シアトル市長選も市民が勝利

シアトル市長選も市民が勝利 ビッグテック本拠地で現職倒す ニューヨーク市長選に続く快挙もたらした地殻変動 2025年11月27日

米国ワシントン州シアトルの市長選がおこなわれ、「社会主義者」を自称するケイティ・ウィルソン氏(43)の当選が13日に確実となった。同市はアマゾンやマイクロソフトなどの「ビックテック」と呼ばれる大手テクノロジー企業をはじめ、物流大手のコストコやノルドストローム、またスターバックスなど世界的有名企業の本拠地でもある。これらの大企業は現職市長を後押ししたが、物価や住宅費の高騰が深刻化するなかで「安価で安定した住まいを」という市民要求をくみ取り、労働者や市民のために機能する市政を進める公約を打ち出したウィルソン氏が大幅に支持を伸ばし、政治家経験は皆無ながらわずか9カ月の選挙戦で当選を果たした。「資本主義の本拠地」でおこなわれた市長選挙という意味では、ニューヨーク市長選で当選を果たしたゾーラン・マムダニ氏の選挙とも共通点が多い。1%の富裕層のための独裁政治ではなく、99%の市民のための政治を求める世論と運動は米国中に拡大しており、米国内の地方選挙で次々に変化があらわれている。

 シアトル市長選は4日に開票を迎えたが、ワシントン州では郵便による投票が採用されているため、開票作業は18日現在も続いている。さらに今回の選挙はまれに見る接戦となったため、当選確実の報道が出るまでに時間を要した。しかし対抗馬であり現職市長のブルース・ハレル氏が13日に敗北演説をおこなったことでウィルソン氏の当選が確実となった。

 シアトル市の有権者登録者数は約50万5000人。13日時点で約28万票が集計された状況での得票数と得票率は以下の通り。

▼ケイティ・ウィルソン…13万8489票(50・2%)
▼ブルース・ハレル…13万6513票(49・5%)

 両者の得票数は僅差だが、今後ウィルソン氏とハレル氏の得票が逆転することはないとの見方が強く、現職のハレル氏が先に敗北を認めた。

市長選勝利を受け、ストライキ中のスターバックス従業員の前で演説するウィルソン氏(13日)

 現職の敗北宣言を受けて勝利演説をおこなったウィルソン氏は「今年はじめには、いかなる政治的地位にも立候補するつもりがなかった」と語った。だが、現在のシアトルの街はホームレス問題、労働者世帯にとって住居が手狭なこと、階級や人種、地域社会による分断の拡大といった大きな問題を抱えていることに触れ「9カ月前、私は市当局がシアトルの人々と足並みを揃えておらず、有権者が新たな方向性を求めていると感じたため、市長選に立候補することを決意した。そして私たちの問題には新たなリーダーシップが必要だと感じた。苦しい9カ月間だったが、今たたかいは終わり、団結するときが来た」とのべた。

 ウィルソン氏は、選挙期間を通じたキャンペーンの立役者は何千人ものボランティアだといい、「この9カ月間、時間とエネルギーと努力を捧げてくれた」と謝意をのべた。8月におこなわれた予備選挙以来、徹底した草の根運動により市民ボランティアが5万2000戸以上を訪問して支持を訴えたことに触れ「ボランティアの方々に感謝の意を表したい。彼らの努力なしには、この選挙戦に勝つことは到底不可能だった」とのべた。

 そして「富裕層は、私の当選を阻止するために(ハレル陣営の)政治活動委員会に約200万㌦を注ぎ込んだ。なぜなら私たちの街の一部の人々にとって、現状はまさに彼らの意図した通りに機能しているからだ。労働者や貧困層の人々にとっては住宅価格が高騰しているように見えるかもしれないが、一部の人々にとってはただのいつもの光景に過ぎない。彼らにはお金があるかもしれないが、私たちには人材がいた。そして、今回の選挙結果がそれを証明している」「私たちの街の労働者は疲弊している。彼らは何か新しいもの、より希望に満ち公正で公平なものを求めている。そして私は、私たちの共通のビジョンを実現するために人間として可能な限り全力を尽くしてたたかうことを決意している」とのべた。

 また、市長として実現したいことについて「この偉大な街のすべての人々に、屋根の下で暮らせる住まいを与えたい。普遍的な保育と、幼稚園から高校までの夏季保育の無償化、世界クラスの公共交通機関、子どもたちが思いきり走り回れる安全で快適な公共空間、賃貸住宅に住む人々のための安定した手頃な価格の公営住宅、企業ではなく地域社会がより多くの土地と富を所有し、管理することを望む。そして、活気のある中小企業、質の高い最低賃金の仕事、そして労働者の強力な権利を備えた力強い経済を望む。健康的な食事、医療へのアクセス、そして支え合うコミュニティなど、誰もが尊厳ある生活の基本を享受できる都市を望む。健康、平均寿命、そして子どもたちの未来が郵便番号や人種に左右されない都市を望む」とのべた。

