EU型モデルの深化と民主的正統性の課題
— 統合は進められるのか、誰の名で —
EU型モデルとは、主権国家が一部の権限を超国家機関に移譲し、共通の市場・通貨・法制度を運営する仕組みである。典型例は 欧州連合(EU)。
問題は二つに分かれる。
- 統合はどこまで深化可能か。
- その決定は「誰の意思」として正当化されるのか。
以下、順に整理する。
Ⅰ EU型モデルの深化とは何か
深化には三つの次元がある。
1 政策統合の深化
- 共通財政政策
- 共通防衛政策
- 共通社会保障基準
単一通貨(ユーロ)を持つ以上、財政統合が不十分だと危機が起きる。
ユーロ危機はその典型であった。
2 制度的統合の深化
- 欧州議会の権限強化
- 欧州委員会の民主的統制
- 共通憲法の明確化
現在、EUは
- 欧州議会(直接選挙)
- 欧州委員会(加盟国政府の推薦)
- 欧州理事会(首脳会議)
の三層で運営される。
だが、権限配分は複雑で、市民にとって分かりにくい。
3 市民的統合の深化
- 欧州市民意識の形成
- 教育・メディアの統合
- 共通の公共圏の形成
制度よりも難しいのはこの部分である。
Ⅱ 民主的正統性の問題
EUが直面している核心は「民主的赤字(democratic deficit)」と呼ばれる問題である。
1 代表の距離
国家レベルでは、
- 有権者 → 国会 → 政府
という因果関係が比較的明確である。
EUでは、
- 有権者 → 欧州議会
- 加盟国政府 → 欧州理事会
- 委員会 → 法案提出
と多層構造になり、責任の所在が見えにくい。
2 デモス(人民)の不在
民主主義は「人民」の存在を前提とする。
国家には言語・歴史・教育を共有するデモスがある。
しかしEUには単一のデモスが存在するとは言い難い。
- フランスの有権者
- ドイツの有権者
- ポーランドの有権者
の政治的優先順位は一致しない。
ここで問題は、
欧州レベルの人民は存在するのか
という問いになる。
Ⅲ 深化のジレンマ
統合を深化させるほど、
- 政策は中央に集中する
- 国家主権は縮小する
しかし市民の帰属意識は依然として国家に強い。
その結果、
- 統合は進むが
- 心理的支持は弱まる
このギャップがポピュリズムを生む。
Ⅳ 正統性を確保するための方向性
1 直接民主的要素の強化
- EU全体の国民投票
- 欧州議会の立法主導権強化
しかし全体投票は大国の影響が強くなる問題がある。
2 二重正統性モデル
「市民の代表」と「加盟国の代表」の両方に基礎を置く。
これは連邦制に近い。
アメリカ合衆国型の二院制モデルが参考になる。
3 段階的統合(可変速統合)
すべての国が同時に深化しない。
意思のある国が先行する。
ただし、分断の危険がある。
4 公共圏の形成
ユルゲン・ハーバーマスは、欧州公共圏の形成を重視した。
共通の討議空間がなければ、正統性は生まれない。
しかし言語の多様性が障壁になる。
Ⅴ 理論的帰結
EU型モデルの深化は制度的には可能である。
しかし民主的正統性は、制度設計だけでは保証されない。
民主主義は三層から成る。
- 制度
- 手続き
- 帰属意識
EUは①②を整備しつつあるが、③が弱い。
ここに限界がある。
Ⅵ より一般的な結論
国家単位を超えた民主主義は、
- 経済的必要性からは求められる
- 心理的基盤の不足によって制約される
制度が先行し、
帰属が後から追いつくのか。
それとも帰属がなければ制度は崩れるのか。
EUはその実験場である。
