精神科臨床の核心に触れるテーマです。
まず前提として整理すると、
- 自我の能動性(sense of agency)
→「これは自分が起こしている」という感覚 - 自己所属感(sense of ownership)
→「これは自分のものだ」という感覚
この二つは理論上区別可能ですが、臨床ではしばしば絡み合っています。
以下、代表的な症状を列挙し、
①自我の能動性障害の程度
②自己所属感障害の程度
の二軸で整理してみます。
Ⅰ.自我の能動性(agency)障害の程度で並べる
(軽度 → 重度)
① 強迫性障害(OCD)
- 「自分の考え」であることは分かっている
- しかし「止められない」
- 行為は自発的だが、半ば強制されている感覚
▶ 能動性:軽度〜中等度の障害
▶ 所属感:保たれる
② 抑うつにおける精神運動抑制
- 「動けない」
- 「やらなければと思うができない」
▶ 能動性:低下
▶ 所属感:保たれる
③ 自生思考(Gedankenlautwerden 以前の段階)
- 「勝手に浮かんでくる」
- しかし「自分の思考」であることは分かる
▶ 能動性:中等度障害
▶ 所属感:ほぼ保たれる
④ させられ体験(作為体験)
- 「考えさせられている」
- 「身体を動かされている」
▶ 能動性:高度障害
▶ 所属感:部分的に崩れる(自己の行為である感じが弱まる)
⑤ 思考吹入・思考奪取
- 思考が入れられる
- 思考が抜き取られる
▶ 能動性:極度障害
▶ 所属感:著明に障害
⑥ 幻聴(とくに対話型・命令型)
- 自分の内的言語が「他者の声」として経験される
▶ 能動性:ほぼ消失
▶ 所属感:消失
Ⅱ.自己所属感(ownership)障害の程度で並べる
(軽度 → 重度)
① 強迫観念
- 「自分の考えだが嫌だ」
▶ 所属感:保たれる
② 離人症(自分が自分でない感じ)
- 行為は自分のものだが、実感が希薄
▶ 所属感:中等度障害
▶ 能動性:比較的保たれる
③ 離隔化体験(自分の身体が自分のものに感じない)
▶ 所属感:中等度〜高度障害
④ させられ体験
- 「私の身体だが、私の意志ではない」
▶ 所属感:部分障害
▶ 能動性:高度障害
⑤ 思考吹入
- 「これは私の考えではない」
▶ 所属感:高度障害
⑥ 幻聴
- 完全に外在化
▶ 所属感:消失
Ⅲ.さらに加えられる症状
以下も同じ軸に配置可能です。
・統合失調症の作為感情
- 感情を「入れられた」と感じる
・被影響体験
- 思考・感情・身体が操作されている
・身体図式障害(例:身体パラフレニア)
・解離性障害(人格交代)
- 所属感の断裂
・躁状態の誇大型自己感
- 能動性は過剰
- 所属感は拡張(自己境界の肥大)
Ⅳ.整理図(概念的)
| 症状 | 能動性障害 | 所属感障害 |
|---|---|---|
| 強迫 | 軽 | なし |
| 自生思考 | 中 | 軽 |
| 離人症 | 軽 | 中 |
| させられ体験 | 高 | 中 |
| 思考吹入 | 極高 | 高 |
| 幻聴 | 消失 | 消失 |
Ⅴ.理論的考察
この問題は、
- カール・ヤスパースの「一次妄想」
- クルト・シュナイダーの「一級症状」
- Edmund Husserlの現象学的自我
- Maurice Merleau-Pontyの身体図式
と直結します。
特に統合失調症では、
「行為の予測モデル(efference copy)の破綻」
が、agencyの喪失を生むとされます。
これは神経科学的には
- 内的予測と感覚フィードバックの不一致
- コロラリーディスチャージ仮説
と関係します。
Ⅵ.本質的問い
あなたが問うているのは、
自我とは何か?
自己とはどの層で崩れるのか?
という問題です。
自我は一枚岩ではなく、
- 行為の生成
- 所有感
- 意図性
- 物語的自己
という層を持ちます。
統合失調症は、
その中でも最も深い層(前反省的自己)を侵す。
強迫症は、
意志の自由の層を侵すが、自己所属感は保たれる。
このような階層構造で整理することも可能です。

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