予測処理理論(自由エネルギー原理)を枠組みに、
- 躁状態=探索モードの暴走
- 抑うつ状態=過剰誤差固定
- 双極スペクトラム=連続的精度揺らぎモデル
- schizoaffective=階層横断的精度異常
として統一的数理モデルを提示します。
双極スペクトラムの精度揺らぎモデル
― 探索暴走・誤差固定・階層横断異常の統合理論 ―
1.理論的前提
予測処理理論では、脳は階層的生成モデルを用いて自由エネルギーを最小化する(Karl Friston)。
ベイズ形式で書けば:
[
Posterior \propto Prior \times Likelihood
]
ここで鍵となるのは**精度(precision)**である。
- 事前信念の精度:上位モデルの確信度
- 誤差の精度:感覚入力の重み
気分障害は、この精度推定の動的揺らぎとして理解できる。
2.躁状態:探索モードの暴走
2.1 探索と活用(exploration vs exploitation)
適応的意思決定には、
- exploitation(既存モデルの活用)
- exploration(新規モデル探索)
のバランスが必要である。
躁状態は、exploration側の過剰偏倚と仮定できる。
2.2 数理的記述
探索は「モデル不確実性の許容」に依存する。
通常:
- 誤差が出る
- モデル更新
- 不確実性低減
躁状態では:
- 上位Priorの精度過剰
- 負の誤差の精度低下
- 報酬予測誤差の過大評価
結果:
[
Expected\ Utility \uparrow
]
リスクコストの重みづけが低下する。
2.3 探索暴走モデル
躁状態を以下のように定式化できる:
[
Precision_{reward} \gg Precision_{risk}
]
その結果、
- 行動活性化の増加
- 睡眠抑制
- 観念奔逸(高連想率)
これは探索温度パラメータの過剰上昇と同型である。
3.抑うつ状態:過剰誤差固定
3.1 臨床特徴
- 無価値感
- 未来悲観
- 行動抑制
- 思考反芻
3.2 数理的再定義
抑うつでは、
- 負の誤差に高精度
- 正の誤差に低精度
が付与される。
[
Precision_{negative\ error} \uparrow
]
その結果、
Posterior ≈ 負のPrior
モデル更新は起こるが、負方向へ固定化される。
3.3 行動レベル
期待価値:
[
E(V) = Reward – Cost
]
抑うつでは
- Reward予測 ↓
- Cost予測 ↑
結果:
行動停止
これはexploration温度の極端な低下と理解できる。
4.双極スペクトラム:連続的精度揺らぎモデル
双極性障害は、
固定異常ではなく時間的振動である。
精度揺らぎ仮説
[
Precision(t) = \mu + A \sin(\omega t)
]
- μ:基礎精度
- A:振幅
- ω:周期
躁相では:
- Reward精度 ↑
- Risk精度 ↓
抑うつ相では:
- Negative誤差精度 ↑
- Positive誤差精度 ↓
重要なのは、
精度が固定異常ではなく動的振動である点である。
5.統合失調症との比較
統合失調症では:
- 精度推定の階層的崩壊
- 感覚誤差の過大評価
- 自己モデルの不安定化
双極性障害では:
- 精度の時間的揺らぎ
- 自己モデルは基本的に保持
6.Schizoaffective:階層横断異常
統合失調症と双極性障害の重複は、
時間的振動+階層的不安定
として理解できる。
数理的には:
[
Precision_{multi-level}(t)
]
- 上位自己モデル精度の振動
- 感覚誤差精度の不安定化
結果:
- 気分変動
- 妄想形成
- 自我障害
が同時に出現する。
これは
階層横断的精度異常
である。
7.統合理論図式
| 病態 | 精度異常の型 |
|---|---|
| 統合失調症 | 階層崩壊型 |
| 躁状態 | 探索暴走型 |
| 抑うつ状態 | 誤差固定型 |
| 双極性障害 | 精度振動型 |
| Schizoaffective | 階層横断振動型 |
8.理論的意義
この枠組みでは:
- 精神病は意味の崩壊ではない
- 精度配分の異常である
- 気分障害と精神病は連続体である
- 双極性障害は動的精度モデルである
進化論的視点では:
- 探索過剰 → 躁
- 損失回避過剰 → 抑うつ
- サリエンス崩壊 → 統合失調症
いずれも適応機構の極端化である。
