結論を先に言えば:
核抑止は「高強度の戦争」を安定させるが、
「低強度の不安」を常態化させる。
つまり、
安定と不安定を同時に生む構造を持っています。
Ⅰ.核抑止の基本構造
核抑止の理論的核心は:
- 相互確証破壊(Mutual Assured Destruction)
- 第二撃能力
- 合理的行為者仮定
代表例は
Cold War
期の
United States
と
Soviet Union
の関係です。
論理は単純:
核戦争は双方の破滅
→ だから使えない
→ だから大戦は起きない
実際、米ソは直接全面戦争を回避しました。
この意味で核抑止は「安定化」しました。
Ⅱ.しかし、なぜ不安定化も起こるのか
1.恐怖の慢性化
核抑止は恐怖を消しません。
むしろ:
常に最悪の破滅可能性が背景にある
これは慢性的な「過覚醒状態」に近い。
冷戦期の核危機
(例:
Cuban Missile Crisis
)
では、偶発的要因が世界を破滅寸前まで運びました。
核は「一度の誤算」が致命的。
つまり:
- 戦争は減る
- 破局リスクは巨大化する
2.安定・不安定パラドックス
核保有国同士は全面戦争を避ける。
しかしその下で:
- 代理戦争
- サイバー攻撃
- 限定的衝突
が増える可能性がある。
これは「安定・不安定パラドックス」と呼ばれる。
核があるから大戦は起きにくい。
しかし核があるからこそ、下位レベルで攻撃的になれる。
Ⅲ.情動力学的に見る核抑止
核抑止は:
恐怖を制度化したシステム
である。
重要なのは、恐怖の「質」。
健全な恐怖
- 計算可能
- 透明
- 誤認が少ない
→ 抑止は安定する
病的な恐怖
- 相手の意図を過剰に悪意解釈
- 誤情報
- 国内政治の圧力
→ エスカレーションが起こる
Ⅳ.現代は冷戦より安定か?
冷戦期は二極構造で比較的明確だった。
現在は:
- 多極化
- 核保有国の増加
- 非国家主体
- AI・サイバー要素
不確実性が増大している。
恐怖が「分散」している。
分散恐怖は制御が難しい。
Ⅴ.日本の位置
日本は非核三原則を持ちつつ、
安全保障は
United States
の核抑止に依存している。
これは:
恐怖を外部委託する構造
とも言える。
国内的には核の恐怖は抑圧されているが、
情動的基盤は外部に依存している。
Ⅵ.安定か不安定か?
まとめると:
マクロ(大戦レベル)
→ 安定化
ミクロ(危機管理レベル)
→ 不安定化
情動レベル
→ 慢性的恐怖の固定化
Ⅶ.最も危険な条件
核抑止が崩れるのは:
- 合理性仮定が崩れるとき
- 誤情報が支配するとき
- 国内政治が指導者を追い込むとき
- 体制不安が強いとき
恐怖が「屈辱」と結びつくと危険度が上がる。
Ⅷ.最終的な評価
核抑止は:
戦争を防ぐために、恐怖を永久化する制度
です。
それはある種の「不安を抱えた安定」。
臨床的に言えば、
- パニックは抑えられている
- しかし慢性不安は治っていない
状態に似ています。