 ウィルソン陣営に対する企業政治活動委員会の寄付は約41万㌦だったのに対し、現職のハレル市長陣営へのそれは約180万㌦と四倍以上にのぼった。大企業からの多額の支援をうけてたたかう現職に対し、ウィルソン氏は少ない資金ながら市民ボランティアを中心とした地道な戦略で勝利した。

 市内外のさまざまな労働組合や組織のほか、住民団体やシアトル市労働組合までも公式にウィルソン氏の支援に回った。

 一方、ハレル陣営は、ウィルソン氏が経験不足で公職に不適格な人材だという主張をくり返してネガティブキャンペーンを展開したが、すでに「経験豊富」な政治家に期待などしていない有権者がハレル氏になびくことはなかった。

 ウィルソン氏の当選確実の報道をうけ、先のニューヨーク市長選で当選を果たしたゾーラン・マムダニ氏は自身のソーシャルメディアでウィルソン氏を祝福し、「シアトルの有権者の声は届いている。彼らは新しい政治を求めている。企業政治活動委員会の資金提供を拒否し、働く人々のために尽くす政治だ。当選した市長とスタッフ一同、あなたの成功を祈っている。シアトルは素晴らしい手に委ねられている」と書き込んだ。

公約は市民要求を形に 住宅や公共交通など

 ウィルソン氏は今年初めのインタビューで「私は極端にイデオロギー的な人間ではなく、社会主義の旗を振り回しているわけでもない。そのレッテルが選挙で有利かどうかも分からないが、社会主義者と呼ばれても構わない」とのべている。

 20代の頃に現在の夫とシアトルに移住したウィルソン氏は、2011年にシアトルとキング郡の労働者組織「シアトル公共交通利用者組合」(TRU)の設立に共同設立者として携わり、現在事務局長を務めている。10年来同組織を率いて、ボランティアやスタッフたちの活動を指揮するとともに、交通機関の改善や労働者の賃金上昇、賃貸住宅の保護強化やより手頃な住宅価格を求める運動を組織してきた経験を持つ。

 こうした長年の活動のなかで庶民のコミュニティに根を張り、人々の経験に耳を傾け、交通、住宅、仕事に関する要求を把握するための調査チームを主導してきた。また、そうした調査をもとにシアトル市における法案の起草や可決、施行にも携わってきた。活動内容や市政に関する情報の広報キャンペーンにも携わり、記事や報告書を執筆しながら数百人のボランティアを育成。そして地元の非営利団体、労働組合、公選職員、市や郡の各部署の職員と連携して市民運動に根ざした市政変革の実現に尽力してきた。

 ウィルソン氏自身は政治家としての経験はまったくないものの、10年以上もの間人々の暮らしに根を張ったとりくみを通じてシアトル市における社会問題や市民要求をつかんできた。また、自身も選挙戦に出馬を決めて以降はニューヨークで大学教授をしている両親に育児費用を頼っていることを認めるなど、日々生活費が高騰するなかで生活費の捻出に苦労しているという。そうした活動のなかから生まれた要求をシアトル市長選の公約としてうち出し、その内容は広範な市民からの支持を獲得した。

 ウィルソン氏の公約は、先のニューヨーク市長選で当選したマムダニ氏の公約と共通する内容が多い。市民への手頃な公営住宅の拡充をはじめ労働者の生活に向けた政策や、連邦政府が公共予算を大きく削減するなか、市の財政基盤を強化して市民生活を支えるために大富豪に対する累進課税を導入することなどが含まれている。

 ウィルソン氏は自身のウェブサイトに、当選した場合に最優先してとりくむ事例として以下の公約を掲げている。

▼市内のホームレス問題へのとりくみ
 2021年の市長選で、ハレル市長は「就任1年目に2000戸の緊急住宅・シェルターを新設する」との公約をうち出した。だがその約束は果たされず、目標達成にはまったくほど遠い。ハレル氏の在任中、シアトルのシェルターの収容能力は毎年減少しており、とくに複雑なニーズを持つ人々に適した包括的なサービスを備えた非集合住宅型のシェルターの部屋が減ったことが大きな問題となっている。そのため今後4年間で4000戸の新たな緊急住宅および避難所の建設が必要だ。さらにフェンタニル等の薬物による「オピオイド危機」に対処するセンターの契約とリースをより効率的に実施する。

▼手頃な価格の住宅と住宅供給の問題
 シアトルでは、住宅の賃貸料や購入費があまりにも高すぎる。多くの世帯が収入の3分の1をゆうにこえる住宅費を支払っており、シアトルから完全に立ち去った人もいる。家賃の高騰はホームレスの増加も招く。指導者たちの怠慢をこれ以上容認できない。社会住宅を建設し、手頃な価格の住宅のために10億㌦の債券を目指すとともに、家主の慣行を改革し、悪徳家主や会社による住宅購入を制限する。

