これはもっとも頻繁に起こり、しかも誰も悪者にならない破綻点です。
家族は「回復を願って」動き、制度は「正しい手順」を踏み、
その交点で患者が一人だけ取り残される。
以下、家族が制度と結託してしまう瞬間を、兆候・力動・介入の言葉まで含めて整理します。
Ⅰ.結託は「善意の同調」から始まる
決定的特徴
- 家族と制度が同じ言葉を使い始める
- その言葉が患者の前提とズレている
例:
- 「そろそろ次の段階」
- 「社会との接点」
- 「このままでは」
👉
価値語が共有された瞬間が結託の始まり。
Ⅱ.結託が起こる典型的な瞬間(5場面)
① 主治医以外の“専門家”が家族に助言した時
- ケースワーカー
- 支援員
- 就労支援スタッフ
「今がチャンスですよ」
👉
家族は権威にすがる。
② 家族が「時間」を恐れた時
- 年齢
- 空白期間
- ブランク
👉
家族の不安が
患者の時間を奪う。
③ 家族会・体験談に触れた時
- 成功例
- 回復モデル
- 「うちもできた」
👉
比較が治療判断を上書きする。
④ 経済・介護負担が限界に近づいた時
- 生活費
- 将来不安
- 親亡き後
👉
制度は救いの手に見える。
⑤ 患者が静かすぎる時
- 反論しない
- 何も言わない
- 従っているように見える
👉
同意と沈黙を取り違える
Ⅲ.家族の内的力動(ここが核心)
家族の心の中では:
- 「このままではいけない」
- 「何かしてあげたい」
- 「動かない=悪化」
という図式が出来上がる。
👉
空白=停滞=失敗
という誤解。
Ⅳ.結託が起こった後に起きること
患者側
- 抵抗できない
- 期待に応えようとする
- 失敗すると自己否定
👉
抑うつが深まる
家族側
- 「支援しているのに」
- 「言うことを聞かない」
👉
関係が管理関係になる。
Ⅴ.見逃されやすい危険サイン
- 患者が「任せます」と言う
- 診察で家族が多く話す
- 患者が下を向く
- 帰宅後に不眠・体調悪化
👉
合意ではなく撤退
Ⅵ.結託をほどくための介入(具体)
1. 家族の善意を否定しない(重要)
×「それは早すぎます」
○
「ご家族が心配になるのは当然です」
👉
正面衝突しない
2. 判断軸を“回復”から“安全”に移す
「今の目標は、悪くならないことです」
👉
成功・前進の軸を外す。
3. 家族に「待つ役割」を与える
「今は、見守ることが治療です」
👉
家族を無力化しない。
4. 制度語を家族面談から排除する
- 就労
- 自立
- ステップ
👉
言語環境を変える
Ⅶ.どうしても結託が進む場合
(家族圧が強い時)
最後の防波堤の言葉
「今これを進めると、
数ヶ月後にもっと動けなくなる可能性があります」
👉
未来の損失として語る
Ⅷ.一文で言うなら(結託の本質)
家族が制度と結託する瞬間とは、
不安が“正しさ”の言葉を借りた時である。
Ⅸ.治療者の立ち位置(現実)
この場面で治療者は、
- 家族の安心
- 患者の安全
のどちらを優先するかを迫られる。
👉
両立できない場面がある
