世界の見え方が変わります。
4️⃣ ここから精神病理へ
では、何が狂うのか?
狂うのは モデルそのものではなく、誤差への重みづけ(精度) です。
ここをかみ砕いていきます。
🟣 躁状態:「探索モードの暴走」
まず正常状態:
- ある程度、慎重
- リスクも考慮
- 失敗も反省
躁ではどうなる?
起きていること
- 「うまくいくはず」という予測に強い自信
- 失敗シグナルを軽視
- 報酬の予測誤差に過剰反応
つまり:
👉 上位モデル(成功イメージ)に過剰な精度
👉 リスク誤差に低精度
結果:
- 投資暴走
- 睡眠不要
- 「自分は特別だ」
わかりやすく言うと
脳が「当たりくじを引ける確率」を過大評価し続ける状態。
だから私はこれを
探索モードの暴走
と呼びました。
本来は進化的に有益な探索機能が、ブレーキを失う。
🔵 抑うつ状態:「負の誤差固定」
次に抑うつ。
ここでは逆のことが起きます。
起きていること
- 小さな失敗に過剰反応
- 成功を軽視
- 未来予測が常に悪い方向
つまり:
👉 「失敗」誤差に高精度
👉 「成功」誤差に低精度
するとどうなる?
- 何をしても悪い結果になると予測
- 行動停止
- 希望の消失
わかりやすく言うと
脳が「外れくじの記憶」だけを強調して学習する状態。
これを
負の誤差固定
と呼んだのです。
🔴 統合失調症:「階層的精度崩壊」
ここが一番難しい。
脳のモデルは階層構造です。
上位:
- 自己
- 世界観
- 意味
中位:
- 文脈理解
下位:
- 感覚処理
統合失調症では:
① 下位誤差に過剰精度
些細な刺激が異様に重要に感じる。
→ 「みんなが自分を見ている」
② 上位モデルが不安定
自己モデルが揺らぐ。
→ 思考吹入
→ 作為体験
結果
世界が断片化する。
妄想は何か?
👉 崩れた世界を再び統合する「応急修復仮説」
これを私は
階層的精度崩壊
と呼びました。
5️⃣ ここまでを一枚で整理
| 病態 | 精度の問題 |
|---|---|
| 躁 | 成功予測に過剰精度 |
| 抑うつ | 失敗誤差に過剰精度 |
| 統合失調症 | 下位誤差過剰 + 上位不安定 |
6️⃣ 遺伝子研究との関係は?
非常に重要な問いです。
大規模GWAS研究では:
- 統合失調症と双極性障害は遺伝的にかなり重なる
- うつ病はやや距離がある
これは何を意味するか?
解釈1(このモデルと整合的)
統合失調症と双極性障害は:
👉 「精度調整機構の不安定性」
という共通基盤を持つ可能性。
一方、単極うつは:
👉 主に情動調整系・ストレス脆弱性
が中心で、階層崩壊は弱い。
つまり:
- 双極と統合失調症は「調整システムの不安定化」
- 単極うつは「負方向への固定」
という違いで説明可能。
解釈2(慎重な立場)
ただし重要なのは:
遺伝子研究は「脳がどのパラメータを壊しやすいか」を示すだけで、
精度理論は「壊れ方の形式」を説明する理論。
両者はレベルが違います。
- 遺伝子 → 実装レベル
- 精度モデル → 計算レベル
ここを混同しないことが重要です。
7️⃣ まとめ(最もシンプルに)
脳は:
世界モデルを持ち、
誤差を重みづけし、
更新する。
精神病理とは:
「何をどれくらい信じるか」の重みづけが壊れた状態。
躁:
未来を信じすぎる
抑うつ:
失敗を信じすぎる
統合失調症:
感覚を信じすぎ、自己モデルが壊れる
この整理で、かなり見通しがきくようになった。