▼トランプに負けないシアトル
 セーフティネットプログラムの削減、地方サービスやインフラ整備事業を支える連邦政府の補助金削減、富裕層への減税、そして地域社会でもっとも弱い立場の人々への攻撃等、連邦政府の政策とたたかう。連邦政府の削減と行き過ぎた権限行使から身を守る市のリーダーが必要だ。累進的な収入を導入・利用して、連邦政府が削減した公共サービスを賄う。

▼交通と移動
 誰もが安全に手頃な価格で、そして効率的に目的地まで行く権利がある。シアトルの人口は増加し続けており、街にこれ以上車を増やす余裕がないなかで公共交通機関や自転車、歩行者インフラへの投資により多くの住民が車を使わずに街中を移動することを可能にする。

▼働く家族のための都市
 住宅費や保育料などの費用が急騰し、シアトルはますます住みにくい街になっている。幼い子どもを持つ家庭の多くが市外へ転出していることにより、就学率や財政危機、地域コミュニティの活気を失わせている。これに対し、賃金の引き上げから公共交通機関の運賃引き下げまで、働く世帯の懐にお金を取り戻す。さらに有給病気休暇や安全休暇法を拡張し、子どもが学校を休む夏季に有給休暇を取得できるよう有給休暇ポリシーを検討。対面診療法を拡大する。

 ウィルソン氏が掲げる公約には他にも「経済発展」「累進課税の導入」「気候変動対策」「公共の安全」の重点政策がある。

露骨な富裕層優遇への反発 公平に徴収せよの声

 シアトル市およびその周辺には、アマゾンやマイクロソフトといった大手テクノロジー企業が本社を構える他、グーグルやメタなどの支社も集まっている。テクノロジー分野における好景気と高収入によって支えられた多様な経済はさらに富裕層を惹きつけており、米国国勢調査によるとシアトルの世帯収入の中央値は全米50大都市のなかで3番目に高く、12万4473㌦(約1900万円)となっている。

 また、シアトル市があるワシントン州は全米でもっとも逆進的な税制を持つ州でもある。同州には所得税がないため、税収のほとんどが消費者からの売上と市民の財産から得られる。そのため貧しい人々ほど実効税率が高くなる一方で、富裕層の負担ははるかに低く抑えられている。大企業は所得税がないことを口実に従業員の給与を他の州よりも低く抑えることもできる。

 シアトルに大手テクノロジー企業をはじめとする世界的企業が集中している理由は、西海岸というアジアにもっとも近い港湾地域であり、カナダの経済都市・バンクーバーと接していることなど地理的条件も大きい。だがそれだけではなく、米国内でも有数の富裕層優遇税制が採用されていることも無関係ではない。こうした不平等税制を改め、公平に大企業から徴税するよう求める世論が市内でも高まってきた。

 また、テクノロジー企業の好景気が続くなかでシアトル市外から多くの労働力が職を求めて移住してくるため土地の価格が上がり、住宅ローンの負担が膨らんでいる。これにより、もともと住んでいた住民たちの固定資産税負担も大幅に増えている。交通渋滞も深刻化して大きな問題となっており、労働者や子育て世代が暮らしにくい街となっていくなかでシアトル圏を離れていく人もいる。市民が暮らしやすい街づくりの実現と、そのために安定した公営住宅を整備することは喫緊の課題となっていた。

住民投票運動の中から コミュニティと共に

シアトル市内のホームレスたちが暮らす「テントシティ」。現市政の下で撤去が進むも根本解決に至らず増え続けた

 新型コロナウイルスによるパンデミック以降、シアトルでは市民が暮らしていけないほど家賃や物価の高騰が加速してきた。労働者をはじめ市民の多くを占める低所得層の生活が圧迫されるなか、ここ数年間「住まいは権利」を求める市民運動が広がり、2023年と今年2月の二度にわたり公的な住宅整備・拡充を求める住民投票がおこなわれた。

 2023年の住民投票では、「公営住宅局」設立を圧倒的多数で承認。これにより混合所得住宅を取得・建設し、恒久的に手頃な価格で市の所有下に置くための新しい仕組みを実現させていた。公営住宅は主に低所得者層から中高所得者層を対象とした住宅で、居住者の家賃は月収の30%以下に設定されている。また、公的に所有されていることにより投機市場の影響を受けないため、自身の所得に見合う安定した居住が可能となる。

 今年2月の住民投票では、公営住宅局に対する資金提供の是非とその方法をめぐる投票がおこなわれた。この投票では既存の税収の一部を活用するか、新たに企業に対して課税を求めるかという案で争った。これまでシアトルでは、「ジャンプスタート税」を財源に、社会住宅開発業者に年間1000万㌦を支給していた。ジャンプスタート税は手頃な価格の住宅を賄うために民間雇用主に対して給与税を課すために2020年に導入されたもので、ウィルソン氏も当時は同税制の創設運動に大きく関わっていた。しかしハレル現市長はこのジャンプスタート税による財源を本来の住宅プロジェクトではなく「市の予算の均衡を図るため」として他の事業に振り向けると提案し、市民からの批判が強まっていた。

