**スキーマモード(Schema Mode)**は、スキーマ療法において、個人にその瞬間生じている感情状態やコーピング(対処)反応を指す概念です。
早期不適応スキーマが「性格特性(常に持っているパターン)」であるのに対し、スキーマモードは**「状態(今この瞬間の現れ)」**を表します。
1. スキーマモードの定義と背景
スキーマモードは、特定の状況(「感情のボタン」)によって引き起こされる、一時的かつ支配的な心の状態です。
- 「状態」としての視点: 例えば、ある人が「欠陥スキーマ」を持っていても、常に自分をダメだと思っているわけではありません。しかし、批判されるなどのトリガーによって、そのスキーマが活性化し、激しい恥や無力感に支配されたとき、その人は特定の「モード」にあると言えます。
- BPD(境界性パーソナリティ障害)への適用: この概念は、感情や行動が極めて不安定で、ある瞬間は激怒し、次の瞬間にはひどく落ち込むといった急激な切り替え(フリップ)を見せるBPD患者を理解し、治療するために開発されました。
2. 10種類のスキーマモードと4つのカテゴリ
現在、主要な10のモードが特定されており、大きく4つのカテゴリに分類されています。
① 子供モード(Child Modes)
人間が生まれつき持っている普遍的なモードです。
- 脆弱な子供: 見捨てられ、虐待、剥奪などのスキーマを直接経験し、恐怖や悲しみ、無力感を感じている状態。
- 怒りの子供: 満たされないニーズに対して激怒し、結果を顧みずに怒りをぶつける状態。
- 衝動的・無規律な子供: 欲望のままに、無謀に瞬間的な衝動に従う状態。
- 幸せな子供: 中核的な感情的ニーズが満たされ、安心し、楽しんでいる健康な状態。
② 不適応なコーピングモード(Dysfunctional Coping Modes)
スキーマの痛みから逃れるために発達させた対処様式です。
- 従順な降伏者: スキーマに屈服し、他人に従う受動的で無力な状態。
- 分離した保護者: 感情を遮断し、物質乱用や引きこもり、回避によって痛みから心理的に撤退する状態。
- 過剰補償者: 他人を支配したり虐待したりするなど、極端な行動でスキーマに反撃する状態。
③ 不適応な親モード(Dysfunctional Parent Modes)
幼少期に内面化した親の態度が再現されたものです。
- 罰する親: 「お前は悪い子だ」と、脆弱な子供モードを罰し、自己嫌悪を抱かせる状態。
- 要求する親: 常に高い基準を課し、完璧であることを強いる状態。
④ 健康な大人モード(Healthy Adult Mode)
患者の健康的で適応的な側面です。他の不適応なモードを管理し、癒し、中和する役割を担います。
3. 解離状態としての側面
スキーマモードは、**「自己の側面がどの程度統合されているか」**という解離のスペクトラム上で考えることができます。
- 健康的: 「悲しみと喜びを同時に感じる(ほろ苦い)」といった、複数のモードの混合や統合が可能です。
- 不適応(BPDなど): 各モードがバラバラに切り離されており、あるモードにあるときは他の側面にアクセスできず、感情が純粋かつ強烈な形で現れます。
4. 治療の目標
スキーマ療法におけるモードワークの主な目標は、「健康な大人モード」を強化することです。 具体的には、以下のようなプロセスを進めます。
- 罰する親モードや要求する親モードを特定し、その影響力を弱める(戦闘・中和)。
- 脆弱な子供モードを世話し、慰め、中核的なニーズを満たす(癒し・養育)。
- 不適応なコーピングモードの機能を理解し、より健康的な行動に置き換える。
たとえ: スキーマモードは、一人の人間の中に住んでいる**「劇団の役者たち」のようなものです。普段は静かに出番を待っていますが、何かの拍子に「脆弱な子供」が舞台に飛び出して泣き叫んだり、それを「罰する親」が舞台袖から怒鳴りつけたりします。治療とは、バラバラに暴れている役者たちを、「健康な大人」という名監督**がまとめ上げ、一貫性のある一幕の劇(人生)として調和させていくプロセスだと言えます。
