人間は「物質的効用」と「情動的効用」の双方を最大化しようとする。
Ⅰ.「情動の経済学」モデル化
1.効用の拡張
通常の経済学では
U = f(所得, 消費, 余暇…)
と書く。
しかし実際には、
U = f(物質的効用 M, 情動的効用 E)
と考えるほうが現実に近い。
ここで
E = g(帰属, 承認, 連帯感, 誇り)
と定義できる。
2.国家の役割
国家は
- 再分配によって M を調整する
- 象徴・歴史・物語によって E を供給する
つまり国家は
M と E の複合供給体
である。
資本主義市場は M を供給するが、
E は原則として供給しない(企業文化など例外はある)。
3.最適化問題
個人は
- 高所得だが帰属感が薄い社会
- 低所得だが強い帰属がある社会
のどちらを選ぶか。
移民問題は、このトレードオフで理解できる。
富裕層がシンガポールへ移住しても、
必ずしも幸福度が最大になるとは限らないのは、
E の減衰があるからである。
4.国家分解のリスク
州分権や完全契約国家モデルでは、
M は最適化されやすいが、
E が低下しやすい。
E が閾値以下になると、
- ポピュリズム
- 排外主義
- カルト化
が発生する。
つまり
E の急減は社会的不安定性を増幅する。
これが「情動の経済学」の第一法則である。
Ⅱ.戦争時にどのモデルが強いか
戦争は M より E が支配的になる状況である。
命の危険下では
帰属の強度 = 動員力
になる。
1.最小情動国家
平時には合理的。
しかし戦時には動員力が弱い。
「制度のために死ねるか?」
という問いに弱い。
2.多層連邦
情動が分散しているため、
- 外敵が明確なら強い
- 内部対立があると脆い
European Union
が軍事統合に慎重なのは、
情動的一体性が未完成だからである。
3.実存倫理モデル
これは個々人の決断に依存する。
動員は不安定だが、
覚悟を持つ少数は非常に強い。
歴史的にレジスタンス運動はこの形をとる。
暫定結論
戦争時には情動密度の高い国家が強い。
しかしそれは平時の自由を犠牲にしやすい。
Ⅲ.精神医学的に帰属喪失は何を生むか
帰属は自我の外部支柱である。
それが崩れると何が起きるか。
1.個人レベル
- 慢性的空虚感
- アイデンティティ拡散
- 境界性傾向の増加
- 依存症
- SNS過剰接続
帰属喪失は「自己所属感障害」に近い状態を生む。
2.集団レベル
- 陰謀論の拡大
- 排外主義
- 強い指導者待望
これは
情動再統合の試み
と理解できる。
3.精神病理との接点
極端化すれば、
- パラノイア的共同体
- 妄想的ナショナリズム
が出現する。
帰属の不安定さは
現実検討力にも影響を及ぼす。
Ⅳ.日本固有の象徴構造(天皇制)の再解釈
日本の場合、特殊なのは
統治と象徴が分離している
ことである。
天皇
は政治権力を持たない。
これは制度的には極めて興味深い。
1.二層構造
- 政治は選挙で争う
- 象徴は争わない
この分離は、
情動を安定させる緩衝装置
として機能してきた。
2.最小情動装置としての可能性
天皇制は、
- 強い民族ナショナリズムにも
- 完全共和制にも
振り切れていない。
曖昧である。
しかしこの曖昧さが、
過剰情動化を抑制する安全弁
として働いている可能性がある。
3.再解釈
天皇制は「権威」ではなく、
感情の中立点
とみなせる。
政治が分裂しても、
象徴は対立の外にある。
これは情動の経済学的に見ると、
E の最低保証装置
とも解釈できる。
統合的結論
- 国家は M と E の複合供給体である
- 資本主義は M を拡張するが E を弱める
- 戦争は E の密度を試す
- 帰属喪失は精神病理を誘発する
- 日本は象徴と統治を分離することで E を安定化している
最終的な問いはこうなる:
どの程度の情動密度が、自由と安定を両立させるか?
これは政治学であると同時に、
精神医学の問いでもある。