 2月の住民投票では、「アメリカ民主社会主義者(DSA)シアトル支部」が主体となって新たな税制を提案。その内容は、シアトルに拠点を置く企業で従業員に100万㌦をこえる高額報酬を支払っている場合、雇用主に対して超過分に5%の「超過報酬税」を課すというものだ。この新税制によって年間5000万㌦の歳入が見込まれるという。

 アマゾンやマイクロソフトをはじめとする大企業経営者・大富豪らによる「シアトル都市圏商工会議所」は新税制に反対し、従来のジャンプスタート税を引き継ぐ案を支持。現職のハレル市長やシアトル市議会を反対運動の旗頭として担ぎ、そこへ多額の資金をつぎ込んで新税制の導入を阻止しようとした。しかし、住民の投票の結果は、得票率63%対37%で大企業に対する新たな税制を導入する案が有権者からの圧倒的な支持を集め大勝した。

 この住民投票の勝利が市長選出馬の大きな決め手となったとウィルソン氏は語っており、今年3月に正式に市長選への出馬を決めた。重視する三つの課題は当初から「住宅問題」「ホームレス問題」「連邦政府の措置からシアトル市民を守ること」だった。出馬を決めたさいのインタビューで、ウィルソン氏は「この選挙戦では私は間違いなく劣勢だが、選挙活動が軌道に乗り一般市民の間で勢いが増すにつれ多くの支持を獲得できるようになるだろう」「私たちは街の人々の心に響く政策と計画を策定し、その勢いを増していくつもりだ」「有権者の声に耳を傾け、支援者企業ではなく市内の人々の利益のために統治する指導者が必要だ」と意気込みを語っていた。

 その言葉通り、今年8月におこなわれたシアトル市長選無党派予備選挙では、現職のハレル市長に10%近い差を付けて勝利し、短い期間で一気に市長選の最有力候補となった。

 こうした流れは、ニューヨーク市長選で4日に当選した同じ民主社会主義者を自称するゾーラン・マムダニ氏の選挙運動と共通している。

 「資本主義の首都」と呼ばれるニューヨークと、アマゾンやマイクロソフト、コストコ、スターバックス、など世界に名だたる大企業の本社が集中するシアトルという二つの都市は、巨大な商業都市という意味でも共通している。両市とも、大企業をより巨大化させるために後押しする行政運営が続いてきたなかで、家賃の高騰をはじめ物価高は加速し、貧富の格差が拡大して働く人々や子育て世代といった末端の市民に対する公的支援の乏しさが浮き彫りとなってきた。ニューヨーク市長に当選したマムダニ氏も、公共住宅整備を中心にこれまでさんざん優遇されてきた富裕層に対する課税を強化(正常化)する政策を訴え、多くの支持を集めた。

 米国内ではトランプ政府によっていっそう大富豪優遇政策がおし進められ、一方では連邦政府資金の削減や凍結、公務員削減などによって国民への公共サービスはどんどん縮小されている。一部の独裁者たちのための政治に対する批判は拡大しており、かつてない規模で全国的な抗議行動もくり広げられている。

 こうした動きと合わせて大きな特徴となっているのが、民主党の分裂だ。ニューヨーク市長選をたたかったマムダニ氏とその対抗馬クオモ氏も民主党の候補者で、シアトル市長選をたたかったウィルソン氏とハレル氏は互いに「無所属」での出馬ながら民主党員だ。両市長選ともに民主党の分裂選挙となったが、いずれもこれまで権力を手中におさめてきた「中道派」候補を、30代や40代の若い「社会主義者」を自称する候補が退けて当選を果たす結果となった。

 ニューヨークやシアトルといった商業都市での物価高騰による庶民の暮らしへの圧迫は米国のなかでも深刻度は高い。そんな市民の暮らしを救うために機能しない従来の民主党政治に対し、人々の期待はしぼみきっている。こうしたなかで、同じ民主党でありながら大企業や一部の者たちのための優遇政策をやめ、労働者や市民のための政治の実現を訴える「社会主義者」を自称する候補が急激に支持を拡大する流れが目立っている。こうした動きは米国における二大政党制の欺瞞を打ち壊す新たな勢力への期待の高まりを示しており、今後全米各地へと拡大する可能性をおおいにはらんでいる。


米国世論の変化示すニューヨーク市長選 社会主義唱えるマムダニ当選 トランプの足下から逆襲 「壊された公共取り戻せ」
国際2025年11月12日

米ニューヨーク市長選が4日投開票を迎え、元ニューヨーク州議会議員ゾーラン・マムダニ氏(34歳)が、過去最年少で当選を果たした。ウォール街を抱える「資本主義の象徴」であり、9・11テロが起きたニューヨークで、「民主社会主義者」を自認するイスラム教徒の候補者が当選を果たしたことは、米国のみならず世界に大きな衝撃を与えている。当初支持率1%台だったマムダニ氏が当選を果たすまでに支持を拡大した背景には、長年、米国政府やニューヨーク州・市のもとで大企業や富裕層優遇政策が進められる一方で、労働者など99%の市民の生活が犠牲にされてきた問題がある。ニューヨークに限らず、米国内では「ノー・キングス(王様はいらない)」運動にみられるように、独裁政治への抗議と政党や人種の枠組みをこえた民主主義をとり戻す世論と行動がかつてなく広がっている。今回の選挙結果はそうした機運を如実に反映するものとなっている。

