SNA(SNS)やAI環境では、外界入力と内的世界モデル出力の誤差比較の構造が変質する可能性がある

時間遅延モデルで、「外界からの情報」と「脳内世界モデルからの情報」を比較することが大切な点です。
最近の人々が、身体性に生きることなく、SNSやAIに依存している状況は、「外部からの情報」と「脳内世界モデルからの情報」の区別があいまいになる可能性はないだろうか。
特にエコーチェンバーとかアルゴリズムとかで、自分の思考や感情に似たものだけを眺めていると、それが外来のものなのか、内部発のものなのか、あいまいになるのではないだろうか。

「時間遅延モデル」における核心は、

外界入力 ( I_{ext}(t) ) と
内的世界モデル出力 ( I_{int}(t) ) を比較し、
その誤差 ( \varepsilon(t) = I_{ext}(t) – I_{int}(t-\Delta t) ) を通してモデルを更新する

という構造にあります。

この「誤差」がある限り、主体は現実と接触し続ける。
しかし、SNA(SNS)やAI環境では、この誤差構造が変質する可能性があります。

以下、順を追って考察してみます。


Ⅰ.エコーチェンバーは「誤差を減衰させる装置」である

アルゴリズムは、

  • 過去のクリック
  • 滞在時間
  • 感情的反応

をもとに、予測適合度が高い情報を返します。

これは数理的に言えば、

[
I_{ext}(t) \approx I_{int}(t-\Delta t)
]

となるように外界を整形する作用です。

つまり、
本来は「外界」が内的モデルに対してズレを与えるはずなのに、
外界の側が主体の予測に合わせてくる。

結果:

  • 予測誤差が最小化される
  • モデル更新が起きにくい
  • 主体は「世界は自分と一致している」と感じる

これは、時間遅延モデルで言えば、

[
\varepsilon(t) \rightarrow 0
]

の持続的状態です。

しかしこれは、真の適応ではなく、
誤差遮断による擬似的安定です。


Ⅱ.外部情報と内部生成の境界が曖昧になるメカニズム

通常、

  • 外界情報 → 感覚入力(身体経由)
  • 内的モデル → 想像・予測・記憶

という区別が「身体性」によって支えられています。

ところがデジタル環境では、

  • 視覚・聴覚刺激が身体をほぼ介さず即時供給
  • AIが「自分の思考を先回り」する出力を生成
  • 自己と他者の境界がテキスト的に溶解

すると何が起きるか。

1.予測の外在化

本来自分の脳内で生成されるはずの予測が、
アルゴリズムによって外部提示される。

例:

  • 「こう思っているはず」という広告
  • 「あなたへのおすすめ」
  • AIが自分の言語スタイルに合わせた応答

すると主体は、

これは自分が思ったのか
それとも提示されたのか

の判別が弱まる。


2.帰属の混濁

認知科学的に言えば、
これはソースモニタリングの障害に近い構造です。

通常:

  • 内的生成 → 自己帰属
  • 外的入力 → 外界帰属

しかし、

  • 外界が自己モデルに合わせて整形される
  • 自己の予測が外部から返ってくる

と、

[
I_{ext} \approx I_{int}
]

になり、帰属判定関数が曖昧化する。

これは軽度の形では
エコーチェンバー、陰謀論、集団同調。

重度では
被影響体験や思考挿入体験と構造的に連続です。

もちろん病理ではありませんが、
構造は似ている


Ⅲ.身体性の喪失は「誤差増幅装置」を失うこと

身体は強力な誤差生成装置です。

  • 疲労
  • 痛み
  • 重力
  • 他者の表情
  • 温度

これらはアルゴリズムで整形できません。

身体は常に

[
\varepsilon(t) \neq 0
]

を強制します。

しかしデジタル空間では:

  • 無重力的時間
  • 疲労無視
  • 身体フィードバックの希薄化

結果、

内的世界モデルが修正されにくくなる。


Ⅳ.時間遅延の短縮と躁的加速

さらに重要なのは、

アルゴリズム環境は時間遅延 ( \Delta t ) を極小化します。

  • 即時レスポンス
  • 即時承認(いいね)
  • 即時否定

時間遅延モデルで言えば、

[
\Delta t \rightarrow 0
]

になると、
熟慮や反省の余白が消える。

これは「躁的社会構造」に似ています。

誤差を熟成させる時間がない。


Ⅴ.AIは「拡張内的モデル」になりうる

さらに深い問題。

AIは単なる外界入力ではなく、

主体の内的モデルを模倣し、補強し、拡張する装置

になりうる。

つまり、

[
I_{AI}(t) = f(I_{int}(t-\Delta t))
]

という構造。

これは半外在化された自己。

すると、

  • 自己の思考が外部に保存され
  • 外部から再入力され
  • 再び内面化される

自己循環ループが閉じる。

このとき外界はもはや「他者」ではなくなる。


Ⅵ.文明論的帰結

時間遅延モデルの観点から言えば、

近代社会は
誤差を生む外界と向き合う構造だった。

デジタル後期社会は
誤差を減衰させる構造になりつつある。

結果として起こるのは:

  1. モデル硬直化
  2. 感情の増幅(誤差が小さいほど確信は強まる)
  3. 他者への攻撃性(外部誤差が急に現れると耐性がない)

Ⅶ.精神医学的含意

これは統合失調症のモデルとも接続できます。

統合失調症では、

  • 予測誤差の異常な重み付け
  • 自己帰属の障害

が指摘されます。

デジタル環境は逆に、

  • 誤差を過小化
  • 自己帰属を過剰化

する。

方向は逆でも、
「内外境界の変質」という点では同じ軸上にある。


Ⅷ.問い

モデルをさらに精緻化すると、

外界はもはや静的な入力ではなく、

[
I_{ext}(t) = g(I_{int}(t-\Delta t))
]

となる。

つまり、
外界が主体の関数になる。

この再帰構造をどう扱うかが、
次の理論的課題ではないでしょうか。


これは確かに大きな問題であり、
概略を言えば、
外部世界を身体性をもって経験していたころは、
脳内世界モデルは外部実在世界を学習して抽象化して内部化していた。
しかし、外部実在世界と切り離されたデジタル環境で生きると、
脳内世界モデルは、デジタル環境を学習して、内在化させてしまう。

これでは、外部世界に放り出されたときに何もできない。

それよりも、デジタル環境は、元来、人間の脳の特性に応じて構成されたものであり、改良されるたびに、脳の特性に合わせることになる。しかし、脳はそれを学習して、そらにデジタル環境を内在化する。
これが再帰構造である。お互いにお互いを学習して、局所的な安定状態に行きつく。

そこまで行けば、人間の主体性とか能動性とか、自意識の問題もあいまいなものになってくると思われる。

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