「心因性」の内容 夏樹静子『椅子がこわい―私の腰痛放浪記』2/3

本書における「心因性」の内容は、複数の層から成り立っています。整理してご説明します。


診断:「典型的な心身症」

心療内科医・平木英人は「典型的な心身症」という診断を下しました。 医学的には「心因性疼痛障害」と分類される状態で、身体には器質的な異常がないにもかかわらず、心理的・精神的な要因が身体症状(激しい痛み)として現れるものです。


「心因」の核心:何が原因だったか

① 「夏樹静子」という大きすぎる自己像

医師から著者に告げられた言葉として、「夏樹静子という誰にでも知られた大きな存在を支え続けることに、あなたの潜在意識が疲れきって耐えられなくなっているのです。あなたが腰や背中が自分を支えられないという、それは実にシンボリックな症状ですね」という指摘が紹介されています。つまり、腰や背中が「支えられない」という症状そのものが、心理状態の象徴として身体に出たというわけです。

② ワーカホリックと「3つの自分」の矛盾

自身の心では支えきれなくなったワーカホリックとしての夏樹静子から別れ、1年間かけて「出光静子」(本名)への再生を図ることが治療の柱となりました。

さらに、臨床心理学者・藤原勝紀(京都大学名誉教授)による外部からの考察として、「夏樹静子」(筆名)・「出光静子」(結婚後の姓)・「五十嵐静子」(旧姓)という3つの自己の矛盾が腰痛の深因だったと指摘されています。

③ 抑圧された感情(怒り・不安)

身体・感覚・感情・思考・行動・環境の諸要因が絡み合い影響を及ぼした「病的バランスの歪み」が原因であり、痛みは身体的な不調だけでなく、怒りの感情からも発症しうるものでした。腰の疼痛は「抑制された内なる魂の叫び」と表現されています。


治療のアプローチ

平木医師は自律訓練法・森田療法・絶食療法などを組み合わせ、「夏樹静子」という作家としての自己から離れ、本来の自分に立ち返る再生を1年かけて図りました。

著者自身は最後まで心因説に「腑が落ちる」感覚を持てていなかったといいますが、いつの間にか心因説が腑に落ち、熱海での治療後に嘘のように痛みが消えたといいます。


まとめ

ひと言でいえば、「ベストセラー作家・夏樹静子」として走り続けた結果、心が体に「もう限界だ」と悲鳴を上げ、それが激しい腰痛という形で現れた、ということです。本書はその経緯を当事者として誠実に綴ったことで、心身症の実態を世に広く伝える書となっています。

タイトルとURLをコピーしました