ここでは国家を患者に見立てるのではなく、
国家という情動構造と、臨床で観察される心的構造の「相同性」
を扱います。比喩は使うが、診断の乱用は避けます。
Ⅰ.理論的前提:国家は情動場である
国家は法制度だけでは維持されない。
- 誇り
- 恐怖
- 被害感覚
- 連帯感
- 恥
- 怒り
といった情動が、無数の個人に分配され、共有され、再帰的に強化される。
ここで国家は
巨大な情動循環系
として理解できる。
精神科臨床はまさに、
情動循環の破綻
を扱う領域である。
Ⅱ.臨床モデルとの対応関係
以下は診断ではなく構造アナロジーである。
1.不安障害モデル
慢性的な外敵不安
過剰警戒
最悪シナリオ思考
国家レベルでは:
- 常時の安全保障緊張
- 過剰な脅威想定
- 例外状態の常態化
不安が高いと、
合理的議論より安全希求が優位
になる。
2.抑うつモデル
臨床的抑うつでは:
- 自己否定
- 無力感
- 未来悲観
国家レベルでは:
- 歴史的自己否定
- 経済停滞の固定化物語
- 「もうだめだ」言説
情動エネルギーが低下すると、社会は萎縮する。
3.境界性構造モデル
特徴:
- 理想化と脱価値化の急転
- 見捨てられ不安
- 分裂(善悪二分)
国家的には:
- 急激な英雄視と糾弾
- 世論の急反転
- 敵味方の極端化
SNS環境ではこれが加速する。
4.パラノイド構造
特徴:
- 意味の過剰解釈
- 敵意帰属
- 被害の物語化
国家レベルでは:
- 陰謀論の拡散
- 内部裏切り者の探索
- 外部勢力への過剰帰責
重要なのは、
個々人は必ずしも病理ではない
しかし構造が病理的振る舞いを増幅する
という点。
Ⅲ.精神科臨床から見た「帰属」の意味
臨床で頻繁に見られるのは、
帰属喪失が症状を悪化させる
という事実。
孤立は
- 不安を増幅し
- 思考を硬直させ
- 妄想傾向を強める
国家的帰属が弱体化すると、
人はより小さく、より強い帰属(過激集団、排外主義など)へ移動しやすい。
Ⅳ.治療モデルから国家を考える
臨床は何をするか?
- 安定した枠組みを提供
- 情動を言語化
- 極端化を緩和
- 関係性を修復
これを国家レベルに抽象化すると:
- 透明な制度
- 情動を言語化できる公共空間
- 急進的物語の緩衝装置
- 包摂的帰属設計
となる。
Ⅴ.日本的文脈
日本では、象徴構造として
今上天皇
が「統合の象徴」とされる。
ここで重要なのは政治権力ではなく、
分裂を緩和する象徴的機能
である。
臨床で言えば、
分裂を統合する第三項
に近い。
ただし象徴が万能になると依存構造も生む。
Ⅵ.危機時に何が起きるか
戦争・災害・経済崩壊では、
- 情動の原始化
- 善悪の単純化
- 異端排除
が起きやすい。
これは個人のトラウマ反応と同型である。
Ⅶ.倫理的注意
ここで最も重要なのは:
国家を「精神病」と断定することは誤りであり危険
である。
精神医学的比喩は、
- 理解の道具
- 予防の視点
として使うべきで、
烙印の道具にしてはならない。
Ⅷ.統合命題
国家情動は、
- 不安
- 帰属
- 承認
- 恐怖
の循環系である。
精神科臨床は、
情動が暴走しないようにする技術
を蓄積してきた。
それは国家にも応用可能である。
