Ⅰ グローバル資本主義と主権国家
— 権力の場所はどこにあるのか —
1 前提:主権国家の論理
近代国家は、
- 領土
- 国民
- 主権
を単位として成立した。
政治的決定は、国境の内側で完結する、という前提である。
この枠組みは、ウェストファリア体制以来の原則であり、
政治思想的にはトマス・ホッブズやジャン=ジャック・ルソーの社会契約論によって理論化された。
国家は最高決定主体である。
2 グローバル資本主義の特質
しかし現代の資本は、
- 国境を越えて移動する
- 法制度の差を利用する
- 税制の違いを選択する
- 金融市場で即時移動する
資本は主権に縛られない。
つまり、
経済的権力は脱領土化している。
国家は依然として領土的存在だが、
資本は流動的存在である。
ここに非対称性がある。
3 主権の空洞化
国家は、
- 雇用
- 税収
- 投資
を確保するために、資本を引き留める必要がある。
その結果、
- 法人税引き下げ
- 規制緩和
- 労働市場柔軟化
が行われる。
これは主権の自発的縮減である。
形式的主権は維持されるが、
政策の選択肢は狭まる。
この現象を「主権の空洞化」と呼べる。
Ⅱ 新自由主義とポピュリズム
— 市場化と怒りの政治 —
1 新自由主義の基本原理
新自由主義は、
- 市場の効率性
- 規制の最小化
- 国家の縮小
を掲げる思想潮流である。
理論的にはミルトン・フリードマンやフリードリヒ・ハイエクに代表される。
ここでは市場が最も合理的な配分装置とされる。
2 結果としての不平等
市場化が進むと、
- 競争力のある層は上昇
- 競争力の弱い層は停滞
という格差が拡大する傾向がある。
国家の再分配機能が弱まれば、
社会的緩衝材が薄くなる。
3 ポピュリズムの発生
格差拡大と不安定化は、
- エリートへの不信
- グローバル化への反発
を生む。
ここでポピュリズムが登場する。
ポピュリズムは、
「純粋な人民」対「腐敗したエリート」
という対立図式を作る。
しかし重要なのは、
ポピュリズムは資本主義そのものを必ずしも否定しないことだ。
むしろ、
- グローバル資本への怒りを
- ナショナルな枠組みに回収する
ことで支持を集める。
結果として、
構造的資本の力は温存されることが多い。
Ⅲ なぜ両者は結びつくのか
新自由主義は市場を拡張する。
その副作用として不安が広がる。
ポピュリズムはその不安を動員する。
しかし、
- 市場構造の根本的変更
- 資本移動の制御
には踏み込まない場合が多い。
したがって、
新自由主義とポピュリズムは対立しているようでいて、
結果的に共存する。
市場は拡張し、
政治は感情化する。
Ⅳ 民主主義の再設計は可能か
可能性を検討する。
1 国家レベルの改革
- 資本移動への国際的規制
- 租税回避の防止
- 格差是正
しかしこれは単一国家では困難である。
2 超国家的民主主義
主権国家の枠を超えた制度が必要になる。
例としては欧州連合がある。
だが、EUも民主的正統性の問題を抱えている。
3 経済の民主化
- 労働者参加型経営
- 協同組合モデル
- 地域通貨
資本の意思決定過程に民主的要素を組み込む試み。
これは市場の完全否定ではなく、
構造修正である。
4 熟議民主主義
単純多数決ではなく、
- 討議
- 情報公開
- 透明性
を強化するモデル。
理論的にはユルゲン・ハーバーマスの公共圏論がある。
しかし熟議は時間と教育水準を必要とする。
Ⅴ 結論的整理
現在の状況を要約すれば:
- 資本は脱領土化し、主権は領土に縛られる。
- 新自由主義は市場を拡張し、格差を拡大する。
- ポピュリズムは怒りを政治化するが、構造を変えない。
- 民主主義は形式を保ちながら、実質的制約を受けている。
民主主義の再設計は理論的には可能だが、
それは国家単位を超えた制度改革を含まざるを得ない。
最後に一つ整理すると、
民主主義が「負けている」のか、
それとも「設計条件が変わった」のか。
この問いをどう捉えるかで、
悲観にも、再設計の議論にも進める。