 ニューヨーク市長選は、開票率91%の時点で、マムダニ氏の得票が50・4%の過半数に達した。日本時間の6日夜の時点(93・5%開票、残り14万5000票)の得票は以下の通り。

▼ゾーラン・マムダニ(民主党)…103万6051票(50・4%)
▼アンドリュー・クオモ(無所属)…85万4995票(41・6%)
▼カーティス・スリワ(共和党)…14万6137票(7・1%)

 市内にある5つの行政区のうち、ブロンクス地区、ブルックリン地区、マンハッタン地区、クイーンズ地区の4地区でマムダニ氏がトップの得票を得た。

 総投票者数は1969年以来で初めて200万人をこえた。また、ニューヨーク市選挙管理委員会によると、期日前投票は9日間で73万5317件の受け付けがあったという。これは、2021年におこなわれた前回のニューヨーク市長選の16万9879件の4倍以上の数字で、過去最多だ。

 『AP通信』の有権者調査によると、ニューヨーク市の30歳未満の有権者の7割以上がマムダニ氏に投票した。彼らは市の有権者のなかでは比較的少数であるものの、高齢の有権者に比べて、市長選挙に初めて投票する割合がはるかに高かった。

 当選を確実なものとしたマムダニ氏は4日、勝利演説でニューヨーク市民に向け、「この勝利はみなさんの勝利だ。そしてこのキャンペーンを誰にも止められない力へと育て上げた10万人以上のボランティアの皆さんの勝利でもある。皆さんのおかげで、私たちはこの街を、働く人々が再び愛し、暮らせる街にすることができる」と呼びかけた。

 そして、これまで億万長者階級によって労働者自身が分断されてきた長い歴史を断ち切り、「私たちは共に、変化の世代を先導する。そして、この勇敢な新たな道筋を、逃げるのではなく受け入れるならば、寡頭政治と権威主義に対し彼らが渇望する宥和政策ではなく、彼らが恐れる力で対抗できる」とのべた【演説全文は別掲】。

 マムダニ氏は選挙活動を通じて、バーニー・サンダース上院議員やアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員らと同様、「民主社会主義者」を自認してきた。有権者調査では、ニューヨーク市の有権者の約4分の1が民主社会主義者であると回答しており、30歳未満の約4割が同様の回答をしている。

 選挙当日、マムダニ陣営には10万人以上の市民ボランティアが所属しており、その多くは市内の大学キャンパスに拠点を置く全米自動車労働組合(UAW)の大規模な支部の組合員だった。マムダニ氏のウェブサイトによると、10万人以上のボランティアたちによって、300万件の戸別訪問、450万件の電話呼びかけが展開された。

 また、さまざまな労働組合や市民団体も後援に回ったことも大きな特徴となった。なかでも真っ先に支持した労組は全米自動車労組で、マムダニ氏への支持について「私たちに必要なのは、労働者階級を団結させて寡頭政治に対抗し、民主主義を再建する運動だ」と位置づけている。その他、バーニー・サンダース上院議員(無所属)、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員(民主党)も正式に支持を表明した。10月26日にはマムダニ氏とともに「ニューヨークは売り物ではない」と題する集会を開き、サンダース氏が今年全国各地で展開してきた集会で用いてきたスローガンを踏襲した内容を改めてニューヨーク市長選に向けてアピールした。

 サンダース氏は、ニューヨーク市長選の位置づけについて以下のようにコメントしている。

 「ニューヨーク市長選は極めて重要だ。ニューヨーク市にとってだけでなく、この国全体で起こっていることに対する非常に深いメッセージになるからだ。政治体制に対する深い嫌悪感があると思う。人々は真の変化を求めており、マムダニ氏が力強く勝利すれば、国中の人々が変化のために闘うよう鼓舞されるだろう」「この選挙の重要性は、ニューヨーク市長になることだけではない。選挙自体が非常に重要だ。米国最大の都市で、労働者階級の側に立つ市長、寡頭政治家に立ち向かう覚悟のある市長が、実際にうまく統治し、労働者階級の人々の生活を改善できることを示すことができれば、労働者階級の人々には自分たちのために立ち上がる代表者や市長を持つことができるという理解が国中に広がるだろう。そして、彼らは旧体制の政治をこえることができる」「この国中の人々は、億万長者階級がますます富を蓄え、民主党と共和党の両党を支配しているのを見ることにうんざりしていると思う。マムダニ氏が示しているのは、草の根運動が彼らに立ち向かい、打ち負かすことができるということだ。人々は寡頭政治家の強欲にうんざりしている。そして、マムダニ氏は、“もうたくさんだ。1%の富裕層ではなく、私たち自身を代表する人物を選出しよう”と人々がいい始めたことを完璧に体現している」。

