**「治す」ではなく「戻す」**という言葉が最も正確な局面です。
しかも戻す先は「元の元気」ではなく、
**抑うつに入る直前の“空白が保たれていた場所”**です。
以下、臨床で実際に機能する戻し方を、段階別に示します。
Ⅰ.大前提:この抑うつは“病像”ではない
まず治療者が腹を決める必要があります。
- 性格の問題ではない
- 治療失敗でもない
- 「本来のうつ病」でもない
👉
意味の構造が壊れたことによる反応性抑うつです。
これを間違えると、
- 抗うつ薬増量
- 認知修正
- 目標再設定
で、さらに悪化します。
Ⅱ.第一段階:評価を完全に止める(最重要)
1. 治療関係内で「評価禁止区」を作る
明示的に言葉にします。
「良い・悪いは、今は全部脇に置きましょう」
これは心理教育ではなく環境操作です。
2. 抑うつ症状を測らない
- 点数化しない
- 改善を追わない
- 「気分は何点?」と聞かない
👉
評価=抑うつを固定化する
Ⅲ.第二段階:身体から“時間を巻き戻す”
1. 睡眠は「量」より「位置」
- 何時間眠れたか → 問わない
- 起床時刻だけを固定
👉 時間軸を戻す
2. 動かすのは「意味のない身体」
- 散歩
- 風に当たる
- 窓を開ける
👉 達成感は不要
Ⅳ.第三段階:自己否定を“過去形”にする
抑うつ期には、
内語が現在形・断定形になります。
- 「自分はダメだ」
- 「空っぽだ」
これを直接否定しない。
代わりに、
「そう思う時期に入っている感じですね」
👉
自己評価を状態表現に変換する
Ⅴ.第四段階:妄想期を“否定しない”で回収する
ここが非常に重要です。
×「あれは病気だった」
○「あのやり方で、しばらく生き延びていた」
👉
妄想期=誤り
ではなく
妄想期=機能として扱う
Ⅵ.薬物療法の位置づけ(慎重に)
1. 抗うつ薬は「橋」としてのみ
- 目的:
抑うつを取る → ❌
評価の過活動を鈍らせる → ⭕ - 少量・短期・増やさない
2. 抗精神病薬の再増量は慎重に
- 不安・焦燥が強い場合のみ
- 「元に戻す」量に
👉 抑うつを“麻痺”させない
Ⅶ.第五段階:関係を“成果非依存”に戻す
実践的には
- 定期的に会う
- 話題がなくても会う
- 変化がなくても会う
👉
会うこと自体が治療
Ⅷ.回復のサイン(見逃しやすい)
良くなると:
- 抑うつを語らなくなる
- 良くなったとも言わない
- 天気・体調・雑談が増える
👉
意味が後景化する
Ⅸ.一文で言うなら(戻し方の核心)
抑うつに入ってしまった後の戻し方とは、
評価を止め、時間を縮め、存在を条件なしに戻すことである。
Ⅹ.治療者への注意(本音)
この局面は、
- 退屈
- 手応えがない
- 成果が見えない
👉 だからこそ、
治療的に最も価値が高い
