I.国家を「最小情動装置」に再設計する理論
1.出発点
前提:
- 国家は情動的帰属装置である
- しかし過剰な情動は排外主義と戦争を生む
- 資本主義は流動化を促進する
ならば目標は、
情動をゼロにするのではなく、必要最小限に縮減する
ことである。
2.国家の機能分解
国家機能を三層に分解する:
① 安全保障
② 再分配
③ 文化的象徴
このうち、情動が不可欠なのは①と②である。
③は過剰になりやすい。
したがって、
- 象徴は維持するが神話化しない
- 教育はナショナル神話より制度理解を中心に
- 愛国は義務ではなく選択
という設計になる。
3.理論的支柱
このモデルは、
John Rawls
の「重なり合う合意」に近い。
国家への帰属は
- 宗教的でも
- 民族的でも
- 感情的でもよいが
最終的に合意するのは
公正な制度を維持すること
である。
国家は「感情の母体」ではなく
手続きの共有体
へと収斂する。
4.危険
- 帰属感の希薄化
- 投票率低下
- 防衛意識の低下
つまり「冷たい国家」になる。
しかし、これはグローバル資本主義との整合性は高い。
II.情動を前提にした新しい連邦モデル
1.出発点
情動は不可避である。
ならば抑圧するのではなく、多層化する。
2.多層帰属モデル
人は同時に複数に帰属できる:
- 地域
- 国家
- 連邦
- 文明圏
例えば
European Union
は試みの一つである。
「フランス人でありヨーロッパ人である」
という二重帰属。
3.連邦の設計原理
- 再分配は下位単位で
- 安全保障は上位単位で
- 文化は多様に保持
情動を一極集中させない。
州ごとに税制やサービスを変えつつ、
連邦は安全保障と市場統合を担う。
これは
情動の分散化による安定
を目指す。
4.利点と困難
利点:
- 政策競争が可能
- 内戦リスク低減
困難:
- 情動が州ナショナリズムに転化
- 上位単位への忠誠が弱い
歴史的に連邦は、
強い外敵があるときに安定しやすい。
III.実存的に「帰属を引き受ける」倫理論
1.制度を超える問い
ここでは制度設計よりも、主体の態度を問う。
人間はどこにも完全には適合しない。
どの国家も不完全である。
したがって帰属とは
選択ではなく、引き受け
である。
2.実存的構図
私は偶然この国に生まれた。
- 言語
- 歴史
- 制度
- 欠点
すべてを含めて。
それを完全合理的に評価して
他国へ移ることも可能である。
しかし残るという行為は、
不完全な共同体への責任を引き受ける
という選択でもある。
3.哲学的背景
この方向は
Søren Kierkegaard
や
Karl Jaspers
の実存思想に近い。
帰属は合理的契約ではなく、
決断
である。
4.倫理的帰結
国家は理想的でなくてよい。
しかし自分がそこにいる限り、
- 投票する
- 批判する
- 改善を試みる
それが倫理的態度になる。
移住もまた決断であり、逃避とは限らない。
重要なのは「無関心」ではないこと。
三モデルの比較
| モデル | 情動の扱い | 安定性 | 自由度 | 危険 |
|---|---|---|---|---|
| 最小情動国家 | 極小化 | 中 | 高 | 冷却・無関心 |
| 多層連邦 | 分散 | 高 | 中 | 分裂 |
| 実存倫理 | 主体に委ねる | 不確定 | 高 | 道徳的疲労 |
統合的視点
現実には、
- 制度は連邦的に分権化し
- 国家情動は最小化し
- 主体は実存的に引き受ける
という複合モデルになる可能性が高い。
