「今ここ」の例ですねん

患者が、カノジョとかアイツとの間で、なんかムカつくやり取りがあったとか言い出した時、医者はどないすんねん?大抵の医者は、そらもう根掘り葉掘り状況を聞き出して、患者がそのゴタゴタでどんな役回りやったんか理解させようとしたり、別のやり方ないんかいなと考えさせたり、心の奥底の動機を探ったり、相手の気持ちを勝手に想像したり、過去にも似たようなことやっとらんかパターンを探したりするやろな。まあ、昔からあるやり方やけど、アカンとこもあるんや。頭で考えただけの話になりがちやし、患者が言うてること自体がホンマかいなってことが多いからな。

せやけど、「今ここ」っちゅうのは、もっとええやり方やねん。「今ここ」で、そのヘンテコなやり取りと似たようなもん見つけるのがコツや。そしたら、話はもっとホンマっぽくなるし、すぐその場でどうにかできる。ちょいと例を挙げてみよか。

キースっちゅう、ワテよりずっと付き合いの長い患者で、精神療法の先生もやっとる人がおるんやけど、その人が成人した息子とエライ剣呑なやり取りがあったとか言うてきた。息子が初めて、家族の恒例の釣りキャンプの段取りをすることにしたらしい。息子の成長は嬉しいし、自分も楽できるんやけど、キースはどないしてもコントロールを手放せへん。それで、息子が考えた日程よりちょっと早めの日取りと違う場所を強引に主張したら、息子がブチ切れて、「お父さんは邪魔くさいし、支配的や!」って言うたんや。キースはガックリきて、もう二度と息子の愛も尊敬も得られへんのやないかと、ホンマにそう思てしもたらしい。

この状況で、ワテは何をすべきやろか?長い目で見たら、キースがコントロールを手放せへん理由を探るっちゅう課題がある。それはおいおい考えるとして、もっと今すぐやらなあかんのは、とりあえずキースを落ち着かせて、平常心を取り戻させることや。ワテはキースに、今回のいざこざは、息子との長年の愛情ある付き合いから見たら、ほんの一瞬の出来事に過ぎへんことを理解させようとした。会ったこともない息子の気持ちをあれこれ想像して、この一件を深く延々と分析するのは効率が悪いと思った。それよりも、「今ここ」でこの嫌な出来事と似たようなもんを見つけて、それに取り組む方がずっとええと考えたわけや。

ほんなら、どんな「今ここ」の出来事や?そこで、ウサギの耳っちゅうのが必要になるんや。実は、ワテは最近キースに患者を紹介したんやけど、その患者はキースと何回か会った後、もう来んようになった。キースはその患者がいなくなったことでエライ不安になって、前のセッションで「告白」するまでずーっと悩んでたんや。「ワテは先生に厳しく裁かれるやろな」「失敗したことで許してもらえへんやろな」「もう二度と患者を紹介してもらえへんやろな」って、キースはそう思てたんや。この二つの出来事の象徴的な類似点に注目してほしい――どっちの出来事でも、キースはたった一つの自分の行いが、大切な人の目に永遠の傷をつけてしまうと思い込んどるんや。

ワテは、もっと直接的で、今すぐどうにかできるっちゅう理由で、「今ここ」の出来事を追求することにした。ワテはキースの心配の対象やから、息子の気持ちをあれこれ推測するよりも、自分の気持ちを直接感じることができる。ワテはキースに、彼は完全にワテのことを誤解しとる、ワテは彼の優しさと思いやりを疑うてへんし、素晴らしい臨床の仕事をしとると確信しとると伝えた。この一件だけで、彼の長年の経験を全部無視するなんて考えられへんし、これからも彼に患者を紹介するとも言った。結局のところ、この「今ここ」での治療的な取り組みは、息子との危機に関する「あの時、あの場所」での調査よりもずっと力があったと思うし、息子との出来事の理屈っぽい分析なんかは忘れても、ワテら二人のやり取りはずっと覚えているやろうと確信しとる。

アリスっちゅう、もう一人旦那さんを血眼で探しとる六十歳の未亡人が、男と付き合っても、いつも説明もなくポッと消えてしまうっちゅう、散々な恋愛遍歴を嘆いとった。セラピーを始めて三ヶ月目、彼女は最近できた彼氏のモリスとクルーズに行ったんやけど、モリスは彼女が値切ったり、平気で列に割り込んだり、観光バスで一番ええ席をダッシュで取りに行ったりするのをホンマに嫌がっとったらしい。旅行の後、モリスは姿を消して、彼女の電話にも出んようになった。

