大規模戦争は「躁的高揚」から起きるのか
それとも「恐怖と不安」から起きるのか
結論を先に言えば――
起動力は恐怖、加速装置は躁
である可能性が高い。
順に整理します。
Ⅰ.戦争の二つの情動エンジン
1.恐怖モデル(防衛的起動)
恐怖は:
- 脅威知覚の増幅
- 先制行動の合理化
- 同盟依存の強化
を生む。
典型は安全保障ジレンマ。
相手を恐れて軍拡する → 相手も恐れる → 緊張が高まる。
たとえば
World War I
は、誇大妄想よりも
相互不信と恐怖の連鎖
が主要因だったという解釈がある。
恐怖は「やられる前にやる」という論理を生む。
2.躁モデル(攻勢的加速)
躁的高揚では:
- 歴史的使命感
- 国民的陶酔
- 批判の抑圧
- リスク軽視
が生じる。
たとえば
World War II
前夜の一部社会では、
- 国民的一体感
- 拡張的理想
- 高揚したナショナリズム
が見られた。
躁はブレーキを弱める。
Ⅱ.現代世界はどちらに近いか
現在の国際環境を情動的に見ると:
1.誇大高揚は限定的
世界的な陶酔ムードは弱い。
2.慢性的恐怖は存在
- 大国間競争
- 技術覇権
- 経済安全保障
- 台湾海峡緊張
- ウクライナ戦争
たとえば
United States
と
China
の関係は、
誇大というより「相互警戒」の構造に近い。
また
Russia
の行動も、拡張的誇大と同時に、
- 包囲されているという恐怖物語
を伴っている。
Ⅲ.なぜ恐怖が危険なのか
躁は目立つ。
恐怖は静かに進む。
恐怖の特徴:
- 防衛の名目を持つ
- 道徳的正当化が容易
- 同盟圧力が働く
恐怖は「合理的」に見える。
しかし恐怖が閾値を超えると、
誤認が戦争を引き起こす。
恐怖は計算ミスを誘発する。
Ⅳ.SNSと恐怖増幅
SNSは:
- 怒り
- 恐怖
- 被害物語
を増幅する。
これは外交的緊張を
国内世論の圧力
として固定化する。
恐怖が政治的に利用されると、
理性的緩衝が弱まる。
Ⅴ.複合モデル:恐怖が点火し、躁が燃焼させる
戦争の典型的プロセスは:
- 恐怖の蓄積
- 危機の発生
- 世論の急激な高揚
- 批判抑制
- 一体化
つまり、
恐怖が点火し、躁が加速する
二段階構造。
Ⅵ.抑止はどちらに効くか
- 抑止力は恐怖に効く(計算を変える)
- 熟議制度は躁に効く(高揚を抑える)
民主制度が健全であれば、
躁的暴走は抑えられる。
しかし恐怖が過度になると、
民主制度自体が例外状態へ移行する。
Ⅶ.では次の大戦は?
現段階で世界は:
高揚よりも慢性的恐怖の段階
に近い。
したがって危険は:
- 誤算
- 偶発的衝突
- エスカレーションの連鎖
である可能性が高い。
陶酔的世界大戦より、
管理不能な危機拡大
の方がリアルなリスク。
Ⅷ.最も危険な状態
最も危険なのは:
恐怖と屈辱が結合したとき
屈辱は承認欲求を刺激し、
恐怖は防衛衝動を強める。
この組み合わせは歴史的に不安定である。
