では、ここまで組み立てた
- 自我の連続体モデル
- 進化的脆弱性モデル
を、精神療法理論と統合してみます。
目標はこうです:
自我は壊れる構造を持つ。
では精神療法は何を修復しているのか?
Ⅰ.統合理論の出発点
仮説:
精神療法とは「自我の予測安定性を回復する過程」である。
自我は
- 行為の生成
- 所有感
- 物語的一貫性
- 他者との境界
から成る動的構造でした。
それが揺らぐと症状が生じる。
精神療法は、この揺らぎの層に応じて作用する。
Ⅱ.層別 × 精神療法モデル
1️⃣ 身体的自己(minimal self)の不安定
症状例:
- 離人症
- パニック
- 身体違和感
有効なアプローチ:
- マインドフルネス
- 身体志向療法
- 呼吸法
- 自律神経調整
→ 身体予測の再同期
2️⃣ 能動性の障害
症状例:
- 強迫
- 無力感
- させられ感の萌芽
有効なアプローチ:
- 行動活性化
- ERP
- 自己効力感の再構築
→ 「自分が起こしている」という経験の再学習
3️⃣ 所有感の障害
症状例:
- 思考の異物化
- 感情の外在化
有効なアプローチ:
- CBTによる再帰属
- メタ認知療法
- 対話的関係形成
→ 内的生成物の再統合
4️⃣ 物語的自己の断裂
症状例:
- トラウマ
- 解離
- 境界性パーソナリティ
有効なアプローチ:
- ナラティヴ療法
- スキーマ療法
- 精神分析的治療
→ 自己物語の再編成
Ⅲ.統合失調症への応用
統合失調症では
- agency
- ownership
- 自明性
が深層で崩れる。
ここで重要なのは、
安定した他者の存在
です。
これは
- Donald Winnicottの「holding」
- Carl Rogersの受容
- ルートヴィヒ・ビンスワンガーの現存在的共存在
と接続します。
自我は単独では再建されにくい。
関係の中で安定する。
Ⅳ.進化モデルとの接合
進化論的に見ると、
自我は社会的装置でした。
ならば精神療法とは:
社会的予測環境を安全に再構築する場
である。
セラピー空間は
- 予測可能
- 安全
- 評価が安定
という特異な条件を持つ。
これが自我の再同期を促す。
Ⅴ.重要な転換点
ここで二つの治療観が分かれます。
A.強い自我を作る
- 自己主張
- 境界強化
- 能動性回復
B.自我を透明化する
- 脱中心化
- マインドフルネス
- 観察者自己の形成
後者は、
自我を「実体」ではなく「プロセス」として扱う。
Ⅵ.統合理論の核心命題
精神療法は、自我を固定するのではなく、
「柔軟に安定させる」。
硬い自我は折れる。
柔らかい自我は揺れながら保たれる。
Ⅶ.臨床的含意
この統合モデルに基づくと、
症状は
自我の壊れやすさの表現
であり、
治療とは
壊れない構造に作り替えることではなく
揺れても戻れる構造を作ること
になる。