モリスとの関係をあれこれ分析する代わりに、ワテはアリスとのワテ自身の関係に目を向けた。ワテも彼女から解放されたいと思てて、彼女がセラピーを終えるって言うてくれる嬉しい妄想を抱いとることに気づいとった。彼女は図々しく(そして見事に)セラピー料金をかなり値切ったくせに、ワテがそんな高い料金を取りよるなんて不公平やとずっと文句を言うてくる。その日の料金に見合う働きをしたかどうかとか、もっと安い老人割引料金にしてくれへんのかとか、料金について何か文句を言うのを決して忘れへん。その上、セッションが終わる間際に急ぎの用件を持ち出したり、「自分の時間で読んで」とか言うて日記とか、未亡人に関する記事とか、ジャーナリング療法とか、フロイトの考え方の間違いに関する記事とかをワテに渡したりして、セッション時間の延長を迫ってくる。全体的に、彼女はデリカシーがなくて、モリスにしたのと同じように、ワテらの関係を何か粗野なものに変えてしもとった。この「今ここ」の現実こそがワテらが取り組むべき場所やと気づいたし、彼女がワテとの関係をどないして粗野なもんしてしもたんかを優しく探っていくうちに、数ヶ月後には、ホンマにびっくりした年配の紳士たちが彼女からの謝罪の電話を受けることになったんや。

ミルドレッドっちゅう女は、子供の頃に性的虐待を受けて、旦那さんとの体の関係にエライ苦労しとって、夫婦関係は危機的状況やった。旦那さんが彼女に性的に触れるとすぐに、彼女は過去のトラウマ的な出来事を再体験し始めるらしい。このパターンがあるせいで、彼女がまず過去から解放されんと、旦那さんとの関係に取り組むのはホンマに難しかった――そらもう気が遠くなるような道のりやった。

ワテら二人の「今ここ」の関係を調べていくうちに、彼女がワテと関わるやり方と旦那さんと関わるやり方の間に、似たようなところがようけあることに気づいた。セッション中、ワテはしばしば無視されとるように感じた。彼女は面白い話をするし、ワテを長時間楽しませる力もあるんやけど、ワテは彼女と「一緒にいる」、つまり繋がって、関わって、親密で、お互い分かり合えるような感覚を持つのが難しいと感じた。彼女はダラダラ話して、ワテのことなんか何も聞かへんし、セッション中のワテの気持ちにほとんど関心も好奇心もないみたいやった。彼女はワテと関わる上で、決して「そこに」いなかった。徐々に、ワテらが二人の関係の「間」にあるものと、彼女の不在の程度、そして彼女によってワテがどれほど締め出されたと感じるかに焦点を当て続けた結果、ミルドレッドは自分が旦那さんをどれほど遠ざけていたかを理解し始めて、ある日、彼女はセッションをこう始めた。「なんだか分からないんですけど、どういうわけか、すごい発見をしたんです。セックスのとき、私は夫の目を決して見ないんです。」

アルバートっちゅう男は、ワテのオフィスまで一時間以上かけて通勤してきて、自分が利用されたと感じた時にしばしばパニックを起こしとった。彼は怒りに満ちていることを自覚しとったけど、それを表現する方法を見つけられへんかった。あるセッションで、彼はガールフレンドとのいらいらするような出会いを語った。彼の目には明らかに彼女は彼をもてあそんでいるように見えたけど、彼は彼女に立ち向かうことへの恐怖で身動きが取れへんかった。そのセッションはワテにとって繰り返しのようやった。多くのセッションで同じ内容にかなりの時間を費やしたけど、ワテは彼にほとんど助けを提供できていないと感じとった。ワテは彼がワテに対して不満を感じていることを感じることができた。彼は、多くの友人に相談したところ、皆ワテと同じようなことを言い、結局は彼女にハッキリ言うか、別れるようにアドバイスされたとほのめかしとった。ワテは彼の気持ちを代弁しようとした。「アルバートさん、このセッションであなたが経験しているかもしれないことを推測させてください。あなたはワテに会うために一時間かけて通い、かなりの金を払うとる。それなのに、ワテらは同じことを繰り返しているように見える。あなたはワテがあなたにあまり価値のあるもんを与えとらんと感じとる。ワテはあなたの友達と同じことを言うてるけど、彼らはそれを無料であなたに与える。あなたはワテに失望しとるに違いない。あなたにこれほど少ししか与えられへんことで、ワテに騙されたと感じ、腹を立てとるやろな。」彼は薄く微笑んで、ワテの評価がかなり正確であることを認めた。ワテはかなり核心をついとった。ワテは彼に自分の言葉でそれを繰り返すように頼んだ。彼はいくらか不安そうにそうしたが、ワテは、彼が望むものを与えられへんかったことは残念やけど、彼がこれらのことを直接ワテに言うてくれたことを非常に嬉しく思っていると答えた。お互いにもっと率直になる方がええと感じたし、彼は間接的にこれらの感情を伝えていたからや。このやり取り全体がアルバートにとって有益であることがわかった。ワテに対する彼の感情は、ガールフレンドに対する彼の感情のアナロジーであり、破滅的な結果なしにそれらを表現した経験は非常に教訓的やった。

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