恫喝に躍起なトランプ

 サンダース氏は、今年6月におこなわれた民主党市長選予備選でマムダニ氏を支持していた。この予備選でマムダニ議員が元ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモ氏や他の有力な民主党員を破り、政界を驚愕させた。

 だが予備選後、寡頭政治家や彼らと連携する有力民主党員や幹部らはマムダニ氏への支持を拒否または消極的な支持しか示さなかった。こうした勢力のバックアップを受ける形で、予備選に敗れたクオモ氏が「無所属」候補として市長選への出馬を決め、『ニューヨーク・タイムズ』は1面で「民主社会主義者を市長にするなど許されない」というキャンペーンをなりふり構わず打った。

 対抗馬のクオモ氏は選挙を通じてウォール街の支援を受け、社会主義やイスラム教徒への恐怖や嫌悪を煽るキャンペーンを展開。なかでもトランプ支持派のヘッジファンド王ビル・アックマンは私財100万㌦をクオモ陣営に投入。さらに元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグもクオモ当選のために830万㌦を費やしたと報じられている。その他、石油業界のシェブロン社取締役ジョン・ヘスや、共和党の大口献金者で化粧品業界の最高責任者ロン・ローダー、カジノ経営者のスティーブ・ウィンなど、あらゆる大富豪たちが巨額の献金を投入してクオモ陣営をバックアップした。

 こうした資金を元手に、攻撃的なネガティブキャンペーンが展開された。そこではマムダニを「社会主義者」と呼び、「ニューヨークをベネズエラやキューバに変える」などのパンフレットが大量に配布された。

 トランプ大統領も自身のSNSで「マムダニが当選すればニューヨーク市は経済的にも社会的にも完全な破綻に陥る」「彼は州議会でもまったくの無能で最下位の成績だった」などとコメントし、マムダニ氏が当選し市長に就任すれば、義務付けられた最低限の連邦資金以外を削減することや「州兵の投入」まで言及し、有権者に対する脅しをくり返した。

マムダニが掲げた公約とは

マムダニ氏の当選を喜ぶニューヨーク市民(4日)

 マムダニ氏は選挙戦のなかでさまざまな公約を打ち出したが、そのどれもがニューヨーク市で暮らす労働者の生活を支えるためのものであり、1%ではなく99%の市民のための政策を追求したものだ。こうした内容を左派ポピュリズムによる「過激」な政策だと主張する報道もあるが、支持が拡大した背景には、これまでの米国政府およびニューヨーク市の政治が大企業や富裕層を優遇し、庶民への支援や公共部門への予算を大幅に削ってきた経緯がある。こうした政治を正すための数々の政策が金融街ニューヨークを支える労働者や若者たちのなかで大きく支持を拡大した。マムダニ氏の選挙公約は、要旨以下のような内容となっている。

▼家賃の凍結
 ニューヨーク市の平均家賃は今年、月3800㌦(約58万円)に達した。ニューヨーク市民の大多数は賃借人で、そのうち200万人以上が「家賃安定化アパート」に暮らしている。家賃安定化アパートとは地方自治体が定めた割合までしか値上げできない住宅であり、借主を急激な家賃値上げから保護し、より安定した生活を提供するためのものだ。これには不当な立ち退きに対する保護が含まれる場合も多く、ニューヨークはこうした住宅がとくに多く整備されている地域でもある。マムダニ氏はこうした住宅について「ニューヨークの労働者にとって経済的安定の基盤となるべきだが、エリック・アダムス市長はあらゆる機会を利用して賃借人を圧迫し、みずからが選んだ家賃ガイドライン委員会の委員らが、安定化アパートの家賃を12・6%も引き上げ、現在も上昇中だ。これは共和党が市役所を率いて以来、最大の値上げだ」と批判している。マムダニ氏は労働者の家族が街を離れる最大の理由が「住宅危機」であるとし、こうした状況を変えるために安定した入居者全員の家賃をただちに凍結し、利用可能なあらゆる資源を活用してニューヨーク市民が必要とする住宅を建設し、家賃を引き下げることを訴えた。

▼高速で運賃無料のバス
 マムダニ氏は「公共交通機関は信頼性が高く、安全で、誰もが利用できるものでなければならない」とし、すべての市営バスの運賃を永久に無料化するとともに、優先レーンや専用乗降ゾーンの整備や優先信号機の拡充等を計画している。ニューヨーク市民の五人に一人が値上がりし続ける運賃を支払うのに苦労しており、さらにニューヨーク市のバスは全米でもっとも遅いといわれている。

