これは臨床の分水嶺です。
しかも多くの場合、はっきりしたイベントではなく、静かに越えられます。
以下、
「空白」→「抑うつ」へ転化する臨界点を、兆候・力動・介入可能点に分けて整理します。
Ⅰ.空白と抑うつは同じではない(まずここ)
空白
- 感情が少ない
- 評価が止まっている
- 善悪・意味づけをしない
- 苦痛は語られないが、耐えられている
抑うつ
- 自己評価が低下する
- 過去が否定的に再解釈される
- 未来が閉じる
- 苦痛が自己に向かう
👉 臨界点とは
「評価」が再起動する瞬間です。
Ⅱ.臨界点はどこで起こるか(5つの典型)
① 他者の評価が侵入した瞬間
例:
- 「良くなったんだから、何かしなきゃ」
- 「もう大丈夫ですよね?」
👉 空白は
他者の期待に晒された瞬間に壊れる
② 時間が再び「人生単位」になった瞬間
- 「この先どうする?」
- 「老後は?」
- 「働ける?」
👉
一日単位 → 人生単位
この拡張が抑うつを呼ぶ
③ 妄想期の人生が“失敗”として語られた瞬間
本人の内語:
- 「あれは無駄だった」
- 「自分はおかしかった」
👉 空白が
自己否定に吸収される
④ 身体リズムが崩れた瞬間
- 早朝覚醒
- 食欲低下
- 倦怠感
👉 意味以前に
身体が抑うつ側に傾く
⑤ 治療者が「次の課題」を出した瞬間
- 就労
- 社会復帰
- 目標設定
👉 空白は
タスク化に耐えない
Ⅲ.最も危険なサイン(臨床的レッドフラッグ)
次の言葉が出たら要注意:
- 「自分は空っぽだ」
- 「何も感じないのはおかしい」
- 「このままでいいわけがない」
👉
空白を“異常”と感じ始めた時点で、
抑うつ化が始まっています。
Ⅳ.力動的に何が起きているか
核心はこれです:
妄想が担っていた“自己肯定機能”が消え、
代替がないまま、評価機能だけが戻る
- 妄想期:
歪んでいても「自分は重要だった」 - 退色後:
重要である理由が消える
👉 ここで
超自我だけが先に復活すると抑うつになる
Ⅴ.臨界点を越えさせない介入(具体)
1. 評価を停止する言葉を明示的に置く
「今は、何者かにならなくていい時期です」
これは治療的宣言です。
2. 時間を縮める問いに戻す
×「これからどうする?」
○「今日はどうでした?」
3. 妄想期を“否定しない歴史”にする
「あの頃は、ああやって生き延びていた」
👉 功能を認める
(正しさは問わない)
4. 身体介入を優先する
- 睡眠
- 光
- 歩行
- 食事
👉 意味づけは後回し
Ⅵ.どうしても抑うつに入った場合
重要なのは:
- 「空白を失敗扱いしない」
- 「抑うつを二次障害として捉える」
この抑うつは、
- 性格でも
- 回復失敗でもなく
👉 移行期反応です。
Ⅶ.一文で言うなら(臨界点の定義)
空白が抑うつに変わる臨界点とは、
“評価が先に戻ってしまった瞬間”である。
