精神病理学の概念における統計的逸脱(Statistical Deviance)とは、病理的な心理現象を、異常(abnormal)、すなわち統計的に逸脱している、あるいは頻度が低いものであると見なす考え方です,。これは、精神病理学の「常識的」な概念として一般的に使用されています,。
概念の定義と利点
「アブノーマル(Abnormal)」は文字通り「規範(norm)から離れている」ことを意味し、「規範(norm)」は典型的または平均的なものを指します,。したがって、この概念は精神病理学を統計的な心理学的正常性からの逸脱と見なします,。
この概念の長所は以下の点にあります。
- 常識的な妥当性: パラノイア的妄想や幻聴といった比較的稀な行動や経験を指すために「精神病理的」という用語を使用することは、ほとんどの人々にとって理にかなっています,。実際、**希少性(rarity)**は、一般の人々がある状態を精神障害とみなすために不可欠としている条件の一つです(少なくとも米国において),。
- 科学的な測定適応性: この概念は、少なくとも科学的な体裁を保った測定方法に適しています,。統計的逸脱を科学的に採用する手順には、まず何が**統計的に正常(典型的、平均的)**であるかを決定し、次に特定の心理現象や状態がその正常性からどの程度逸脱しているかを決定することが含まれます,。これは、現象を定量化するための尺度を開発し、集団の平均(ノルム)と比較することで行われます,。平均から十分に離れたスコアは、「異常」または「病理的」な心理現象を示すものとみなされます,。
統計的逸脱の問題点と主観性
その常識的な魅力と科学的な測定可能性にもかかわらず、統計的逸脱の概念にはいくつかの根本的な問題があります,。
1. 逸脱の片側性
おそらく最も明白な問題は、我々が一般的に逸脱の「片側」のみを問題視していることです,。例えば、知的障害は統計的に逸脱しており病理的と見なされますが、統計的に逸脱している知的な天才は病理的とは見なされません,。同様に、大うつ病性障害は病理的ですが、無制限の楽観主義はそうではありません,。
2. 主観性の残存
心理現象を測定し規範を作成する確立された心理測定法に依存しているにもかかわらず、このアプローチには依然として主観性の余地が十分に残されています,。
- 構成概念の定義: 主観性が入り込む最初のポイントは、測定法を開発するための構成概念(construct)の概念的定義にあります,。例えば、「知能とは何か?」という問いに対する答えは人によって異なり、どの定義が「真実」あるいは「正しい」かを科学的かつ客観的に決定することはできません,。
- 境界線の決定: 異常あるいは病理的とみなされるためには、規範(ノルム)からどの程度逸脱していなければならないかという決定において、主観性が影響します,。この問いは、心理測定学の科学によって答えられるものではなく、議論の問題です,。
我々は通常、平均スコアから標準偏差の1つか2つの逸脱を正常と異常の境界線として使用するなど、統計的な慣習に頼ることがありますが、この慣習を使用するという決定自体が主観的です,。なぜなら、慣習とは人々によって作られた合意や契約であり、世界についての真実や事実ではないからです,。正常と異常の間の境界線は、限られたリソースの受給資格基準を決定するなど、特定の目的のために引かれることがありますが、どの境界線も他の境界線より多かれ少なかれ「真実」であるわけではありません,。
科学の手法は、温度計の「暑い」と「寒い」の間に決定的な境界線を引けないのと同様に、正常な心理的機能と異常な心理的機能の間に決定的な境界線を引くために使うことはできません,。そのような境界線は、発見を待って自然界に存在しているわけではないのです,。