▼コミュニティ安全局の創設
 同局はニューヨーク市全体のメンタルヘルスプログラムと危機対応への投資をおこなう。これには地下鉄100駅への専任支援員の配置、空き商業施設への医療サービスの提供、ニューヨーク市民の移動を支援する交通アンバサダーの増員などが含まれる。また、銃暴力防止プログラムの拡充、ヘイト暴力防止プログラムへの資金を800%増額する。

▼保育料無料化
 ニューヨークで働く家族にとって、家賃に次いでもっとも大きな負担が育児だ。6歳未満の子どもを持つニューヨーク市民の転出率は、他のすべての世帯の2倍にのぼる。マムダニ氏は生後六週間から5歳までのニューヨーク市民全員の保育料無償化を訴えている。また、保育士の4分の1が貧困状態にあることから、保育士の賃金を公立学校の教員と同等に引き上げることも公約に掲げている。

▼市営食料品店
 食料品価格の高騰が制御不能な状態となるなか、ニューヨーク市民の10人中約9人が、食料品の価格が収入を上回るペースで上昇していると答えている。マムダニ氏は、利益追求ではなく低価格維持に重点を置いた市営食料品店ネットワークの構築を掲げる。市営化によって家賃や固定資産税を支払わずに済むため、経費を削減し、その節約分を消費者に還元するという仕組みだ。卸売価格での仕入れと販売、倉庫と配送の集中化、そして商品や調達に関しては地域住民との連携を強化する。

▼ニューヨークによる、ニューヨークのための住宅
 市民の資金を有効活用し、今後10年間で20万戸の新築住宅を建設し、恒久的に手頃な価格で組合が建設し、家賃が安定した住宅の供給を3倍化する。さらに悪質な家主の取り締まりも強化する。賃貸世帯の10世帯に一世帯が昨冬は暖房が不十分だったと報告している。また、4世帯に1世帯が自宅にネズミがいると報告しており、約50万人が劣悪な住宅に住んでいる。マムダニ氏は「すべてのニューヨーカーは、安全で健康的な住まいを持つ権利がある」とし、テナント保護のための法令執行を一元化することで関係機関が連携し、所有者に建物の状態に対する責任を負わせるよう徹底。家主が修繕を拒否した場合、市が修繕をおこない、請求書を送付。家主がテナントへの継続的な配慮を怠った場合、市が介入して物件の管理を徹底し、最悪の場合家主は廃業に追い込まれる。

富裕層や大企業に課税

 以上のような政策を実現するための経済政策として、今回の市長選をめぐって大きな注目を集めたのが「大企業とニューヨークの富裕層への課税強化」だ。

 マムダニ氏の公約では、法人税率を現在の7・25%からニュージャージー州と同じ11・5%に引き上げる。これにより50億㌦の歳入を確保する。さらにニューヨークでもっとも裕福な上位1%、年収100万㌦(約1・5億円)以上の市民には、所得税率を一律2%引き上げる。現在、ニューヨーク市の所得税率は年収5万㌦でも500万㌦でも実質的に同じだからだ。

 マムダニ氏はこの公約について「過去60年間、富裕層の税率は大幅に低下してきたが、ドナルド・トランプほど貧困層から奪い、富裕層に与えようとしてきた人物はいない」と指摘している。

 最初のトランプ政権の代表的な政策が企業と富裕層への減税だった。これにより法人税率は35%から21%へと引き下げられ、米国の法人税率は1930年代以来最低水準に達している。この法人税減税だけですでに米国は1兆㌦の損失を被っている。それでもなおトランプ政府は現在、今後10年間で4兆㌦の費用がかかるさらなる減税を望んでいる。こうした減税と引き替えにメディケイドやフードスタンプ、公立学校、公共交通機関などへの支出など数兆㌦の国家予算を削減することもいとわないという姿勢を見せており、こうした政策に対して全米でかつてない批判が強まっている。

 マムダニ氏は「ニューヨークもトランプ大統領による公共サービスへの攻撃から逃れることはできない。市の予算は100億㌦、州の予算は900億㌦の連邦政府資金に依存している。これらの財源はすでに攻撃を受けており、災害救援プログラムが最初の標的の一つとなっている。そしてトランプ大統領がニューヨーク市交通局、公立学校、メディケイドに狙いを定めていることは周知の事実だ。簡単にいえば、私たちには反撃し、日々のニューヨーカーを守る以外に選択肢はない」と訴えている。そのためにもっとも収益性の高い企業と、もっとも裕福なニューヨーク市民への増税による政策資金調達を目指している。

 マムダニ氏は、ニューヨーク市では、年収5万㌦でも500万㌦でも、課せられる税率は全員同じだと指摘。さらに、州の法人税率は、隣接するニュージャージー州、コネチカット州、マサチューセッツ州、ペンシルベニア州、バーモント州、ロードアイランド州、ニューハンプシャー州よりも低い。1兆3000億㌦の経済規模という全米一の経済力を誇り、公共部門を支える余裕があるにもかかわらず、その経済力や安定性を労働者階級のために活用できていないニューヨークの課題を指摘している。

 マムダニ氏は対抗馬であり元知事のクオモ氏が在職時の10年間、企業や億万長者への課税を拒否し、教師や公立病院職員の年金を削減してきたこと、エリック・アダムス現市長の下では税法の執行がさらに悪化してきたことを指摘している。ニューヨーク州の法人税率はクオモ知事による法人税減税の結果、1970年代半ばの12%から1990年代半ばの10%、そして2014年には6・5%まで低下した。現在の最高法人税率は7・25%で近隣のすべての州よりも低い水準となっている。

 また、ニューヨーク市の納税者の上位1%(約3万4000世帯)は年間100万㌦以上の収入を得ている。このごくわずかな割合の人々がニューヨーク市住民全体の所得の35%を占める。彼らはトランプ大統領の最初の税制改革法案において、所得税率が39・6%から37%へと引き下げられたことですでに恩恵を受けている。また、この減税は次期連邦予算でも延長される見込みとなっており、マムダニ氏はこの層に対して2%増税を訴えている。それでも元の税率以下の水準だ。

 また、ニューヨーク市は米国最大の地方予算を有し、市役所には30万人の常勤職員を雇用しているが、一方で緊縮財政と職員採用の凍結によって約1万5000人分の雇用が空席のままとなっていることも指摘している。

 ニューヨーク市の予算は1150億㌦で、その内訳は市資金850億㌦、州資金200億㌦、連邦政府の資金100億㌦で構成されている。トランプが「凍結する」と脅している連邦資金は市の予算のなかでは10%に満たない。

 市資金850億㌦は、税金770億㌦と雑収入(罰金、水道料金等)80億㌦で構成されている。市の税収の内訳は以下の通り。

▼固定資産税…350億㌦(45%)
▼個人所得税…180億㌦(23%)
▼売上税…100億㌦(13%)
▼法人税65億㌦、非法人事業税30億㌦(12%)
▼残りはホテル税、住宅ローン税などの雑税

 市はおもに固定資産税に依存している。一方で、すべての納税者に対する所得税率は一律3・9%となっており、富裕層に高い税率を課す累進課税にはなっていない。

 今回のニューヨーク市長選で「富裕層への課税強化」が大きくとりあげられ、マムダニ氏に批判的な現地報道では「合計34%(290万人)の市民がニューヨーク市からの離脱を検討」などと報じてきた。だが、すでに米国内の他の州や市でも富裕層への増税を実施し、誰もが公平な負担を負うよう改革が進められている。そうした州や市の対応は、国による連邦予算削減に対抗するための自衛策でもある。

 マサチューセッツ州では、州議会が州全体に新たな「億万長者税」を制定。マムダニ氏の公約と同じ年収100万㌦以上から課税され、他の税負担に加えて4%の付加税が課せられる。これによって税収は22億㌦に達し、増収分はボストンの公共交通機関への投資に充てられる予定となっている。

 米国の首都ワシントンDCでも2021年に高所得者への増税を実施している。この増税は年収25万㌦以上の世帯からが対象となり、100万㌦以上の世帯に対しては限界税率が1・8%上昇した。

全米で転換望む声噴出

マムダニ陣営を支えたボランティアたち

 ニューヨーク市長選の投開票と同日、南部バージニア州と東部ニュージャージー州の両知事選も投開票を迎え、どちらも民主党候補が当選。共和党はトランプ大統領就任後初の地方選で3戦全敗となった。

 サンダース上院議員が今回のニューヨーク市長選を「ニューヨーク市にとってだけでなく、この国全体で起こっていることに対する非常に深いメッセージになる」と位置づけるように、米国内では億万長者たちによる独裁政治ではなく、市民のための政治をとりもどす世論と運動が全土に拡大しており、今後全米各地で今回のニューヨーク市長選のようなダイナミックな変革が次々に起きてもおかしくないすう勢にある。

 10月におこなわれた「ノー・キングス(王様などいらない)」全国行動では、全米50州の2700カ所で抗議集会やデモ行進が展開された。参加者は700万人にのぼり、トランプ政府発足後最大規模にまで膨れあがった。人々は政治的意見の相違をこえ、政党や人種など関係なく、一部の者たちによる独裁政治と腐敗を拒否し、「全米の国民の手に民主主義をとりもどそう」との呼びかけがかつてない規模で浸透している。

 こうした運動を主体的に組織しているのが全米の労働組合などで、彼らが一貫して呼びかけ続けているのは「体制側は皆が無力で現状を変えることはできないと信じ込ませようとしているが、それは嘘だ」「彼らにできたのなら私たちにもできる」という訴えだ。

 ニューヨーク市長選におけるマムダニ氏の当選は、一部の者たちに奪われ続けて来た歴史を転換し、市民みずからの手で市民のための政治をとりもどす運動によって力強く支えられた。ニューヨークという資本主義の中枢でおこったマムダニ氏の勝利は、米国内のみならず世界中に大きなインパクトを与えるとともに、市民のための政治をとりもどす全世界の運動に大きな力を与えるものとなった。

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